つい先日、高崎高島屋の中川徹社長に話を聞くため、群馬県の高崎市に行ってきた。

彼は中高の同級生で、再会するのは20年以上ぶりだ。

 

中川さんは、高崎に配属される以前は、神奈川県横浜市にある、港南台店の店長に店舗史上最年少で抜擢され、構造改革に力を尽くしてきた、やり手である。(参考:「港南台モデル」を 高島屋港南台店・最年少店長

 

旧交を温める中で、仕事の話も出る。

そこで中川さんから、3つほど、面白い話を聞いた。

 

1.高崎高島屋は、7年連続増収

百貨店の不振が報じられることが多いが、高崎高島屋は「地方都市」という条件ながら、7年連続で増収だ。

「百貨店不振」の常識から外れている。

これは「高崎市」が北関東地区における企業の主要拠点になっており、特に活力がある場所だからだ。

数字で見る高崎の都市力2018(1)人口編

ここのところ高崎市の躍進がめざましい。「高崎市が全国から注目されるようになっている」、「高崎は、全国の地方都市の中でもがんばっている」と、市民は自負していることと思う。はたして高崎市は全国で何番目くらいにランキングされる都市なのだろうか。(中略)

幸福度ランキングで全国3位(東洋経済新聞社・2016)、活力ある都市全国29位(日経ビジネス2016)となっている。

統計データから、試算できる全国順位では、都市人口=全国55位、産業規模=全国31位、商業売上=全国15位、工業出荷額=全国88位、などとなっており、高崎市の戦う土俵は全国であることが示されている。

そう、「高崎市」は、盛り上がっている地方都市なのだ。

 

2.高崎高島屋の顧客は、全国の高島屋17店舗の中で一番若い

増収とはいえ「百貨店は高齢者が使うもので、先細りでは?」というイメージもある。

 

全国的にはたしかにそうなのだが、実は高崎は異なる。

中川さんによれば、高崎高島屋の顧客は、全国の高島屋17店舗の中で一番若い。

これは「20代の顧客」が非常に多いことに起因する。高崎の高島屋は、「若い人」も使う百貨店なのだ。

 

しかし今どきの若い人はお金を持っていないのではないか、百貨店で本当に買い物をするのか、不思議に思う方もいるだろう。

実は百貨店で買い物をしている「若い人」たちは、2世帯、3世帯で同居している方も多いという。そして、高崎は生活コストが東京に比べて圧倒的に低いので、実は彼らは、経済的にそこそこ恵まれている。

 

おじいちゃん、おばあちゃんに子供の面倒を見てもらえるので、共働きも容易で、休日にはおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に百貨店で食事と買い物、というスタイルが存在している。

 

前述したように、高崎は北関東の企業の拠点だ。

だから、東京での生活が嫌になってUターンしてくる人や、地方から地方へ移住してくる人なども結構いる。

例えば、私が話を聞いた独身の女性は、北海道で酪農を営む実家から出て、高崎へ移住してきていた。

 

「地方が貧しい」と一律には言えない。

年収ベースでは東京よりも低いかもしれないが、実際の生活レベルは東京であくせく働いている人よりも、遥かに恵まれているのかもしれない。

 

3.百貨店は2つの目的で使われる。

「百貨店まで行かなくても欲しいものが買える」という話をよく聞く。

しかし中川さんは、「百貨店は目的を持って使われている」という。

 

1つ目はお中元、お歳暮、バレンタイン、ホワイトデー、ハロウィンなどのギフト需要、つまり「自分ではない、誰かのための買い物をする場所」として。

これは依然として、「百貨店で購入されたもの」には+αの付加価値を感じる人が数多くいることを示している。

 

そしてもう一つは、「接客をしてくれる場所」として。

例えば化粧品は、インターネットでもドラッグストアでも買えるが、「試したい」「店員さんとコミュニケーションを取りたい」と、美容室に行く感覚で百貨店まで足を運ぶ若い人が多いという。

 

事実、話を聞いた女性の一人は

「化粧品はいつも、高崎で買っている。都内に出なくても同じものが買えるし、店員さんと話しながらゆっくり買えるから。都内のお店は冷たい。」

と言っていた。

 

考えてみれば、経済合理性だけを求めて買い物をする人は、実は少ない。

「とにかく安く」という買い物であれば、百貨店で買う必要はないはずだが、実際には高島屋で買い物をしたい、という人が増えている。

「楽しみたい」「人と話したい」という感情は常に、合理性を上回るのだ。

 

 

私は中川さんの話を聞き、真っ先に、以下の熊代さんの記事を思い出した。

「そうか、これが地方でゆったりと、豊かに暮らす人々のスタイルなのだ。」と。

地方ならではの「勝ち組ライフ」について。

大都市圏に比べて地方は仕事の種類も少なく、個人の年収を高めるのも簡単ではない。

だが、三世帯が同時に暮らし、大人2人、いや、3人以上で稼ぐとなれば話は違ってくる。

子どもを育てるという点でも、三世帯同居のメリットは小さくない。地方の大きな家屋は、そうした暮らしを可能にしてくれる。(中略)

個人の年収では大都市圏に見劣りしがちな地方の人々が、大きな家に寄り集まって暮らそうとするのは、経済的にも、子育ての利便性からいっても、きわめて合理的な選択だと私は思う。

私は高崎に行くまでこの話は半信半疑だったが、訪れて話を聞き、合点がいった。

間違いなく、地方では一歩早く人口減少社会への適応が進んできている。

 

「より固まって住む」

「贈り合って生活する」

「世代を超えて支え合う」

 

「人々の連帯」を、一足早く実践しているのだ。

 

そして「連帯」は、人々を健全に保つと、ハーバード大学の公衆衛生の研究者は述べている。

アメリカのペンシルバニア州のロゼトはイタリア移民が建設した街で、別に他の街とどこがどう違うわけでもないが、1950年代、心臓病による住民の死亡率が周囲の街の半分ほどだった。(「縦並び社会・8」、毎日新聞6月23日朝刊)

興味を持った医学者たちが疫学的な調査を行ったが、周辺の住民との間に差異は認められなかった。食生活も喫煙率も同じなのに、なぜかロゼトの住民は心臓病になる確率が有意に低い。

調査チームは結局、その理由を「住民の連帯感が強い」ということ以外に見いだせなかった。

「お互いの尊敬と助け合いが健康をはぐくむ」

当たり前といえば当たり前のことである。

その連帯感が1960年代に入って失われてゆく。

「キャデラックを乗り回したり、ラスベガスに旅行する人も出始めた」と同時に死亡率が上がり、70年代にはロゼトの優位性は失われた。

「他人との比較や、富を求めて過重労働になるストレスと、社会の結束が崩れることが健康を損なう原因」であると、ハーバード大学の公衆衛生学の研究者は述べているそうである。

(出典:http://blog.tatsuru.com/2006/06/24_1028.html

グローバル化が進んでも、お金がなくなっても、人とのつながりや、コミュニケーションさえあれば、人はそうそう、不幸にはならない。

 

中川さんは、港南台店の店長をしているとき、「この店がなくなると、ものすごく困る」と言われたそうだ。

お店が、地域のコミュニケーションのハブになっているからだ。

事実、港南台店で買い物をする人々は、年間300日以上、来店をするという。

 

地方では、着々と「人口減少社会への適応」が進んでいるのだ。

人々の適応力には、驚くばかりである。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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