とあるサロンが炎上している。
#脱社畜サロン から目覚めた元信者のnote|いしかわ|note
ここから少し目が覚めた私は、脱社畜サロンのメンバーでありながら、えらてんさんの元で脱社畜サロンのアンチ活動をするというよくわからない立場になってしまいました。
その光景を見たある人からは、
「戦場カメラマンみたい」
と言われる始末。
ほんの少し前から、インターネット上でサロンが乱立するようになった。また有料noteも凄く流行っている。
個人的には、インターネットは基本的には無料であるべきだと思っている。それ故にサロンはあまり好ましく思えないのだが、とはいえ流行っているという事は一定の需要はあるのだ。
それを無視して単に批判するのもどうかと思ったので、つい先日自分でも実際に月額制のマガジンをやってみる事にした。
行ったレストランのレビューや飲食論、Books&Appsさんで連載中の記事(https://blog.tinect.jp/?author=882)の振り返り、読んだ本の感想、飲んだ酒の感想などを書き綴ります。更新頻度はたぶん多め。割と軽く読める雑記みたいなスタイルを目指します。
やってみてまだ数日とはいえ、月額制コンテンツの抱える問題点や闇みたいなのがわかってきたので、今日はそれについて書いていくことにしよう。
月額制コンテンツは、お金を払っているのに、自由が制限される
基本的には人は自由に選択を行うことができる。
例えばこの記事も、あなたが選んでくれたからお目通し頂けてるわけだ。
このように、無料のコンテンツは初っ端でセレクションに引っかからないと日の目すらみれない。
だが月額制コンテンツの場合は話が別だ。
課金しているという、もったいない精神により、無料だったら見もしなかったようなコンテンツについ目を通してしまう。
これは実は非常に危険な事である。以下でどういう事か詳しく見ていこう。
「データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」という本(超面白いのでオススメ)によると、人間の一日の運動総数は決まっているらしい。
著者が行った研究によると、ウエアラブルデバイスを装着した人間の腕が一日の間で振動する数は、ほぼ毎日一定の範疇に収まるという。
文庫 データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則 (草思社文庫) (草思社文庫 や 4-1)
- 矢野 和男
- 草思社
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このことから著者らは、人間の活動量は一日の中で一定であるとの結論を導いた。
つまり、朝多めに運動したら、午後はやや活動量が落ちるし、朝働かなかったら、午後にはある程度はバリバリ動けるという事だ。なんとなく、腑に落ちる人も多いだろう。
これは意思の総量が一日の中で決まっているという話を裏付けるデータだ。
かのスティーブ・ジョブズは毎日毎日あの決まりきったファッションをしていたようだけど、それは決断する労力を極限まで少なくしたいからだったとのことだ。有名なエピソードだし、知っている人も多いだろう。
この事を考えると、月額制コンテンツを導入する事は、同時にそのまま一日における活動量や意思の総量をわざわざ減らす事に通じている事がわかる。
無料だったらつまらなそうならクリックしなきゃいいだけだが、月額制コンテンツはついお金を支払ったというもったいない精神から、そのコンテンツに目を通してしまう。
この行為自体が、既に一日の中での活動量を減らしているのだ。
つまり、ネットの月額制コンテンツは、お金を出してわざわざ電子ゴミを買わされているようなものなのだ。
もちろん「自分が入っている月額制コンテンツは、お値段以上のものが提供されている」
そう思っている人も多いだろう。けど、本当にそうなのだろうか?
月額制コンテンツの目的は究極的には養分から生かさず殺さず長い間、搾り取ること
僕も月額noteをやってみてわかったのだけど、月額というのは非常に蠱惑的だ。
会員数が増えれば増えるほど、何をやってもお金が入るような蜜壺が手に入るのだから。
人間はこの手の既得権益を手にしてしまうと、それに取り憑かれる。
けど考えても見て欲しい。あの少年ジャンプだって、きら星のごとく現れた作家が連日連夜バトルを繰り広げ、そして極々一部しか勝ち残らないのである。それほどまでに、コンテンツの栄枯盛衰は激しい。
あなたが入ってる月額制コンテンツも、確かに今は面白いのかもしれない。
けど、それがずっと続くと考えるのは、あまりにも厳しいものがある。せいぜい数ヶ月ぐらい面白けりゃ御の字だ。
だけど先ほども言ったとおり、月額制コンテンツの主催者は絶対にその蜜壺を手放したがらない。
するとどうするかというと、例えば脱社畜をかかげてるくせに、全然脱社畜できそうにもないコンテンツを提供しだしたりする。
だって脱社畜しちゃったら、サロンからみんなが卒業しちゃうのだから。
お金が欲しい人からすれば当然の事である。
生かさず殺さず、毒でもなく薬でもない情報を与え、搾り取れるところまで月謝を払わせ続けるのが必然的に最適解になるのだ。
そして次にやるのが情の押し売りだ。人間、情が湧くと、どうしても裏切れなくなる。サロンの主はそれに非常に敏感だ。
だから、購読者に情をわかせるような言動を定期的にとり、申し訳なさを煽って退会を引き留める。
結婚するのより、離婚するほうがエネルギーがいるのと同様、実はサロンも入るのより出るほうがエネルギーがいる。
そうして、はじめの頃は面白かったはずのサロンも、いつのまにか乞食にお情けを与えるかの如く、情で課金される事を願うようになるのはサロンの構造上、必然なのだ。
以上から、個人的にはインターネットの有料コンテンツの大部分には否定的だ。
無料ならしっかり情報を選んで選択するし、仮に有料のものにしか載っていない情報があったとしても、その時、その時課金すれば何も問題がない。本なんて、一冊で500円である。サロンの金額が馬鹿らしくなるほどだ。
じゃあ月額制コンテンツは完全にオワコンなのだろうか?
実は極少数だけど、作者側も消費者側も有益になりうるものもある。次にそれをみていこう。
プロジェクト単位で応援できる月額制コンテンツは有望
例えば、とある人の書く小説がとても面白いとしよう。しかし彼は日中はサラリーマンであり、どうしても書くモチベーションがあがらないとする。
そういうときに、月額制を導入すれば、良い書く為の動機になりうる。
50人の出資者がバックについていると思えば、ちょっと疲れてても寝る前30分ぐらいは何かを書かないと駄目な気に自然となる。
このように、プロジェクト単位で応援できる月額制コンテンツはかなり有望な方だ。
永遠に終わらないおもしろコンテンツなどない。全てのものは、終わるからいいのだ。
それなら、ちゃんとプロジェクトを立案した人が、応援の意味も込めて課金ルートを標榜するのは、決して悪いことではない。
自分の話で恐縮なのだけど、実は僕も最初になんか情を煽るような記事を書いてしまい、非常に反省した。
ただ、月額コンテンツは前から書きたかったレストランガイドを書く動機付けに使えそうだとすぐに思い直し、すぐにそちらの方に方向転換した。
僕は昔から美味しいものを食べるのがこの上なく好きで、いつか自分が学び経験した見地を一冊の本にまとめ上げたいと思っていたのだけど、仕事が終わった後でそれを書くモチベーションがどうしても出てこなかった。
このままでは永遠に書けないまま終わる。そう思っていたのだが、月額性を導入したところ、毎日数十人の出資者にジーッと監視されるかのようなヴァーチャル・リアリティを感じ取れるようになり、今では寝る前にほぼ毎日コツコツなんとか更新を継続できている。
この調子なら、あと数ヶ月で本の原案ぐらいは仕上がりそうだ。
これに加え、こちらで連載している記事の裏側みたいなのを書いたり、コメントで「これを書いて欲しい」という要望があったらそれに答えたりと、まあなんとか情にうったえたりしない方向性で今の所ギリギリやれている。
今の所、レストランガイドが書き終わったら、スパッと辞める予定だ。そうしないと、儲けに目がくらんで自分が駄目になりそうな予感しかしない。
サロン方式は、書き手にも読み手にも上手くやらないと毒だ。だからお互いが、しっかり批判し合うぐらいじゃないと、安易に手を出しちゃ駄目だな、と凄く勉強になった一ヶ月だった。
消費者ではなく、パトロンになりたい層も一定数いる
他にも、ただ応援したい。そういう目的での月額制コンテンツを通じて誰かに課金するのもありだろう。
例えば先ほどの本だけど、本を買う人の大部分は、その中身を期待して課金している。だけどごく一部の作者は熱心なファンがいて、その内容に関わらず、とりあえず本が出たら売れるという事もある。
この内容で本を買ってる人を消費者と呼ぶのに対して、後者のとりあえず作者名でなんでも買うような層を、ファンと呼ぶ。
ファンは対価を求めない。クリエイターを応援する事に無常の喜びを見出している。
かつては、お金持ちが芸術家をバックアップし、パトロンとして大々的に支援していたりしたが、現代では細々と存在する無数のファンが集って、ある意味では分散するパトロンとなっている。
僕自身は、この手のマイクロなパトロンシステムもそれなりに悪くないシステムだと思う。
人を応援するのは楽しい。特に対価も求めず、才能ある若者を支援できるシステムがある事は良いことだろう。
いつもいつも、無料で良いコンテンツを提供してくれる人に対し、何らかの恩返しを行いたい層は一定数はいる。
インターネットの有料コンテンツは、ネット上にマイクロ・パトロンという存在を許せるようになったのだ。
まあ最後にまとめると、個人的にはサロンにしろ月額制コンテンツにしろ、長い目で見るとクリエイター・消費者ともに毒となりうる要素があまりにも多すぎる。
あくまで目的がはっきりしている人を支援するぐらいにしておかないと、クリエイターもお金に目がくらみ、本来なら作れていたはずの良いものがつくれなくなってしまう自体は容易に引き起こされると思う。
課金は毒まんじゅうなのだ。やるのなら、くれぐれもその事を忘れずに、やっていかねばならぬ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
(Photo:Tam Tran)