今から4年前。自分の将来とキャリアについて悩んでいた時期がありました。
24歳でWeb業界へ入り、デザイナーとして仕事を続けていましたが、当時、30歳を目前として、成長率の低下を日々痛感していたからです。
「今は楽しいけど、もう3年は持たないなぁ…」という焦りを感じつつ、私生活では結婚をし、妻の出産も視野に入れていたので、人生としてもキャリアプランを練り直す時期だったのかもしれません。
そこで“モノづくり”(=デザイン)から“コトづくり”(=広報/PRプランニング)へとジョブチェンジを試みました。
デザイナーとして自社のCIを担当していたのもあり、現場で経験を重ねつつ、やがてメーカーのWeb担当にでもなろうと密かに目論んでもいました。
その後思いがけず、当時の経営者から事業承継の話があり、在籍していた会社を継ぎました。
しかし、その時のジョブチェンジは重要なきっかけとなったと思います。
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弊社ではスタッフと1対1の面談があります。
そこで、あるスタッフに当時の自分と同様の悩みを打ち明けられました。
「仕事に壁を感じている。自分のキャリアパスが描けない。」
そのスタッフも30歳手前、プライベートでは出産を間近に控えています。続けてスタッフは言います。
「今、消耗の方が多いです。」
実は仕事には「蓄積できる仕事」と「消耗する仕事」の2種類があります。
蓄積とは、仕事をすればするほど自分の中に価値が貯まることを指します。
例えばスキルであったり、人脈であったり、実績であったりします。
逆に消耗とは、仕事をすればするほど自分から失われることを指します。
よく言われるのは、精神的な側面ですが、最も大きな消耗は「時間」です。
仕事が非生産的で、つまらなく、スキルもつかないものであった場合、それらは真の意味で時間の無駄遣いであり「人生の消耗」と言い換えてもいいでしょう。
そのスタッフは「人生を消耗している」と感じていました。
もちろん、今の仕事が、単調な作業で「消耗」していると感じていたとしても、効率面など見直すべきところはいずれかにあります。
全てが消耗というわけではありません。
しかし、総合的に「蓄積」と「消耗」のバランスは、キャリアパスの上では非常に重要です。
クリエイティブ業界のスキルとキャリアの関係性は強く、業界で生き残り続けるためには、日々の“目に見えない成長”は特に重要なのです。
実は、最近お会いしたフリーのデザイナーさんも、この辺りの話をしていました。
デザインをする際にアイデアを“引き出し”という表現をしますが、その方は
「今は自分の引き出し内のクリエイティブしか生み出せていない」
と自身の仕事に疑問を感じていました。
結局のところ「フリー」か「会社づとめ」かは関係なく、大切なのは、今使っている時間が、将来にとって消耗なのか蓄積なのかです。
「時間」を消耗しないために
時間は全ての人に平等、有限であり消耗品です。
そして、仕事は時として「単なる消耗」につながりやすいです。
例えば
◎誰でも(部下でも)できる仕事をしている
◎関係の薄いプロジェクトの会議に参加しいる
◎毎日遠方から通勤している
といったことです。
肝心なのは「時間の使い方」を真剣に吟味することです。
例えば、部下に仕事を振ること、無用な会議には極力参加しないこと、リモートワークを導入すること。
そういったちょっとした工夫で、時間を消耗せずに蓄積することは可能です。
こういった些細なことを解消することで、細切れとなっていた時間にまとまりができ、アウトプットの質が向上します。
いわゆるタスクマネジメントに近い考え方でもありますが、時間の消耗を意識することで効率的な仕事ができます。
また生活面においても、例えば自炊で倹約している方も多いと思います。
ですが、そのために“時間を消耗していると感じた場合”は、まったくもって意味がありません。
自炊の時間を短縮させることで、何かしらのアウトプット、例えばブログの更新をしたり、作品を公開したり。
あるいはインプットとして読書をしたり、ニュースをチェックしたりすることも可能です。
これを自己投資と取るかどうかは各自の判断ですが、生活の中に将来のための隙間時間を作ることは、独立採算的に働く人が増えた今、必要なことではないかと思います。
目の前の仕事ばかりしていると、中長期的に必ず仕事は「消耗」一本になりがちです。
逆に、時間を意図的に蓄積に振り分けることができれば、中長期的に必ず展望は開けるものです。
「お金」を消耗しないために
時間もそうですが、「飲みニュケーション」などはまた、お金の消耗の典型でもあります。
実際、愚痴が定例化した飲みニュケーションは無駄の極みです。
また、趣味に散財することも消耗の一形態です。
もちろん、気晴らしとしての趣味は精神的に良い影響があることは否定しません。
しかし趣味が人生の主人になってしまうと、私生活を破壊する事にもなりかねません。
(もちろん、趣味に生きることを決意している人を否定はしません。私はそうしない、というだけです。)
ベストセラー「プロフェッショナル・マネジャー」のハロルド・ジェニーンは趣味について、次のように言っています。
週末には仕事のことはすっかり忘れることにしていた。
といっても、まだやることが残っていれば家へ持って帰り、週末の一部をそれに割くことはあった。
私はゴルフクラブのチャンピオンシップを狙ったことはないし、その他の趣味やスポーツでも真剣な目標を定めたことはなかった。
それらは私にとって、あくまでも緊張をほぐすためのもの──余暇活動と娯楽にすぎなかった。
しかし、時として趣味への投資が「蓄積」になり得ることもあります。
それは、その趣味が「自分」だけではなく「他人」を楽しませるまでに発展したときです。
あるグラフィックのデザイナーの話。
その方は日本酒が好きで、趣味が高じて利き酒の資格を取得しました。
その資格は日本酒の素晴らしさを人に伝えることができる資格です。
すると、ここで2つのスキルがシンクロします。
日本酒の素晴らしさを伝えることができる人は、素晴らしさを“デザイン”で伝えることができる、ということ。
実際にこの方は今、本業でグラフィックデザインをしながら、日本酒の素晴らしさを伝えるため、日本酒の海外向けパッケージデザインを行っています。
趣味を自分の中だけではなく、外向きにすることで、将来のキャリアに向けた「蓄積」に繋がるのです。
「経験とスキル」を蓄積するために、キャリアパスの責任を自分で引き受ける
そして最後に、「経験とスキル」の蓄積についてです。
今している仕事が消耗しているだけなのか、それとも経験として蓄積につながっているのか。
ここのバランスこそがキャリアパスとして大きく左右するわけです。
ただし、あまりここの意見が強くなってしまうと「今は同じ作業の繰り返しなんで消耗ですよね。よしっ、転職しよ!」と端的に捉えられがちですが、そうではありません。
“キャリアパスを描く”ということを外部の責任にしてしまうことは非常に危険です。なぜならそれは「依存」と同義だからです。
「経験とスキル」を蓄積するためには、キャリアパスの責任を自分で引き受ける事が必要です。
自分がどうしたいか、を明確にする。
そして自分の対応範囲を少しづつ広げ、未開拓分野への活路を見出す。
そこへ挑戦し続けることで、自分なりの知見が手に入る。
大まかなキャリアを描けば、あとは途中で軌道修正をしながら、なんとかゴールまで運んでいくものです。
人生にはグランドデザインが必要
ただ、そうは言っても、働き方に多様性のある今、仕事としてのキャリアを描こうにも「10年先のことなどわからない」というのがリアルな意見ではないでしょうか。
テクノロジーによる変化、たとえばAIやロボットにより、いつ業種そのものがコモディティ化に直面するか予測できません。
だからこそ、自分にしか出来ないもの(情熱を注ぐことができるもの)に目を向け、人生としてのハブを多くつくる必要があるのではないかと思います。
もし現在「将来への迷い」があるのなら、今は自分がドラクエで言うところの“ダーマ神殿”にいるかどうかを意識して欲しいと思います。
ひとつの特技を手に入れて一人前になった状態なのかどうか。
今のままでは今後の強敵に対抗していくのは難しい、そう感じたゲームでは、多くの人はもうひとつの特技を手に入れたい、と感じるはずです。
そう思うと、気軽に自分に向き合うことができるのではないでしょうか?
🕺🏻丸山享伸
Web制作会社(UNIONNETInc.)代表。「はたらくを楽しく」したい“小さな会社の経営者”として本音をつぶやいたり・書いたりしています。
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(Photo:Thomas Hawk)