私が高校生だった頃、雑誌は娯楽の1つだった。

 

中でも、若者向け情報誌「ホットドッグ・プレス(Hot-Dog PRESS)」は作家、北方謙三の人生相談コーナーが楽しみで、よく本屋で立ち読みしていた。

北方謙三の人生相談といえば「ソープへ行け!」のインパクトが強すぎて、そういう話が滅法不得手な私はやや怯んでいたわけだが、実際に読んでみるとそれだけではなく(当然だ)どんな悩みにも決して変にいなしたりすることなく、熱く真っ向勝負で回答する姿勢に胸を打たれる。

「約束を守ることは友達関係の最低のルールであると、俺は、思う」

「これからは自分に都合のいい理由を持ってきて、自分を正当化するようなことはやめろ」

「立ち上がれない負けがある以上に、さらに多くの立ち上がれる負けがある」。

やっぱり「伝説」といわれるだけあるよ。

読書メーター

この連載を愛読していた、当時「うじうじ悩んだ小僧ども」も今や40代。

立派な中年のおっさん世代、である。

 

だがうじうじ悩むのは、小僧の特権ではない。

中年のおっさんだって、うじうじ悩むのだ。

 

そして、その悩みの多くは「組織の中で活躍できなくなったこと」だ。

 

 

つい先日『マーケ人材×複業ワーカーの問題意識を共有する会』を開催した。

問題意識を共有する会 episode 12 マーケ人材×複業ワーカー編 – これからの働き方について。をやってきた。

サラリーマンの働き方が多様化しているいま、すでに複業を実践しはじめている方も多数でてきています。ただ、現状は企業側の対応がまだまだ遅れているので、就業規則等で社員の副業を禁止している会社も多々あり、そんななかで【隠れ複業ワーカー】として、会社にも同僚にも告げずに、複業ワークを勤しんでいる方が大半なのではないでしょうか。

※【イベントレポート】第1回「複業ワーカーの集い」より引用
http://work-redesign.com/2017/02/03/fw001/

さて、本日はそんな「複業ワーカー」が集まって悩みを共有しあいましょう。
答えは出さなくて大丈夫。
まず話しましょう。

目的は、私自身がここ数年で複業の実践を積み重ねてきて、複業をやる上でのコツや留意点などのノウハウがたまってきたので、他の方にナレッジシェアしたいと思ったこと。

また、同時に他の方の複業ナレッジを学ばせていただく機会が欲しかったから。

 

テーマの性質上、参加者のほぼ全員が複業実践者にも関わらず「いまだ会社は副業NG」という人が数人いたことに驚いた。

なので、そういう人は隠れ複業実践者として、こっそり活動をしている。

とはいえ、周囲の人たちも気づいているようで、暗黙の了解を得ているようだ。

 

そんな会合の参加者の一人、Yさんが面白い発言をした。

 

「複業のなり手には2種類あると思ってるんですよ。

1つは意欲のある若者。会社から与えられた役割では飽き足らず、自分自身の可能性を追求するために複業を行うタイプ。

もう1つはね、『おじさん』ですよ。」

 

「どういうことですか?」

 

「会社の中にあまり活躍できていないおじさん、いるでしょ?

彼らだって昔はそれなりに活躍していた。ただ、時代の変化について行けなくなって、これまで蓄積してきた経験が有効活用できていないんですよ。

そういう人をもう1度使える人材に再生させることが、大事じゃないかと。その役割を複業が担う。」

 

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で知られる、山口周氏も「オッサンになりさえすれば、それなりに輝けた時代は終わった」述べている。

オッサンになりさえすれば、それなりの重職が与えられ、発言力も権力も経済的なパワーも発揮でき、それなりに「輝けた」時代は、もう終わりました。

昨今のオッサンによる不祥事や不始末は、そのような時代の終焉に対して、ルサンチマンを爆発させているオッサンたちによって引き起こされていると考えています。

 

では、「オッサン」はどのようにすれば輝けるのか。

自分の持つ人脈・知識・経験を後進の支援のために用いる、いわゆるサーバントリーダーシップの発揮というのは一つの道かも知れません。

 

あるいはまた、なんらかの学び直しにより、自分自身の社会的な位置づけをパラダイムシフトするということも考えられるでしょう。

 

 

確かに私がサラリーマン時代に所属していた組織でも、言葉は悪いが、仕事ができない営業のおじさんが一定数存在した。

 

「クライアントの要望が的確に掴めない」だから、クライアントとのミーティングは毎回私が同席する。

「クライアントからのメールに返事が返せない」だから、クライアントからのメールをそのまま転送してくる。

要するに『丸投げ』というやつである。

 

「なんだかなあ・・・」と感じる時もあった。

 

だが、結果的に顧客ニーズとは的外れな成果物を生産して、顧客の不満足を招くよりは余程マシなので『丸投げ』はまだ有難い。

クライアントからのメールを受け取ると、必ず10分以内にこちらに転送してくるおじさんがいて、むしろ愛おしく感じたものである。

 

もっとタチの悪い営業のおじさんは、クライアントの理不尽な要求に対して、一緒になって打開策を考えてくれるどころか、

「お得意さんの要望なんだからなんとかしろ、お金もらってるんだから、やり遂げてナンボだろ!」

と、完全にクライアントの代弁者に成り切って、現場(私たち内勤スタッフ)に対して圧力をかけてきた。

 

こういう態度には本当に頭にきたものだが、何より恐ろしいのは、悪弊の伝染である。

つまり、知らずしらずのうちに自分も似たような行為を川下の存在である取引先に対して行ってしまうこと。

同じ穴の狢というやつだ。

 

もちろん自分自身はそんなつもりは毛頭なく

『与えられたミッションを着実にこなすべく、社外の協力パートナーと一致団結して、この難局を乗り越えてみせる』と正義感に燃えていたわけだが、それはあくまで私の主観であって、他人からは違う景色が見えていたようだ。

 

「君は確かに仕事頑張っているけど、あれだね、札束で頬をひっぱたいて人を動かしてるだけだよね。」

 

当時の上司との評価面談で、こんな辛辣な言葉を投げかけられた。

私が嫌悪する、もっともタチの悪い営業のおじさんと本質的に同じマインドだったのである。

 

今から10年ほども前の出来事だが、未だ忘れられない台詞だ。

 

 

時計の針を少し進めて、2015年頃、私はNPOに関わる機会があった。

社会人と大学生が一緒になって活動を行うNPOで、年長者である私がリーダー役となり、大学生のメンバーとともにプロジェクトを進めることになった。

 

だが、会社で部下や社外の協力パートナーと接するのとどうも勝手が違う。

指示・命令しても大学生メンバーは基本的に動いてくれなかった。

 

考えてみれば、大学生メンバーは別に給料をもらっているわけではない。

ボランティア精神から関わっている子もいれば、就活に有利だから、スキルを身に付けたいから、面白い社会人と出会いたいから、など多種多様な思惑でNPOに所属している。

 

だから、単純に納期提示(いつまでに)と役割(誰が何をするか)の割り振りだけでは、物事は何も前進しない。

また、一人一人「やる気スイッチ」が違う。

メンバーの実現したい事とタスクが合致していないと動いてくれない。

 

ここでは「お金の力でいうことをきかせる」という、これまでのマネジメントが全く通用しないので、彼らを動かそうとするならば、彼らのメリットにつながる動機付けが必要不可欠なのだ。

 

私はここで初めて『非金銭的報酬』という概念に出会った。

『非金銭的報酬』を正しく行使するには、

・メンバーの実現したい事を深く把握する:人間関係構築スキル、傾聴スキル

・メンバーの実現したい事が実現できる(あるいは近づける)タスクを用意する:人間中心の業務設計スキル

・メンバーに「そのタスクをやりたい!」と思ってもらう:コミュニケーションスキル

といったスキルの組み合わせが必要である。

 

当時は『非金銭的報酬』という概念すら知らなかったが、所属するNPOのビジョンに深く共感していたことと、若い連中と一緒に「何を面白いことを成したい」という想いはあった。

そこで、この機会を利用し、『非金銭的報酬』を行使するためのスキルを磨きながら、プロジェクトを進める努力をした。

 

もちろん本業で培ってきたスキルも大いに駆使したのだが、これは大変良い経験となった。

なぜなら『非金銭的報酬』という武器は、NPOのような『金銭的報酬』が通用しない世界だけではなく、ビジネスの世界においても大いに威力を発揮するからだ。

 

『金銭的報酬』と『非金銭的報酬』の2つの武器でマネジメントすることは、いわば二刀流の使い手にレベルアップするということだ。

 

 

このことを強く自覚したのは、NPOとの関わりを持ったあとの、一風変わったプロジェクトでの経験である。

 

「発売前の新商品が、想定顧客層に支持される(買ってくれる)かどうかを判断したい。支持されるなら新商品を量産するための本格投資に踏み切る。そうでないなら新商品は発売せずプロジェクトは打ち切りとする。その判断材料を提供して欲しい。」

クライアントからこんな難題を突きつけられたときのことだ。

 

売上UPのための「販売促進施策」や「認知向上施策」は馴染み深い。

が、新商品を市場に投入するかどうか意思決定するための判断材料を提供する、いわゆるテストマーケティングという手法は、恥ずかしながら自分自身は未経験であり、周囲にも経験者がいない状況であった。

 

「やり切る自信がないのでお断りします」という選択肢も浮かんだが、プロジェクト自体に大きな魅力を感じたこと、クライアント担当者の熱意に絆されたこともあり、チャレンジすることにした。

 

結論から言えば、クライアントの求める結論まで導けたわけだが、そこに至るまでが大変だった。

何しろ自分自身が未経験領域のプロジェクトマネジメントであるため、プロジェクト開始当初は成功シナリオが見えていない。

かつ、予算も満足のいくだけの額が用意されているわけではなく、金銭的報酬だけを対価として捉えたら決して“おいしい仕事”ではない。

 

こんなプロジェクトをどうマネジメントしたら良いのだろう?

 

肝はチームビルディングであり、そのために『非金銭的報酬』を用いる他なかった。

 

まず、過去に取引実績がある仕事仲間、あるいは、信頼できる知人のツテを辿って

『テストマーケティングの実践経験があるリサーチャー・ディレクター』

をリストアップ、面談セットした。

 

面談では、以下の条件に従って、まず候補者を絞り込んだ。

・お金でしか動かない人は除外

・やりたいことが特にない人は経験によらず除外。

 

そして、以下のプロセスを通じて、候補者を説得した。

・候補者の「やる気スイッチ」「得たい経験」がどこにあるのかを観察する。

・候補者へ、プロジェクトへの参画を要請し、合意を取る。

・候補者の要望によっては、クライアントへの交渉を行う。

 

結果的には、ありがたいことに(他にこれといってめぼしい仕事がなかっただけかもしれないが)

1.プロジェクトへのやりがいを見出してもらう

2.仕事をしやすい環境があると認識してもらう

のに成功した、強みが異なる3名のチームメンバーを採用することができた。

 

正直、私が行ったチームビルディングのやり方は自己流もいいところの荒削りなものだった。

しかし、真に優れたコーチも次のようなことを言っている。

どんな会社の成功を支えるのも、人だ。

マネジャーのいちばん大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことだ。

われわれには成功を望み、大きなことを成し遂げる力を持ち、やる気に満ちて仕事に来る、とびきり優秀な人材がいる。

 

優秀な人材は、持てるエネルギーを解放し、増幅できる環境でこそ成功する。

マネジャーは「支援」「敬意」「信頼」を通じて、その環境を生み出すべきだ。

 

「支援」とは、彼らが成功するために必要なツールや情報、トレーニング、コーチングを提供することだ。

彼らのスキルを開発するために努力し続けることだ。すぐれたマネジャーは彼らが実力を発揮し、成長できるよう手助けをする。

 

「敬意」とは、一人ひとりのキャリア目標を理解し、彼らの選択を尊重することだ。会社のニーズに沿う方法で、彼らがキャリア目標を達成できるよう手助けをする。

「信頼」とは、彼らに自由に仕事に取り組ませ、決定を下させることだ。彼らが成功を望んでいることを理解し、必ず成功できると信じることだ。

 

非営利団体だけではなく、ビジネスの世界でも『非金銭的報酬』という武器が有効に働くことは、今や多くの人が知るところとなった。

 

 

これまで札束で頬をひっぱたいて人を動かしてるだけの『オッサン』になりかかっていた私が、『非金銭的報酬』を獲得した体験は、なにも特殊なスキルが必要とは思わない。

また、私のようにNPOへの入門という迂回を経験しなくても良いとも思う。

 

もし、『オッサン』度合いが進行していると自覚し、心から自分を変えたいと願っているならば、必要なことはたった1つ。

自分が知らなかった世界に身を置き、自らの無力さに悶える勇気だ。

 

要するに、中年になり「組織の中で活躍できなくなった」と感じたら、「学び直し」が必要な時が来たということだ。

 

学び直しは多くの場合、心地よいものでも、かっこよいものでも、楽しいものでもない。

人間というのは居心地の悪さを解消しようともがき苦しむ中で、なんとかそこから脱しようとジタバタする。

このプロセスこそが『オッサン』に再び輝きを与える。

 

このまま表舞台から消えるか。

それとも、苦しみ、悶えながらも、もう一度輝けるチャンスに賭けるか。

選択は自由だ。

 

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【著者プロフィール】

倉増 京平

18年間勤めた広告会社(電通isobar)を卒業して、2019年8月よりティネクトに参画。
note に中年おっさんの挑戦ストーリー書きました。

Twitter再開しました。ぜひ繋がってください↓
Kyouhei Kuramashi(倉増京平) (@kuropato) | Twitter

 

<Photo:James Cridland>