新型コロナの影響で、夫が在宅ワーカーになってもう2週間。
……いや、3週間? もしや1ヶ月経った? まぁいいや。
勤務時間中の夫は、とにかくよく電話している。
聞き耳を立てるつもりはないけど、ある程度声は聞こえてくるもので。とはいえ、内容はさっぱりわからん。
夫は不動産関係の仕事だから、門外漢のわたしが理解できないのは当然なんだけど。
でも専門用語が飛び交うネイティブ同士のドイツ語のやりとりを聞くと
「やっぱりわたしには海外で企業勤めするほどのスペックはなかったんだなぁ」
と改めて痛感する。
よくお問い合わせで「ドイツで仕事は見つかりますか」と聞かれるけど、答えはかんたんだ。
「あなたに雇う価値があれば仕事は見つかる」。
ドイツで就活したとき、わたしにはその価値がなかったから仕事が見つからなかったんだよ!
仕事における言葉の壁は想像以上に厚い
いやね、みんなね、仕事における言葉の壁を甘く見すぎなのよ。
TOEIC900点だからなに?ってレベルだからね、現実は。
そんなんネイティブならできて当たり前で、そのネイティブと同じポストを奪い合うんだから、その国の言語ができるのはなんのアピールポイントにもならないのよ。
たとえばあなたが客で、投資のために銀行に100万円預けるとしよう。
そこで「ある程度日本語がしゃべれる外国人」と、「日本語を母語として名前も見た目も明らかに日本人」を選べるとしたら、どっちに100万円預ける?って話なんですよ。
わたしはもちろん日本人を選ぶよ、当たり前じゃん。
たとえいい人であっても、契約書を100%理解できているかわからない外国人に、積極的に大金を預けたいとは思わないもの。
それを「差別」だという人がいるけど、これはあくまで「ビジネス」の話だ。
同じスペックだったら、言語力に不安がある外国人よりはネイティブのほうがいい。
それは雇う側も客の立場としても、当然考えることだろう。
言語も文化も共有できる人のほうがトラブルの確率が低いし、いろいろと話が早いから。
とはいえ、いざ自分が「外国人」になると、そんな当たり前のことをきれいさっぱり忘れて海外生活を夢見る人は多い。
「ある程度語学力もあるし、それなりの大学を卒業してるし、まだ若いし、仕事なんて見つかるだろう」と。
でも考えてみてくれ。
ある程度の語学力しかなく、聞いたことない海外の大学を卒業し、若いがゆえに職歴がない外国人を、あなたは採用したいだろうか?
あなたの海外移住にかける意気込みがどれだけのものであろうが関係ない。
雇い主にしてみれば、一生懸命勉強しても所詮ネイティブ以下の言語力の外国人なんて、+αの要素がないかぎり雇うメリットはないのだ。
なんども書くけど、そのあたりわたしは脳内お花畑だったから、ドイツで仕事が見つからなかったんだよ!
「外国人労働者」としての自分の価値を冷静に判断できなかった
ドイツで就活していた当時のわたしのスペックはこんな感じ。
・立教大学卒業の新卒22歳
・ドイツ語力C1
・職歴は接客業を中心としたアルバイトのみ
日本でいえば「まぁふつう」だろう。
でも「外国人労働者」となると、話は大きく変わってくる。
中途半端な言語力で、専門分野もなく、そのくせいっちょまえに「人並みの給料と待遇」を求めるような外国人、だれが欲しがるものか。
そんなんだったらネイティブ雇うわ。
自分にとって海外移住は大きなチャレンジだから、
「一生懸命勉強して語学テストにもパスしたからきっと」
なんて思っていたけれど、とんだ甘ちゃんだった。
「雇うメリットを提示できなければ仕事は見つからない」なんて当然のことを、ドイツで就活に苦戦して困るまでまーったく考えていなかったのだから、海外移住ハイって怖い。
でも時折いただくお問い合わせメールやSNSを見る限り、
「海外で就活します! 語学テスト○点、インターン経験(1週間)あり! 1ヶ月留学しました!」
という、同じような海外移住ハイの人々が後を絶たない。
過去のわたしを見ているようで、平たくいえば黒歴史を掘り返されているようで、「あぁぁああああああ!!」となる。
いや、チャレンジはすばらしいと思うよ! でもね、君より高スペックのネイティブなんていくらでもいるんだよ!
もうちょとこう……「外国人労働者としての自分の価値」を低めに見積もっといたほうがいいんじゃないかな!?
「海外で仕事を見つける方法」なんて情報が溢れているうえ、「グローバル採用」なんて言葉があるから勘違いしている人も結構いるけど、海外に移住して現地企業でオフィスワークするって並大抵のことじゃないんだよ、本当は。
日本食レストランで低賃金労働するしかない日本人だっている
もちろん、海外で仕事を見つけて生活している人だってたくさんいる。
でもそういう人たちは、
・言語のハンデを差し引いても引く手数多の専門家
・日本人であることがメリットになる、もしくは言語に特化した仕事
・言語力を含め能力を求められない低賃金の仕事
のどれかに限られる。
いわばそれが、「その人を雇う理由たりえる+αの要素」なわけだ。
専門家は、それこそ相手が「通訳をつけて住居も用意するので来てください」という待遇で呼ぶ人たちで、凡人には関係ない世界の話だ(たまに語学的ハンデすらない有能専門家という超人もいる)。
日本人であることがメリットになる、もしくは言語に特化した仕事とは、現地で日本企業との取引を担当したり、日本語を教えたりすることを指す。
「海外で仕事を見つける」ことだけが目標であれば、日本人であることをフルに利用するのも、生活する一つの手段ではある。
ただ問題は、「言語力を含め能力を求められない低賃金の仕事」に従事する「しかない」人々だ。
専門もないし、経験もないし、語学力もそこそこしかない。なんなら語学力すらない。
でももう移住しちゃったからカネがいる。
だから仕方なく、本来の夢とはまったくかけ離れた仕事をするしかなくなるのだ。
現地で仕事が見つからず、結局現地の日本食レストランで低賃金で働かざるをえない人は、案外少なくない。
憧れの海外生活を実現させた人がいる一方で、望まぬ環境で働かざるをえない人もいる。
日本で搾取される外国人がいるように、海外で搾取される日本人もいるのだ。
「仕事があるだけマシ」ともいえるけど、日本のように専門知識と職歴がなくとも雇ってもらえるという認識で海外に行くのは、かなり無謀だ。
海外で就職したいなら「現実的」に考えるべし
わたしのまわりにも、望んでいた仕事が見つからずに帰国した人なんていくらでもいる。
いやまぁ、そりゃそうだよ。
夫の仕事の会話を聞いてると、「こんなレベルでやりとりできないわ」と思うもん。
ビジネスの場で「外国人だからしょうがないよね」なんて通用しないし、「この単語がわからなくて契約失敗しました」なんて許されるわけがないし……。
本当にねぇ、海外で働くって大変なんだよ。
カフェバイトですら四苦八苦だったからね、正直なところ。
いやまぁ「お前のスペックと精神力の問題だろ」と言われたらそれまでなんだけど、心折れて帰国した人なんていくらでもいるから……。
失敗も人生の一部だから忠告なんてお節介ではあるし、実際にどうにかなってる人もいる。
でも「わたしはこうやって仕事を見つけました! 海外で働いています!」という情報に対し、「わたしは仕事が見つかりませんでした! 海外就職失敗です!」という情報があまりにも少ないのは、ちょっとどうなの?と思う。
だって、夢の海外生活を実現させた人より、海外で就活失敗(仕事は見つかったけど満足できる待遇じゃない人含め)した人のほうが多いだろうから。
こういうことはいままで何度か書いているけど、そのたびに「夢を壊された」「そんなひどいことわざわざ言う必要ない」「ネガティブキャンペーンしてなにがしたいの」なんて批判を受けた。
でも「雇うメリットや必要性がなければ外国人なんて雇ってもらえない」という現実から目をそらすのであれば、海外で仕事をさがすなんてリスキーなことはしないほうがいい。
だからわたしは、これからも定期的に書いていきたい。
「海外移住して現地企業に就職したいなら、もっと『現実的に』考えた方がいいよ」と。
そのうえで挑戦するのなら、「ぜひ夢を叶えてくれ」と思うけどね!
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)
- 雨宮 紫苑
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by Pedro Ribeiro Simões