妻から、「友達の旦那が、最近転職した」という話を聞いた。

 

そこそこの良い企業に勤めていたと聞いていたし、企業が採用を手控えているこの時期だ。

求職者にとっては転職に不利益になる可能性も高い。

だから「なんでこの時期に?」と聞いた。

 

すると妻は「テレワークをやめて、出社に切り替えろと言われたので、会社の方針に呆れて転職したんだって」という。

 

へえ、そんなことがあるのか、と思い、周りの人にも聞いてみると、確かにそのような理由での転職が増えているようだ。

中には、「この時期に出社を強制するということは、社員とその家族の健康を軽んじている」という方もいた。

 

そういうことか。

私は合点がいった。

つまり「テレワークに消極的な会社」を見放す人が増えているのだ。

 

 

東京都の現時点でのテレワークの導入率は、約6割。

今後導入予定の会社と併せると、約75%の会社が、テレワークに意欲的だ。

さらに、通勤時間の削減や、非常時の事業継続、育児や介護へのポジティブな影響があるなど、従業員の対韓的なメリットも非常に大きいという調査結果が出ている。

(出典:東京都 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/09/14/documents/10_01.pdf)

 

また、会社員の多くはテレワークの継続を希望している。

事実、連合の調査では、テレワークを希望する労働者が8割を超えているという結果が出ている。

(出典:連合 https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20200630.pdf?32)

 

したがって、当然のごとく「テレワークに消極的な会社」は、従業員を惹きつけておくことが難しくなってきている。

 

ところが「抵抗勢力」もいる。

会社の「幹部」と呼ばれている面々だ。

テレワーク導入率は地域や業種で差、部長クラス以上の約半数が懐疑的–Dropboxが調査

 

上のDropboxの調査では、経営者~部長クラスの48.9%は、「テレワークのメリットを感じていない」と回答した。

少し前の調査ではあるが、それにしても数字を見ると現場との意識の差がひどい。

しかも調査は「ナレッジワーカーの有職者(製造業、運輸業の一般職は除く)」に限定して行ったものであり、「テレワークが不可能な仕事」ではない。

結局、彼らこそ、「変化」に対してもっとも弱い層だということが、明るみに出てしまった格好だ。

 

そりゃ日本企業、凋落しますって。

 

 

しかし一体なぜ、彼らはそれほど「出社」にこだわるのだろう。

 

大きな一つの理由は、「監視していないと社員がサボる」と思っている輩が多いことだ。

日本電産の永守会長は、過去、そのように思っていたことを素直に告白している。

テレワークは、どれだけ働いたか評価もできないし、信用ならないものだと以前は思っていた。それでも今の状況では、仕事より人命が大事だと考えてテレワークを導入した。

(出典:日本総研 https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36277)

しかし実際には、「サボる」のではなく、「働きすぎる」ほうがはるかに問題なのだ。

・通常の勤務よりも長時間労働になることがあったと半数超(51.5%)が回答

・時間外・休日労働をしたにも関わらず申告していない回答者が6割超(65.1%)

・時間外・休日労働をしたにも関わらず勤務先に認められない回答者が半数超(56.4%)

(出典:連合 https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20200630.pdf?32)

サボるやつは、オフィスだろうがテレワークだろうがサボるし、働くやつはどこでも働く。

それだけの話だ。

 

このように言うと、「ひらめきが生まれない」と主張する連中もいる。

しかしこれについては、MITが選ぶ「35歳以下の世界中の革新者35人」に選出された、ジェイソン・フリードおよび、RubyonRailsの作者である、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンが主張するように、多分に疑わしい。

そもそも「ひらめき」は顔を突き合わせるのが必須ではなく、また、「ひらめき」が本物であることは少ない、と彼らは言う。

そんなふうに思うなら、すこし冷静になったほうがいい。そもそも会議の場で「すごいアイデア」だと思ったからといって、本当にすごいアイデアであることは多くない。その場の興奮で、すごい気がしているだけだ。

それに、ひらめきの連鎖は会議室以外でも起こる。必要なのはたった2つ。音声がつながっていて、画面が共有できればいい。たとえばオンライン会議ツールのWebExを使うと、リアル会議とほぼ変わらない感覚で会話ができる。

会議室が100%再現できるとはいわないが(1%や2%のリアルさは失われる)、思った以上に違和感なく話しあいが進められるはずだ。

顔をあわせる会議には、たしかに価値がある。会議の数を減らせば、その価値はさらに高まるだろう。

レアだからこそ、特別な時間が生まれるのだ。顔をあわせるというぜいたくは年に数回だけにしておいて、それまでのあいだはいろいろなツールでしのげばいい。それでもきっと、十分すぎるほどのアイデアがでてくることだろう。

「ひらめきが生まれない」と言っている輩は一度でも、インパクトのあるアイデアを具現化したことがあるのだろうか?

それは、フェイストゥーフェイスでないと実現できないものだったのだろうか?

 

幹部の「ひらめき」を具現化するのは結局現場だ。そして「ひらめき」と「具現化」は、恐ろしくレベルが違う。

「ひらめき」は多くの場合「ひらめいた気になっている」程度のものなのだ。

 

 

だから、本音は上のような「きれいな理由」ではないと私は見ている。

実際に幹部たちが「出社」にこだわるのは、彼らの稚拙なマネジメントのツケを、社員が払っているだけだ。

 

「テレワークだと部下が何をやっているか見えない」という主張は、おそらく部下が何をやっているか普段から見えていない連中の主張だ。

「生産性が下がる」という主張は、いままで何も生産性について取り組んでこなかったからだ。

「テレワークだと、コミュニケーションがうまく取れない」という主張は、部下からすれば迷惑なコミュニケーションを幹部が強要しているだけのことも多い。

「ひらめきが生まれない」のはテレワークと関係ない。アイデアを普段からつぶす上司のせいだ。

 

要は、「テレワークのせい」にしておけば、自分の無能さを棚に上げられる。

だから彼らはテレワークに消極的だ。

 

もちろん、部下たちは知っている。

彼らの無能さのツケを自分たちが支払っていることを。

 

だからこのご時世に「出社せよ」という会社に対して、馬鹿馬鹿しい、いい加減にしろ、転職だ、と思うのは当然だ。

逆に、理解ある経営者の会社で「都心に住む意味がなくなった」と言って、郊外に家を買ってしまった人が、私の周りに数名いる。

 

だから、いま働くに良い会社は、「オフィスは用意しておくけど、来ても来なくてもいいよ」という態度だ。

実際、カリフォルニアに住む知人も、「会社が永久フルリモートになる」ので、州税の安い土地に引っ越しを考えていると言っていた。

ただ、「若い人たち」とか「ルームメイトがいて、部屋をシェアしている人たち」は会社に来たがるので、会社に来たい人は行く、家にいたい人は家にいる、というシステムになるとのこと。

 

通勤は人生の無駄遣いだし、9時ー5時の間に仕事をしなければならない道理もない。

住む場所は自由に選べたほうがいいし、世界中のすべての人材を雇えたほうがいいに決まっている

豪華なオフィスを見せびらかすのは、低俗な趣味だし、オフィスを部分的に解約すれば、利益率も向上する。

 

本当に顔を合わせないとできないことは、わずかしかない。

「テレワークに消極的な会社」を見放す人がめっちゃ増えてるのは、必然なのだ。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

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