最近では「履歴書は手書きで」が批判されがちだ。
文字で真剣度なんて分かるわけない。「手書き」のエントリーシートを要求するのは、心底やめてほしい。(Books&Apps)
わたしはつい3年半前までは大学生だったのだが、就活の際、いまだに書類を手書きすることが推奨されているのには驚いた。
ほぼすべての企業でパソコンが普及し、学生もレポートをパソコンで書いている世の中なのにも関わらず、だ。
就職講座では、「丁寧に書くべし」「修正液はNG」「まずは下書きしましょう」というありがたいアドバイスをもらった。
堀江貴文さん、手書きの履歴書は「やめて欲しい」(ハフィントンポスト)
ライブドア元社長の堀江貴文さんが3月8日、履歴書の手書きは「やめて欲しい」とツイートした。
前日にはてな匿名ダイアリーに投稿された「履歴書が手書きの奴は採用候補に入れたくない」という記事に対し、自身の考え方を示したものだ。
多大な手間を要求する「手書き」が評判悪いのは、理解できる。
合理的に考えれば、履歴書なんてPCで構わないはずだ。
だが、以前に比べて減ってはいるものの、手書き推奨の会社は決して少なくはない。
実際、つい先日「エントリーシートや履歴書は手書きが望ましい」と言う担当者と遭遇した。
「なぜ、手書きでなければならないのですか?」と聴くと彼は
「昔から履歴書は手書きと決まっているでしょう。」という。
「なぜそう決まっているのですかね?」と聞くと、
「履歴書をかく程度の手間を惜しむような人は、採用したくないからです。そういう人は、仕事もいい加減でしょう。」と、彼は言った。
履歴書だけではない。
過去に訪問したあるサービス業の会社では「日報は手書きで書け」という慣行があったことを覚えている。
一人の新人が素朴に「なぜ手書きでなければならないのですか?」と聞くと、
「手で書くことで、今日の振り返りが確実になる。」と管理職は言った。
また、ある東京の大手企業で、未だにお客様から注文をいただくと、各部署への支持、通達は「紙」によって行われていた。
「なぜわざわざ紙にするのですか?」と聞くと、一人の管理職が
「一つは上層部が、「紙」に書くほうがミスが減ると思っているため」
と回答してくれた。
*****
手書きに代表されるような「非効率重視」という感覚は、特に珍しいものではない。
例えばスーパーに行ってみれば、「手間ひまかけて」という文言が食品のパッケージに並ぶ。
営業において「顔を出すことが大事」は真理だ。
あるいは病院。医師の診察時間が短いことにクレームを出す人がいる。「ちゃんと見ているのか」と。
手間をかけているものは良いものだ、
あるいは、手間をかける事自体に価値があるのだ、
という認識は広く、深く根付いており、無理にその認識を変えようとすれば、彼らは強い抵抗を示す。
マーシャル・マクルーハンは著書の中で、以下のエピソードを引用している。
子貢が漢水の北を旅していた時、一人の老人が畑で仕事をしているのを見かけた。老人は灌漑用の水路を掘っていた。
老人は井戸に降りて、桶いっぱいの水をかかえるようにして来て、その水路にあけているのであった。その労苦が大変なものであったのに比べて、その成果は実に惨めなものであるように見えた。
子貢が言った。
「一日に100の水路に水を引くことができて、しかも労苦はわずかで済む方法がある。その方法を聞きたくないか。」
すると、その百姓は立ち上がり、子貢を見て言った。「で、それはどんな方法ですか」
子貢は答えた。「前を軽くし、後を重くした木の梃子を使うのだ。そうすれば、水が自然に吹き出すように早く汲み上げることができる。これはつるべ井戸と呼ばれるものだ。」
すると、老人の顔に怒りの色が浮かび、老人はいった。
「機械を使う者は自分の仕事を機械のようにやる。そう師が言うのを聴いたことがある。自分の仕事を機械のようにやる者は心が機械のようになる。胸に機械の心を持つ者は純真を失う。純真を失った者は魂の奮闘に自信がなくなる。魂の奮闘に自信がなくなるということは誠実の感覚に合わないことだ。わたしがつるべのようなものを知らないのではない。それを使うことを恥としているのだ。」
メディア論―人間の拡張の諸相
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おそらくこれは「孔子」のエピソードであるが、合理化への抵抗が見て取れる。
さらに、マクルーハンは作曲家のジョン・フィリップ・スーザが、蓄音機の登場に抵抗したことについても触れる。
蓄音機が出てきたことで、声の訓練は廃れてしまうでしょう!そうなったら国民の喉はどうなります。弱くならないでしょうか。国民の胸はどうなります。縮んで、肺活量が減ってしまわないでしょうか。
人は技術の変化で自分の認識が脅かされると、それに頑強に抵抗する。
「機械化」
「ソフトウェア」
「オートメーション」
「ロボット化」
などは、人間のアイデンティティを脅かすと認識される。
技術が進歩しても、人間の認識はそれほど速く変化できない。
改革に必要なのは「変化できない者の認識」を理解することだ。
「進歩的でない」「非効率だ」「守旧派だ」とバカにしたような発言をすれば、事はうまく進むどころか、むしろ頑強な抵抗を作り出し、生産性は落ちる。
中国の百姓のように、
「誠実の感覚に合わない」
「知らないのではなく、使うことを恥としているだけ」
と反論されるだけだ。
そして、彼らは自らの認識を改めるどころか、「技術や進歩は敵だ」と認識しかねない。
知能の高い人物、進歩的な人物、上層階級にいる人物たちは、概して「進歩」に対して消極的な人物をバカにしがちである。
が、企業内でも、改革をすすめるリーダーが、足元をすくわれるのはそんな時だ。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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