つい先日、ツイッターを眺めていたらロンブーの田村淳さんがCLANNADというアニメを褒めていた。
『人生』
CLANNAD after story ヤバイくらいに泣きました…嫁と娘、家族、仲間を大切にしよう!絵が苦手だなぁと思ってた作品が好きになる事を経験しました…そして絵も好きになった!学びの多い作品でした。フォロワーのみんな良い作品を紹介してくれてありがとう!それと便座カバーCLANNADは人生 pic.twitter.com/ooqV79AhhA
— 田村淳 (@atsushilonboo) 2019年3月25日
これを読んでいる大部分の人はCLANNADの事など知らないと思うので簡単に説明しておくと、CLANNADは2004年にKeyという会社から出されたPCゲームだ。
いわゆるノベルゲーなのだけど、そのシナリオはすざまじく面白い。ハッキリ言ってプレイすると魂が抜ける事必死である。
2000年頃、PCのノベルゲーはとてつもないクオリティを誇っていた。
Key三部作であるKANON、Air、CLANNADは言うまでもなく、それ以外にもEVER 17やクロスチャンネル、月姫、ひぐらしのなく頃にといった超絶面白いゲームが次から次へとポンポン飛んでくるような有様で、僕は勉強なんてそっちのけでひたすらにPCのモニターに張り付いて、徹夜で右クリックを連打して極上のシナリオを読みふけっていた。
「なんだこれ、こんなに面白いものがあったら、絶対にみんな夢中になるに決まってるじゃないか」
しかし不思議な事に、これらの文化は非常に限られた極一部の好事家のみの間でしか流行らなかった。
当時、僕はかなり必死になって周りの人に布教したのだけど、みんな「そんなオタクみたいな気持ち悪い絵のゲームなんて、やりたくない」と全く見向きすらされなかった。
僕は正直、信じられなかった。そりゃ、その当時は確かにというかオタクっぽい趣味は現在と比較して物凄く唾棄されてはいたけれど、そんなものを補って余りあるレベルの世界最高のコンテンツが目の前にあるのに、まさか誰も手にすらとらないだなんて……。
それから15年後、あんなにも嫌われてたオタク趣味が割と一般的なものと化し、それと共になのか芸能人のようなキラキラした人達ですら、アニメ絵バリバリのCLANNADを褒めるようになるのだから、世の中というのは本当に不思議なものである。
似たような事は中学生時代にもあった。
当時、ジョジョの奇妙な冒険の第5部が連載されており、僕はあまりの重厚なストーリー展開に衝撃を受けて毎週毎週ジャンプを丹念に読み耽るほどハマっていたのだけど、ジョジョも「なんだか絵が気持ち悪い」との事で全くといっていいほど、周りでは受け入れられる事はなかった。
これも僕には全く信じられなかった。こんなに凄い物語が、毎週毎週ジャンプにリアルタイムで連載されているのに、それを追っかけないだなんて、人生の損以外の何ものでもないじゃないか。
そう思ったのだけど、少なくとも僕の周りの人達の目は、あの絵にかなり厳しかった。
しかし時の流れとは恐ろしい。今では叶姉妹がジョジョのコスプレをする位に、ジョジョは一般社会で普通に受け入れられるようになってしまった。
繰り返しになるが、世の中というのは本当に不思議なものである。CLANNADもジョジョも、誰でも手にとることができたものなのに、爆発的に流行るまでには10年近くもの時が必要だったのである。
一体何が、10年もの間、これらのコンテンツが普及するのを阻んでいたのだろう?
面白い人間になる奴はコンテンツの感受性がずば抜けて高い。
コンテンツの感受性というのは本当に人によって差がある。
2000年前後の頃、インターネット最高のコンテンツの1つは間違いなくテキストサイトだった。
侍魂を頂点としたそれらのクオリティの高さは半端なく、僕は「こんな面白いものがこの世にあるだなんて」と目をキラキラさせて読みふけっていたけれど、それらが当時、表舞台で称賛される事はあまりなかったように思う。
少なくとも学校で大流行するようなものではなかった。
そんな感じのまま、身の回りに自分が面白いと思うようなものを共有する友達を一人も持たないまま大学を卒業するに至ったのだけど、卒後にネット経由で自分が面白いと思えるような事をやっている人と会うようになって、彼らが僕とほとんど同じようなコンテンツを孤独に消費していた事を知ってエラく驚いた。
みんな、人の目を偲んでコッソリとテキストサイトだったりPCゲームを嗜んで、隠れキリシタンのごとく暗い青春を過ごしていたのである。
そして彼らの多くが、小さい頃に体験した極上のコンテンツのエッセンスを用いて、大成功を遂げていた。僕は「やっぱり自分の感性は間違ってなかった」と10年越しの答え合わせをした気分だった。
コンテンツの感受性とキャズム理論の整合性
その後、ジェフリー・ムーアのキャズムという古典的名著を読み、僕は自分の考えていた事に理論的にも整合性を見出すことに成功する事となった。
キャズム: ハイテクをブレイクさせる超マーケティング理論
- ジェフリー ムーア,川又 政治
- 翔泳社
- 価格¥267(2025/06/16 12:58時点)
- 発売日2002/01/01
- 商品ランキング207,543位
この本では、新しい革新的なIT技術を売り出す際のマーケティングをする際に、購入対象を以下の5つの層に分類する事を提唱している。
・イノベーター
新しい技術が好きで、実用性よりも新技術が好きな人。オタク。
・アーリー・アドプター
新しい技術によって、競合相手などを出し抜きたいと思っている人。
・アーリー・マジョリティー
実用主義で役立つなら新しい技術でも取り入れたいと思っている人。
・レート・マジョリティー
新しい技術は苦手だがみんなが使っているなら自分も使わなければと思う人。
・ラガード (laggards)
新しい技術を嫌い、最後まで取り入れない人々。
それぞれの間に溝があり乗り越えなければならないが、特にアーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーの間の大きな溝(キャズム)を乗り越えられるかどうかが、その製品が普及するか、一部の新製品マニアに支持されるにとどまるかどうかの一番の鍵であると、著者らは提唱していた。
キャズムはITサービスの流行について語っていたが、その次代には新しすぎるコンテンツの流行もこれに似たものがある。
そして、それをいち早く嗅ぎつけてエッセンスを取り入れる事に成功した人が、それを用いて次世代でメチャクチャ面白いモノを提供するのではないかな、と僕は思う。
本当に、面白い人間というのはコンテンツの感受性がずば抜けて高い。
彼らはその当時、世間では全く流行っていない最高のコンテンツを見つけ出しては、ひっそりと孤独に消費し、それを着々と自分の血肉とし、数年後にそれを使って物凄く面白いことをする。
ちょっと前に、テスラのイーロン・マスクやウィキリークスのエドワード・スノーデンが「君の名は」が大好きだという事を公表していたけど、たぶん僕が思うに、彼らも若い頃、かなりマニアックだけどムチャクチャに面白いコンテンツを消費していたに違いない。
<参考 https://kai-you.net/article/58357>
新海誠さんは「君の名は」で大ヒットを飛ばしてかなり一般化したけど、15年ぐらい前の頃から、凄くエグい話とキレイな動画を作る人としてオタク趣味の人の中では割とホットな方だった。
アーリーアダプターの人達は、自主制作やminoriで作品を作っていた頃の彼が凄く懐かしく感じるのではないだろうか。
そして多分だけど、イーロン・マスクやエドワード・スノーデンは、その頃から新海誠さんを追っかけてたはずである。
やっぱり、面白い事ができる人間は、マスがその当時は好まないような面白いものを消費しているのだろう。
どんなに溝(キャズム)が深かろうが、本当の感性を持つ人間はそれを易易と乗り越えて消費し、血肉としてしまうのである。
今の感度がいい中高生は何にハマってるのだろう?
社会人になると、仕事が私生活のかなりの割合を占めるようになり、人生の忙しさが加速的に上昇していく。
それと共に、暇な時間というものがドンドンなくなっていってゆく。
社会人以降の人生は本当に忙しい。加齢も重なって、全てのコンテンツを追っかけ続ける時間も体力も、どんどん消えてゆく。
最近、僕の私生活から様々なコンテンツが次々と脱落していっている。本当は全部追っかけていきたいのだけど、残念ながら気力も体力もそれに追いつきそうにない。
これを読んでいる人の中に今後、面白いことをやりたいと思っている人がいたら、勉強や課外活動に精を出すのと並行して、若い頃に面白いコンテンツを大量に消費する事は絶対にやっておいたほうがいい。
僕が知る限り、面白いコンテンツを消費してない人間が物凄く面白い事をやっている例は極めて稀だし、それらの面白いコンテンツを浴びるように消費するのは、若い頃にしか本当にできないからだ。
そしてこれを読んでいる若者の中に「いま、世間では全然話題になってないけど、サイコーに面白い」コンテンツを消費している人がいたら、ぜひ僕に教えて欲しい。
高校生時代の僕にとってのPCゲームやテキストサイトに相当するようなコンテンツが何なのか、物凄く興味がある。
いつの時代も、一番面白いものは若者が一番よく知っている。
そして、そういう面白いモノを消費する人達が、10年後、20年後に最も面白い事を成し遂げるのは、間違いない。
いつの時代も、コンテンツは最高の人間分度器だ。マスが全然受け入れないようなユニークなものを見抜ける人にこそ、ホンモノのイノベーターの素質があるのである。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
(Photo:Alex Davis)