わたしは、「読書ノウハウ」というものが嫌いだ。

本なんて、好きなものを好きなように読めばいい。

「読書」と「効率」というのはもっとも離れた場所にある言葉のひとつで、どうやって楽しむかと試行錯誤するのも「読書」の醍醐味のはず。

 

……なんて考えだったけど、最近「読書」についてちょっとした発見があったから、読書をより楽しむ方法のひとつとしてお伝えしたい。

 

異なる主張に触れたとき、どちらをどんな理由で信じる?

平成が終わるにあたり、『平成の通信簿』という本を読んでいたときのこと。

人口減少や高齢化問題の解消のために出生率上昇を期待するのも、倫理的な問題をさておくとしても、筋違いである。

かりに出生率が今すぐ倍増したとしても、出産適齢期の女性の数が少ない状態は次の世代まで変わらないため、少なくとも今後数十年にわたって人口は減少しつづける。

したがって、少子化への対策が、人口減少や高齢化の問題を改善するわけではなく、これらには別の対策が必要となる。

少子化と高齢化は別のことなのである。

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「ふむふむ、なるほど。……ん? そういえば結構前に読んだ本で、なんだかちがうことが書いてあったぞ」

と、ひっかかりを覚えた。

 

kindleの本棚は優に1000冊を超えていたが、その本はすぐに見つかった。

『人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか』だ。

 

この本では、高齢化と少子化について、こう書いてある。

出生率の低下は、それが人口ピラミッドの底辺を縮小させる方向にしか働かない。

人口高齢化の最大の要因が出生率の低下であることは、理論的にも、実際の計算でも明らかにされている。

片方には「少子化と高齢化は別のこと」とあり、他方では「高齢化の最大の要因は出生率の低下」とある。

 

さて、一見すると正反対に思えるこのふたつの主張を、どう受け取ればいいんだろう?

 

インプットとアウトプットのあいだにある「思考」こそが楽しい

前者は対策の話をしていて、後者は因果関係の話をしているみたいだ。

でも因果関係があるなら、少子化と高齢化の対策はセットになるよなぁ。

うーん……。

 

この記事は高齢化と少子化について考えることがテーマじゃないから、この主張に対するわたしの考えは書かないでおく。

ただ、2冊の本を比較して、考えてみて、思ったのだ。

「自分いまめっちゃ勉強してるじゃん!」と。

 

小説や漫画をのぞけば、多くの場合、読書は「知識」という『点』を手に入れる行為だ。

読書ノウハウとはいわば、どうやってこの『点』を増やすか、どれくらい速く『点』を獲得していくか、というテクニックである。

 

でも大事なのって、本から仕入れた「知識」という『点』と『点』を結んで、「理解」につなげることなんじゃないか?

 

2冊の本に、それぞれちがうことが書かれている。

どっちがどういう理由で正しいのか、それを判断するためにどんな知識が必要で、現状自分にどんな知識が不足しているのか。

知識を得たうえで自分はどう思うのか。ふたつの主張の正当性を検証する方法は?

 

そうやって考えていくことで、「知識」というただの『点』がつながって「理解」になり、自分の血肉になっていくんじゃないか。

 

ただ効率的に読むだけ、一冊の本の内容を鵜呑みにしてわかった気になるのは、「勉強」ではなく「知識という点を頭の中に詰め込んだだけ」だ。

でも、その一歩先に進めば、読書はもっとおもしろくなる!

 

いままであまり読み比べということをしたことがなかったわたしが「本を通じて異なった主張を吟味する」という楽しさを改めて感じた瞬間だった。

 

頭がいい=知識の応用力がある

話は変わるが、ふだんあまり動画を見ないわたしが唯一毎日チェックしているyoutubeチャンネルがある。それが、QuizKnock

テレビ番組『東大王』に出演していた伊沢さんが編集長を務めるチャンネルで、ユニークなクイズ動画を毎日アップしている。

 

このチャンネルのなかでもとくに人気があるのが、「有名中学入試に挑戦」シリーズだ。たとえば、『有名中学入試の難問に東大生3人で挑む!開成と灘のプライドをかけてスピード勝負!』がある。


中学入試では、ものすごく高度な数式を使う問題が出るわけでも、聞いたことがない歴史上の人物を答えさせられるわけでもない。

「どれだけ知っているか」ではなく「どう考えるか」が問われる。

 

まぁわたし、27歳だし? 12歳の子どもが解いてるわけだし? がんばればいけるっしょ?

と動画を見てみたのだが……ぜんっぜんわからない!

 

問題を解くのに必要となる「知識」という『点』は、わたしももっている。

それなのに、それをどう結んでどう正解を導きだせばいいのか、さっぱりわからないのだ。

 

しかしそんな問題を、QuizKnockのメンバーである東大生たちは恐ろしい速さで解いていく。

いや、どうなってんだ頭の中。

 

この動画を見ると、「頭がいい人は知識が豊富なだけではなく、それを組み合わせるのがすごくうまいんだな」というのがよくわかる。

それはまさに、「知識」という『点』を、「理解」という『線』にする行為。

それが上手だからこそ、彼らは「頭がいい」のだ。

 

「読んで楽しい」もいいけど、もっと読書から刺激を得たい

さて、話を読書に戻そう。

「読んで楽しい」だけでも読書には価値があるから、無理に本からなにかを得ようとしなくてもいい。

 

でもせっかく読むなら、わたしは「もっとワクワクしたい」と思う。

 

本の内容をそのまま頭に詰め込んでわかった気になるだけじゃ足りない。

読み終わったあと自分のなかになんの変化もなければツマラナイ。

 

だれかが書いた文章から「知識」という『点』を獲得し、それを自分の頭の中で並べて、

「ここには因果関係がある」

「ほかの本に書かれていた内容を補足するともっとわかりやすい」

「矛盾するデータを見たことがあるぞ」と『点』をつなげていくことで「理解」にまでもっていけば、読書はさらに楽しくなる!

 

本を読み比べることで「知識の暗記」が「理解」に変わる

ひとりの著者にのめりこんだり、同じ本を何十回も読むことを否定するつもりはない。

ただ、同じテーマに関するいろんな角度の主張に触れ、読み比べ、自分なりの「論」を組み立てていくのも、充実した読書ライフのひとつのかたちだ。

 

その分野でだれもが手に取る入門書を読み込む。

そのあと、その分野の「異端」である人の著書を読んでみたらどう感じるだろう。

なぜその人は異端なのだろう。そのちがいはどこから生まれたのだろう。

 

現在ではまちがっていると証明された科学論文があったとする。

その人はなぜまちがった主張をしたんだろう。

どういうきっかけでそれがまちがっているとわかったんだろう。

 

知識という『点』を効率よく頭に詰め込むだけではなく、その『点』をどうやってつなぐかを「ああでもないこうでもない」と考えるのがまた楽しいのだ。

そしてそれが、「本から学ぶ」ということなのだろう。

 

読書を、「知識」を仕入れるためだけの受け身作業ではなく、真っ白な地図に新たな道を描き加えるクリエイティブな作業にするために、「本の読み比べ」をぜひ、あなたにもおすすめしたい。

 

まぁ、本なんて好きなものを好きなように読むのが一番なんだけども。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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