リスクを負わぬ者、意思決定にかかわるべからず
ナシーム・ニコラス・タレブの著作、「身銭を切れ」は間違いなく傑作だ。
「リスクのとり方」を学ぶのに、これ以上の本は無いと言っても良いと個人的には感じる。
彼の主張は非常にシンプルだ。
重要なのはただ「実世界に対してリスクを背負い、よい結果と悪い結果のどちらに対しても、その報いを受ける」こと。
つまり「リスクを負わぬ者、意思決定にかかわるべからず」である。
「身銭を切れ」には、そうしたいくつかの実践的な見解が述べられている。
・袋叩きに加担しながら善人面をする連中は悪
・アドバイスを聞くなら〝考え〟ではなく、アドバイザーが実際にやっていること教えてもらえ
・身銭を切ると、退屈な物事が急に退屈でなくなる(航空機の乗員にとっての安全点検など)
・自分の意見に従ってリスクを冒さない人間は、何の価値もない。
確かにこれは「ペテン師」と「本物」を見分ける非常に良い方法で、「リスクを取っている度合い」によって、その人の主張の信頼性が問われるのは、古来から同じである。
だから、「サラリーマンなんかやめなさい」だったり、「学校なんか辞めて起業せよ」と煽る輩が数多くいるが、彼らを信用するのは辞めたほうがいい。
なぜなら、煽った連中は、あなたがサラリーマンを辞めたことから(本やセミナー、他の手段で)利益を得るかもしれないが、あなたが破滅しても彼らの懐は傷まないからだ。
そのようなことを勧める連中は、ペテン師であることがわかる。
権力者は身銭を切らなくてはならない
これは意思決定に関わる権力者ほど、身銭を切るべきだという原則に通じている。
特に、政治家や大企業の経営者には厳密に適用されねばならない。
「失敗の責任を取らない権力者」ほどの害悪はない。
ローマ皇帝の殉職率は50%を超えているが、強大な権力行使に伴う失敗の代償は、本人の命だった。
逆に、現代社会で最も大きなリスクを取っているのは起業家だとタレブは言う。
起業家は社会の英雄だ。私たちのために失敗を肩代わりしてくれる。
起業家は「自由に意思決定をする」権力を握っているが、少なくとも失敗に対して責任を負っているからだ。
だが、もちろん身銭を切らない「似非起業家」にはもいる。
騙されてはならない。
しかし、資金調達や今日のベンチャー・キャピタルの仕組みのせいで、世の中には本当の意味で身銭を切っていない似非起業家があふれている。
「身銭の切り方」こそ、本物と偽物を見分ける鍵である。
人間づきあいも同じ
これは、人間づきあいでも全く同じことが言える。
単純に言えば、人付き合いにも身銭を切る事、つまり「とった行動に応じた報いがあるべき」なのだ。
彼に言わせれば、人間関係の原則は
まずは誰にでも優しく接しろ。でも、相手が力を振りかざそうとしてきたら、こっちもやり返せ。
である。
これが大原則だ。
悪人、口だけの干渉屋、いじめに加担する人物、言行不一致、手を動かさない怠け者たち。
つまり「他者から奪うだけ」の人物を排除することで、人付き合いは改善するのである。
ここまでの話を読んで、「当たり前の話じゃない?」と思われる方も多いかもしれない。
そう。当たり前なのだ。
だがこの「当たり前」というやつが、結構難しい。
他人に奉仕しすぎて、搾取される人々
ペンシルバニア大学ウォートン校教授の、アダム・グラントは著作の中で、成功のための重要な要因として「ギブ・アンド・テイク」に対する考え方を挙げた。
彼は、人々を3種類に分類した。
受け取るだけの「テイカー」
貰えばお返しするバランス派の「マッチャー」
そして惜しみなく与える「ギバー」だ。
では、最も成功してたのは誰だっただろうか。
抜け目ない「テイカー」?
文字通りギブ・アンド・テイクの「マッチャー」?
実は、最も成功していた人々は「ギバー」、つまり「人に与える」人々だった。
これは直感的に納得がいく。
「最も多く受け取る人は、最も多く与えている」のは真実だ。
では、逆に、最も成功から遠いのは、どのグループだったか?
実は、職業に関わらず、最も成功から遠いのも「ギバー」だった。
そんなバカな、と思う方も多いかもしれない。
だが、エンジニアの世界においても、医学部でも、販売員でも、「ギバー」は成績の最も低いグループに、最も数が多かった。
彼らは、「自分」より「人」を優先するため生産性が低く、成功するどころか、逆に損をしていたのだ。
ギバーは、「搾取されるお人好し」と「圧倒的な成功者」の両極に存在する。
これは非常に興味深い事実である。
「搾取されるお人好し」と「圧倒的な成功者」の差は「テイカーの排除」
では、「搾取されるお人好し」と「圧倒的な成功者」の差は一体どこにあったのか。
これがまさに、タレブの言う「排除」だった。
アダム・グラントは以下のように述べ、「テイカーとつき合うときには、マッチャーになればいいのだ。ただし、最初はギバーでいたほうがよいだろう。」と言っている。
嘘に引っかかったり、食い物にされたりするのを避けるには、本物のギバーと、テイカーや詐欺師を見分けることが重要だ。
成功するギバーになりたければ、自分の身を守るために、人を操って利用しようとしている人間を見抜かなければならない。
「テイカーを排除するギバー」は、成功者になり、「自己犠牲に終止するギバー」は、搾取される。
自己犠牲は決して美徳ではない。
だから、人に 「わけへだてなく接する」ことも美徳ではない。
人を食い物にしようとする連中に対して、それ相応の報いを受けさせる。
それが「身銭を切らせる」ということである。
タレブは「良い垣根が、良い隣人を作る」と述べている。
複雑系について研究する物理学者のヤニア・バーヤムは、「よい垣根がよい隣人を作る」ことを、きわめて説得力のある形で証明した。
「誰でも受け入れよう」は、言葉としては美しいが、実は誰でも受け入れる事はやめたほうがいい。
不誠実な相手には、やり返すか、排除する。
それが健全な人付き合いってものだ。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
◯Twitterアカウント安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)
◯安達裕哉Facebookアカウント (他社への寄稿も含めて、安達の記事をフォローできます)
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◯ブログが本になりました。