今から数年前……日本に巨大な隕石みたいなモノがドカンと落ちてきた…らしい。

……まぁ理由は知りませんが、そんなこんなで『就職氷河期』は始まりました。

 

凍てつく寒さの中で、多くの就活者が凍死。私も寒さに震えながら懸命に就活をする若者の一人でありました。

なんとか生き延びようと仕事を探しにハローワークに向かうと……そこは独自の進化を遂げたモンスターで溢れかえっていました。

「オレを殺すつもりか!」と時にハロワ職員を突き飛ばすモンスター。

突然イスを蹴り飛ばすモンスター。

モンスター対モンスターなんてのもある。

 

みんな仕事が見つからない怒りや悲しみを向ける場所がどこにも無かったんだと思う。

しかし自分よりもはるか年上の大人たちが、「仕事が無い!おれはもう死ぬしか無いんだ!」とかなんとかハロワで泣き叫び暴れる姿を見るのはとてつもない苦痛でした。

(自分も将来あんなモンスターになるのかなぁ)と、想像してしまう。

「死にたいのはコッチのほうだ!」と逆に叫んでやりたい気分になった。

その日も、面接にすら辿り着かず。

仕事が見つからないまま帰宅。家に帰ると、祖母が出迎えてくれました。

「どうだった?仕事見つかった?」

「いやぁ、ぜんぜんダメだったよ」と正直に私は答えます。

「やっぱりねぇ~」とため息をつく祖母。

釣られて私も一緒にため息をつく。

すると祖母が私を励ますためか?こんなことを言い出しました。

「お父さんも昔は仕事が見つからなくてねぇ~?」

と……心の中で突っ込んだ。

私は就職氷河期真っただ中だけれど……父は『華のバブル世代』仕事なんて腐るほどあったハズ。

(一緒にされたくないなぁ)と少し嫌な気分になりましたが………おしゃべり好きな祖母は、バブル時代の就活話を一方的に始めました。

 

父は学校を卒業後、バリバリの無職だったらしい。

冷静に考えてみれば、それは至極当然の話で………

まず私の曾祖父は若い頃に会社でイジメられてから、引きこもり歴40数年のキンブオブ無職。

さらに祖父は酒と博打で家に一銭の金も入れないチンピラ無職。(※たまには働いていたらしい)

そんな『エリート無職』である父が無職になったのは、もはや宿命だとさえ思う。

そんな働かない息子を心配した祖母は、私に声をかけたように父にも尋ねたらしい。

「どう?やりたい仕事は見つからない?」

……すると父はこう答えたそうだ。

………………………………………………

……………………………………

……………………

……………

……?

もし無職の息子が「漫画家になりたい!」と言い出したら、あなたならどう答えますか?

うちの祖母はこう答えそうだ。

(なにがわかったんだろうか?)そして祖母は父の手を引いて都会へ向かい……。

デザイン事務所らしき場所(?)に突撃した。

「息子をここで働かせて下さい!」と頭を下げる祖母。

デザイン会社の人々はさぞ驚いた(迷惑だった)ことだろう。

とつぜん事務所に20歳前後の息子を連れた中年女性がやってきて、「息子を働かせてくれ!」と懇願し始めたのです……。

「奥さん無理ですよ…」とたじろぐデザイン事務所の社員さん。

「お給料は要りません!置いてくれるだけで良いですから!」としつこく何度も何度も頭を下げる祖母。

もちろん「そうですか!それなら良いですよ!」……とはならない。

祖母と父はアッサリ追い返されたそうだ。

すると祖母は……

と言って、さらに次のデザイン事務所に向かったそうだ。

そして同じように「息子を働かせてください!」と必死にお願いし続けたらしい。

しかし……………そうやって頭を下げて回っていると……なんと…………なんと…………

「うちで息子さんを引き受けますよ!」と言い出す会社があったそうだ。

すごい…………奇特な人もいたものだ……

こうして父は就職を決めた。

……こんなメチャクチャな身内の話を聞いていると、私としては頭と胸が同時に痛くなりました。

(これが私の祖母と父だと………!?)

成人した無職の息子の手を引いて「就職させてください!」と会社に突撃しまくった祖母……

良い話風には聞こえるが、ただの異常者による就活話である。

私は苦笑いして「えーすごいねー」と薄いリアクションをとるので精一杯。

孫に褒められた祖母は、誇らしげに満面の笑みを浮かべていた。

……………………………………

…………………………

……………

が………少し間が空いた後、鈍い私はやっと気が付いた。

祖母は何でこんな話をしたのか?

そう。

つまり祖母は私の手を引いて、一緒に仕事を探しに行くつもりだったのです。

いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいや……

無理でしょう。キツイ。いろんな意味でキツイ。いやツライ。

80にもなる祖母が大きな孫を連れて「就職させて貰えませんか?」と言って回る姿を想像して欲しい。

おばあちゃん。

それ、みんな辛くなるヤツだよ?

私はすぐに床に頭をこすりつける勢いで下げて懇願しました。

「おばあちゃん!本当に無理だから!就活一生懸命やるから!自分で頑張れるから!探さなくて大丈夫だから!!!」

しかし祖母は笑顔のまま返事をしてくれない。

(ダメだ、祖母は他人の話を聞いてくれる人じゃない)

デザイン会社の人もこの笑顔の圧力に押されて、

シブシブOKしたに違いない。

 

祖母をこのまま放っておくと、私の仕事を見つけるために勝手に地元の会社を一軒一軒回りかねない。

そういう人だ。祖母は本気だ。

それから私は死ぬ気で仕事を探し続け……なんとか仕事を見つけることが出来た……。

フリをした。

……ちなみにデザイン会社に入社した父は、即バックレて、また無職に戻ったそうです。

無職って遺伝するのかなぁ?

 

まぁどう考えても祖母は異常な人だけれども……無職の父親と、無職の旦那と、無職の息子という異常な家族を養うため、女手一つで必死に働き続けたことは立派だったと思う。

もしかしたら、異常な人になるしか無かったのかもしれない。

その話の流れでついでに「おばあちゃんの時代の就活はどうだったの?」と、尋ねてみると……

「いやぁ~戦争だったからね!」と言われてウーンとなった。

 

どう生きるか?なにをして働くか?という事が選べない、なりふり構っていられない、そんな過酷な時代を生きてきたんだろう。

バブルも氷河期も戦争経験者には敵わないよなぁ……。

おしまい

 

【あとがき】

先日、祖母が亡くなったと連絡があったので思い出して書いた。

最後に顔を見たのはいつだったかなぁ……。

ばあちゃん、オレはちゃんと働いてるよ。

 

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【プロフィール】

著者名:ハルオサン

18歳で警察官をクビになってから、社会の闇をさまよい続けた結果、こんなことを書いて生活するようになってしまいました。

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