私は1990年代後半から、システムエンジニアとして働いていた。

男性ばかりのシステム業界を、あえて選んだ理由は「パソコンがあればできる仕事」に自由な働き方への可能性を感じたからだ。

 

2018年の現在。政府の施策もあり、女性のエンジニアもわずかながら増加してきた。

名刺交換で「え?女性のエンジニアですか?」と二度見されていた頃を思うと、時代が変わったことを実感する。

 

しかし、本当の意味で時代は変わったと言えるのだろうか。

私にはどうにも、「女性が活躍できる社会」という言葉の意味が今も、20年前と同じような問題を抱え続けている気がしてならない。

 

当時、私が会社の垣根を超えて数少ない女性エンジニアたちとグループを作り、交流をしていた頃に感じた疑問が、今も全く解消されていないからだ。

 

実は「女性が活躍できる社会」という言葉そのものに、大きな問題がある。

依然として現在も働く女性が何に悩んでいるのか。少し的はずれな議論がされている。

 

 働く女性は何に悩んでいるのか

2000年代初頭、業界はITバブルと呼ばれる好景気ににわかに活気づき、Web系のエンジニアには若い女性が増え始めた。

私自身も、同世代の女性エンジニアが増え始めたことで、本当に仕事が楽しくなった。

 

ただ、おそらくこの頃からだろうか。

おそらく外資系企業の影響だと思うが、「女性社員の働きやすい環境を」という考え方が盛んにメディアを賑わすようになる。

ただでさえ激務のシステムエンジニア職である上に、人手不足ということもあったのだろう。

貴重な戦力である女性を失いたくないという経営陣や上司の思惑もあり、女性を特別扱いする職場のルールを作ろうという動きは、すぐに具体化した。

 

実際に、私の所属していた会社でも、「世に倣い、女性のために我が社でも何かしてあげなければ!」という空気が日増しに濃くなる。

中には、「俺は女性のことをよく分かっているから安心して。」と謎アピールを始める上司もいるなど、なんとも形容しにくい人事制度が試行錯誤されようとしていた。

 

またその一方で、「女性は良いよな」とはっきりと口に出す同僚もいるなど、時代の過渡期は色々なところにストレスを生み出す原因にもなっていた。

 

そうなると、私が交流を持っていた女性エンジニアグループの中でも、

「特別扱いに困っている」

「仕事がしにくい」

というグチが、女子会のメインの話題になっていく。

 

その中の1つに、「夜遅いと危ないから、女性は20時までに退社しろと上司に言われて困っている」というものがあった。

仕事量や納期は同じまま、女性だから残業せずに帰れというのだ。

彼女はその特別待遇のために、進捗に遅れも出始め、同僚の男性らから嫌味や陰口を叩かれるようになってしまった。

 

ここで、当時のシステム開発の現場の状況について補足したい。

「徹夜で寝ていない。」「家に丸2日帰っていない。」というような話はエンジニア同士では驚かれもしない、といえば雰囲気が少しは伝わるだろうか。

要は、過酷な環境が当たり前だったのだ。

 

そして労働時間という概念を超えてチームの皆と一緒に付き合えないのであれば、主力メンバーには選出して貰えない、そんな雰囲気も確かに存在した。

苦楽を共に乗り越えて納期を迎えてこそチームの連帯感を感じ合う、それが当時少なからず存在した現場のイメージといえるだろう。

 

もちろん、その働き方については賛否両論あるかと思う。現代ではむしろ否定的な意見のほうが多いかも知れない。

しかし、「20時で退社を強制された彼女」は、どうにか性差の制約を受けず自身の力を最大限に発揮したいと考えていた。

 

彼女はまだ20代前半の健康体だったので、終電近くまで仕事をしても、危険な夜道を帰らなくてはいけない不安な状況にもなかった。 

何より彼女自身が、時には終業時間が遅くなっても、チームの一員として一緒に頑張りたいとさえ思っていたのだ。

 

しかし、そんな彼女の考えや状況はまったく考慮されることなく決定は下った。

唯一の女性社員である彼女のための決定のはずが、「女性だから」という上司の思い込みで、彼女は希望の働き方を奪われてしまったのだ。

 

彼女が同業のグループで、その話を切り出した時に話しを戻す。

「私もそれに近いことがあった!」

「勝手に決める前に要望を聞いて欲しいよね!」

 

多くの女性たちが共感し、同情的な意見が集まり始めた、その時。

「えー!うらやましい!私と代わって欲しい!」

と言った女性がいた。

 

育児と仕事を両立している40代の彼女はこう続けた。

「私なんて、上司に早く帰りたいと伝えているのに、全然配慮が無いの。理由は何でもいいから、早く帰らせてくれるなら、喜んで帰らせて貰うわよ()。」

 

彼女の意見を聞いてはっとさせられた。
私たちは社内では常にマイノリティであるがゆえに、この場での同調意識が過剰に働いていなかったか。

そして、相手の気持ちを理解しようと懸命になるあまり、皆が同じ意見なのだと思い込んではいなかったか、と。

「前の上司の時はそうだった。」

「子供ができたらそう思うかもしれない。」

「女性でも色んな意見がある。決めつけてはいけないね。」

その夜、当たり前のようだが見落としがちなことを、改めて確認し合う機会を私たちは得たのだった。

 

私は当時、まだ20代。

「働いて先輩に追いつきたい」という気持ちに共感した1人だった。

同業の女性たちですら、世代が違えば自分とは全く違うことを望んでいたことへの驚きは、今も鮮明に覚えている。

 

私はその後、自分の歳や環境が変わるたび、あの夜の話を振り返るようになった。

「今の自分はどう働きたいのか?」と自らの現在地を確かめるためだ。

20代の頃は限界まで働きたいと思っていた私は、30代になるとプライベートに時間を割きたいと初めて感じることになった。

 

そして40代で、再び若い人たちと肩を並べてバリバリ働きたくなると、

「私だけ年寄り扱いされて早く帰されても嫌だなぁ。」

とオバサンの妙な自尊心と体力とで戦ってみたりしたこともあった()1人のサンプルを採っても、状況によってこんなに要望が変わるのだ。

 

女性のための制度は作るな

あれから私は、多くの方にあの夜の問いを投げかけてきた。

少しでも多く「どんな風に働きたいと思っているのか」を、ただ純粋に知りたかった。

 

答えは「育児中の女性」というカテゴリひとつとっても、本当に様々だった。

育児にメインで関わりたい方もいるかと思えば、家族の助けがあるなら自分はフルタイムで働きたいと思っている方もいた。

責任の少ない仕事に回して欲しい方もいれば、出世競争から外されることを心底恐れて努力している女性もいた。
聞けば聞くほど、本当に人それぞれ、数多くのパターンがあり、それは私たち職業人の人生の数だけ、意見や考え方が存在するのだろう。

 

そして思い返すと、“女性だからと差別しないで欲しい” と悩んでいた女性たちは、「女性として認めて欲しい」のではなく、「人として認めて欲しい」と言っていた。

 

“女性のために何かしてあげなくては” という言葉を聞くと、

「女性は男性とは違う存在であることを改めて意識させられる」

「女性は何かして貰わなくては対等になれない弱い存在なのだと言われているように感じられる」

という声もあった。

 

では、ビジネスの現場で “人として認めて欲しい” と思っている女性たちが本当に求めているものは何なのか。

それは、“性差をつけないで欲しい”、ということではないのか。

 

本当に女性が喜ぶ制度を作ろうとするとき、そこに性差は本当に必要なのだろうか。

「女性のための制度」ではなく、「助けを必要とした人のための制度」ではダメなのか。

 誤解を恐れずにいうならば、「女性のための制度は作るな。」と敢えて言いたい。

 

女性のためだからこそ、性差のない制度であるべきなのだ。

結果的に多くの女性がライフスタイルに合った選択ができるようになり、女性が本当に使いやすい制度になる。

それこそが本来目指しているところではないのだろうか。

 

本人が望まない優遇で同僚から妬まれることも、お金や時間をかけたほど効果が無いことも、本当に残念で勿体ない話だ。 

多くの女性に活躍して貰うためにも、今一度考えてみて欲しい。女性だけにフォーカスすることが本当に必要か、ということを。

 

そして、男も女も、働く人たち皆が、自分にマッチした働き方を見つけられる制度なのか、ということを。

20数年前の教訓を経て、そんな「働きやすさ」の本質を捉えた制度が多くの現場で生まれていくことを期待している。

 

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著者:安藤ゆかり

元システムエンジニア。元起業家。

リモートワークアーキテクト。 日本中のリモートワーカーを大きな労働力に変えるべく、日夜奮闘中。

(Photo:Esteban Lopez)