『論破力』(ひろゆき著/朝日新書)という本を読みました。
そのなかで、ひろゆきさんが、役所での交渉のコツについて、こんなことを書かれていたのです。
ただ役所関係との交渉ごとでは、担当者を怒らせてうまくいくことはほとんどありません。
たとえば何か許可申請をして「これ、こうしたいです」「だめです」って言われたとき、窓口でキレる人がよくいますが、ほとんど無駄だと思います。
それよりも、わりとうまくいくのが「じゃあ、どうしたらいいと思いますか? できる方法を一緒に探しましょう!」というような口説き方。
そう言われると、役所の担当者は怒鳴られるよりも困ってしまうのですよ。
本音は「面倒くさいから断りたい」なのですが、職務上「考えません」とは言えません。役所というところは、必要な条件を満たしている書類は一応通さなければいけない。
つまり、「ほかにどんな手段があるんでしょう?」みたいな書類を作成するための相談には、説明せざるをえないわけですね。
仕事だからって、別に仲良しこよしになる必要はないわけです。相手をその気にさせるのがいいケースもあれば、一時的に怒らせて互いに距離をとったほうがいいケースもある。それで自分の有利に運べば、いちばんいいじゃないですか。
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ひろゆきさんは、簡単な手続きというより、なんらかの認可のような、やや複雑で調整が必要な事例について仰っているのではないかと思われますが、僕自身、役所での手続きについては、簡単なものでも、めんどくさい、と感じてしまうし、なかなかうまくいかなくて、苛立ってしまうことも多いのです。
ちょっとイラっとするくらいであれば、許容範囲、だといえるかもしれないのですが、世の中には、こういう手続きが苦手で、本来受け取れるはずの権利を得られない、という人が少なからずいるのです。
こういう「手続き」というのは、慣れている人にとっては「ちょっとめんどくさいな」で済むけれど、そうでない人にとっては、ものすごく高いハードルになってしまうこともある。
『最貧困女子』(鈴木大介著/幻冬舎新書)という本のなかで、こんな話が出てきます。
売春をして、なんとか生活費を稼いでいるというシングルマザーの加奈さん(仮名)。
経済的に困窮している彼女が、行政から援助を受けられないのには、理由がありました。
まず彼女はメンタルの問題以前に、いわゆる手続き事の一切を極端に苦手としていた。
文字の読み書きができないわけではないが、行政の手続き上で出てくる言葉の意味がそもそも分からないし、説明しても理解ができない。
劣悪な環境に育って教育を受けられなかったことに加え、彼女自身が「硬い文章」を数行読むだけで一杯一杯になってしまうようなのだ。
そんなだから、離婚して籍を抜くにしても、健康保険やその他税金などの請求について市役所で事情を話して減免してもらうにしても、なんと「銀行で振込手続きをすること」すら、加奈さんにとっては大きなハードルだった。
18歳で取得した自動車免許も、更新手続きを怠って失効している。
子供の小学校入学の手続きにしても、実質的に地域の民生委員が代行してくれたようだった。
通常こんな状況なら、消費者金融などでさぞや大借金しているのだろうと思ったら、なんと彼女は借金の手続きすら苦手の範疇。
唯一の借金は、サイトで知り合った闇金業者を自称する男から借りた2万円だという。
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「手続き類」って、たしかにめんどくさいですよね。
でも、これだけ生活に行き詰まっていても、「手続きというハードル」を越えることができない人がいるなんて……社会とのつながりがあれば、誰かが代行してくれたり、丁寧にやりかたを教えてくれるのだろうけど、加奈さんには、それもない。
僕は基本的に「他人に助けてもらうことが苦手な人間」なので、こういう人の思考法も、なんとなくわかるような気がするのです。
加奈さんほど極端ではなくても、申請のやり方がわからないとか、自分が書いたものが「これでは受理できません」と返されたときに、自分を否定されたような気分になって、怒ったり、諦めたりしてしまう人もいる。
昔ほどではないとしても、役所の担当者って、素っ気ないというか
「これじゃダメです。書き直してきてください!」みたいな対応をする人が、まだまだ少なくありません。
そういう人に、この、ひろゆきさんの「口説き方」は、大いに参考になると思います。
役所の窓口の人は「仕事」としてやっているのであって、申請者は「顧客」なんですよ、原則的には。
書類を出すときには、テストを受けるような気分になりがちだけれど、彼らは試験官ではなく、「申請者に協力しなければならない」のです。
ただし、「相手からそれを求められれば」。
自分なりに書いた書類が受け付けられなかったことに腹を立てて、自分からその場を去っていく人を追いかけてまでフォローする必要はない(本来はそうすべきではないか、と思いますし、親切な人も少なからずいるんですけどね)。
そこで、窓口の人に「どういうふうに書き直したら、この書類を受け取ってもらえますか?」と尋ね、協力を求めることができるかどうかが勝負の分かれ目なのです。
「この申請書類を受け付けてもらいたいので、あなたのアドバイス通りに書き直しますから」と言われたら、職責上、教えないわけにはいきません。
それに、頼りにされると案外弱いというか、やる気を出す人って、多いのです。
相手を突破すべき壁だと敵視せずに、一緒に目的を達成するための「仲間」にしてしまう方法があるのではないか。
役所との交渉だけではなく、組織の中で、自分のやりたいことを実現していくためには、こういう発想は、すごく有用だと思います。
あとは、どうしてもうまくいかないときには、交渉する相手を変えてみることをおすすめします。
親切な人、親身になってくれる人、めんどうくさいことを面白がってくれる人って、案外、いるものですよ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで
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(Photo:Kuruman)