東京医大の女性差別問題が燃えに燃えている。

東京医大、女子受験生を一律減点…合格者数抑制

東京医科大(東京)が今年2月に行った医学部医学科の一般入試で、女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが関係者の話でわかった。女子だけに不利な操作は、受験者側に一切の説明がないまま2011年頃から続いていた。

この問題は、入試という本来公平であるべき試験での性差別という問題があってか、異例の炎上っぷりを示している。

 

まず大前提として、公平でない入試を行った事は問題だ。

現段階では本当に行ったのかどうかはわからないけど、入試は公平であるべきというのは当然の話だ。

 

けど、そもそもの問題として、じゃあなんで悪いことだと承知の上で差別を行ったのだろうか?

実はその問題をみていくと、やらざるを得ないからやってしまったという問題が背景に隠れている可能性がある。

 

この問題は本当に難しい。何がどう難しいのかを外部の人が理解するのは難しいと思うので、以下現場からの実感を書いていこうと思う。

 

現場が男を欲しがる気持ちは痛いほどよくわかる

東京医大は「女性医師は出産などでやめる人が多いから、男の学生が欲しかった」と言ったという風に言われているけど、実際問題、これは現場にいる人からすれば、かなりリアルな話ではある。

これについて、ネットでは「女性も働きやすい環境にすればよい」との声があがっているけど、事はそう簡単ではない。

 

まず大前提として、医療は普通の仕事と違っていつどこで患者が具合が悪くなるのかは全く読めない。

だからホワイトカラーのように9時5時勤務みたいな、割り切った労働を設定する事は、利用者側の利便性を犠牲にしない限り不可能だ。

 

例えばだけど、よく悪く言われる日本の「3時間待ち。5分診療」というものがある。

3時間もまったのに、5分しか診てもらえないという事に憤った事からいわれるこれだけど、じゃあ医者のQOLを確保すると、どうなるのかご存知だろうか。

 

デンマークの光と影―福祉社会とネオリベラリズムという本に、福祉国家として成功を収めていると評判のデンマークでの医療の事情が詳しく書かれている。

この本によると福祉国家として成功した北欧では、そもそも医者にかかるまでに2週間も待つ必要があるのだという。2時間ではない。2週間である。

そう考えると、むしろ3時間待とうがその日のうちに必ず受診できる日本の医療が逆に凄い事のように思えないだろうか?

 

実はこのように、医者のQOLをキチンと徹底して管理すると、今の日本のようなコンビニ感覚での医療の提供など全くできなくなる。

今の日本の医療の質は、現場の医者の、文字通り身を粉にしたような働き方で成立している。この環境が「女性が働きやすい環境」ではないのは事実だし、実際問題、男性だって働きやすい環境ではないのは事実だ。

 

じゃあ利用者として、みなさんは今から、明日から病院にかかるのに2週間も待つような環境を受け入れられるだろうか?

女医さんが働きやすい環境を提供するためには、医療者側の問題だけじゃなくて、医療を受ける側の態度だって問題になってくるのである。

 

山奥に誰がいく?真夜中に誰が働く?

僕も毎日山のように訪れる患者をさばきつつ、入院患者の問題もこなしていると、文字通り24時間勤務となってしまう事は普通にザラだ。これに急変でヘルプを頼まれた日には、それこそ目も当てられないような有様に直面する。

 

「人手を増やして、シフト制にすればいいじゃん?」と思われるかもしれない。

まあ医者を増やして社会保障費が山ほど上がることを受け入れられたら、それは実現可能かもしれない。ただし大都市圏では、だけど。

 

医療はそもそもの性質として、一極集中が難しい。

よく無医村なんかが問題になったりする事があるけれど、山奥だろうがどんな過疎地だろうが、医者は最低1人は必要だ。

 

じゃあ問題は、そういう所に誰が行くのか、という話である。

当然というか、黙っていると誰も行きたがらないので、日本では医局というマフィアみたいな集団が、当番制である程度の派遣みたいな業務を行うことでこれを解決しているのだけど、こういう所に妊娠・出産の絡んだ人を出すのは相当に残酷だ。

 

こういう時、若くて働く気のある男が一人いると、心情的に割と楽に送り出せるというのは、まあ仕方がない事実だ。

送り出される方も、お金はそこそこもらえるし、働いて実力も身につくし、人によってはそこで若い女の子と遊べたりと、まあメリットが無くもなかったりするのがまた難しい。

 

夜中の勤務だって問題だ。真夜中に腸管穿孔を起こした人は、空いた穴を塞がないとこの方は亡くなってしまう。

こういう時に、妊娠・出産で働いている女性を駆り出すのはも相当に残酷だろう。結局、若くてガッツのある男の医者が呼ばれる傾向にあるのは、しょうがないけど事実ではある。

 

このように、東京医大だって、差別をやりたくてやったんじゃなくて、男が一刻も早く欲しいという事情が背景にある事を知れば、やったことが褒められた事ではないにしろ、まあ心情的には同情できやしないだろうか?

 

医療利用者のみなさん、サービスの質の低下の可能性を受け入れられますか?

まず大前提として、公平であることが前提とされている入試において、東京医大のやった事は許しがたい。

その上で言えるのは、じゃあ医療の受け取り手の皆さんは、多額のお金を払い、かつ現場が崩壊するリスクまでを背負ってまで、男女平等という正しさを追求したいのかという事である。

 

もし仮に今回の事件が端となり、入試での男女平等が徹底された場合、恐らくだけど、その男女平等は医者の勤務にすら適応されるのが妥当となるだろう。

そうなると、女性の医者も妊娠しようが出産しようが、夜中に呼ばれたり、僻地に飛ばされたりするのが、真の意味での”男女平等”となる。

 

まあそこまでやるのは問題だという事になったら、妊娠・出産を終えた段階から、夜勤の嵐がやってきたり、僻地に飛ばされたりが発生するわけだけど、個人的には年取ってからあれをやらされるのは個人的には結構キツイと思う。

個人的な実感からも、若いからなんとかやれたってのは事実だと思うし。

 

医者の数を増やすなら増やすで、社会保障費の増額が必要だ。ただでさえ重い税金が、さらに私達に重くのしかかることを、私達は果たして全力で支持できるだろうか?

更に言えば、現場がよくなるまでは最低でも現状では6年はかかる。

じゃあその6年間、私達は「3時間待ち5分診療」から、2週間待ち以上の利用者にとって不便な診療を受け入れられるだろうか?

オマケに6年経って、ようやく2週間待ちになる有様である。

 

男女平等だから、夜間の緊急事態はママ女医に優しくないという理由で”男女平等”に診療拒否が可能になったとして、夜間に緊急ごとが起きたのは患者の責任であり、それを寿命だと受け入れ、甘んじて私達は死を受け入れられるだろうか?

 

僕はそう考えると、功利主義的には今の男性有利な医療の入試状況が仮に行われているとして、全てのメリット・デメリットを考えると、これはもう仕方がない事なのかもな、と思う。

夜間診療や僻地医療の任を男性が重点的に担うのは、入試の男性優位のデメリットの補完と考えれば、それで性差の禊はある意味十分だと僕は思うのだけど。

 

これを読んだみなさんは、果たしてどうお考えになられるでしょう?男女平等という理想の実現の為に、現場をぶっ壊した結果、果たしてみんなの総幸福量は上がるのでしょうか?

 

理想は大事だけど、現実的である事も、同じ以上に大事だと僕は思うのですけどね。

理想の実現の為に、現実をぶっ壊すのは、カルト宗教のやってる神の国の実現とあまり大差ないと僕は思うのだけど。

 

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高須賀

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(Photo:Michael Kappel