今日はこの場を借りて、Books&Apps編集部の方々に、反省の意を伝えたい。
2017年、4年前の話だ。
フリーランスになってまだ間もない頃で、当時のわたしは「有名になるぞ!」と鼻息を荒くし、「自分の価値は強気にアピールしていくべし」という巷のフリーランスノウハウを鵜呑みにしていた。
だから、たくさんの人に記事を読んでもらえたとき、ここぞとばかりに言ったのだ。
「原稿料をあげてくれませんか」と。
いま考えると、とんだ思い上がりだったと思う。
新人ライターがバズを経験し、勢いあまって給料交渉
2016年、わたしはまだ駆け出しフリーライターで、たいした実績もなかった。
そんななかどこかに寄稿できないかと調べたところ、『Tatsumaru Times』というブログが寄稿記事を募集していることを知り、勢いで応募。
公開された記事はBLOGOSやハフィントンポストに転載され、厚切りジェイソンさんやなんだか有名そうな教授などに拡散していただき、人生初の「バズ」を経験した。
その実績をひっさげ、わたしは愛読していたBooks&Appsのお問い合わせフォームから、「記事を書かせてください」と連絡。
ありがたいことに、「自分も雨宮さんの記事を読んでおもしろいと思っていました。ぜひ」というお返事をいただいた。
こうしてわたしは、このBooks&Appsのライターとなったのだ。
はじめて寄稿した記事が公開されたのが、2017年6月30日。
そして、3記事目となる『「ちがう意見=敵」と思ってしまう日本人には、議論をする技術が必要だ。』という記事が、びっくりするほどバズった。
朝日新聞に載せていただくほどだったからね。そりゃびっくりもするよね。
ライターとして活動をはじめた直後にバズを何度か経験したわたしは、「これはいけるぞ!」と前のめりだった。
だから、3記事目でバズったことを理由に、さっそく原稿料アップの交渉に踏み切ったのだ。
「原稿料をあげていただくことは可能ですか?」と。
新卒フリーランスの波に乗り野心に溢れ強気になっていた
4年前の当時は、「新卒フリーランス」という言葉が流行りだし、平成生まれの同世代がブログで生計を立て、ネット上で目立っていたタイミングだった。
「ノマド」という言葉がもてはやされたり、オンラインサロンが注目を集めたり、とにかくそこらへんの界隈に勢いがあったのだ。
わたし自身もそういう人たちの影響を受け、同世代のフリーランサーがいう
「自分を安売りするな」
「自分の値段は自分で決めろ」
「ちゃんと評価してくれる人と仕事をすべき」
という言葉を真に受けていた。
だから、たくさんの方に記事を読んでいただいたとき、まっさきに思ったのだ。
「これはもっとお金もらっていいんじゃない!?」と。
でも、そもそもPV(ページビュー、記事が何回読まれたか)というのは、一過性で運要素も強い。
偶然インフルエンサーに見つかって注目されることあれば、面倒な人に絡まれて突然炎上することもある。
話題になった記事の関連記事だったという理由で、公開から半年後に急に拡散されることもある。
いい記事が読まれやすいのはもちろんだが、記事が読まれるのにはさまざまな要因があるわけで。
結局のところ、だいたいはそのメディアのもともとの影響力と、拡散してくれる人の影響力のおかげなんだよね。
それなのにわたしは、ちょっと記事が話題になったからってそれを「自分の実力」だと勘違いし、「自分の手柄だ! もっと金をくれ!」とお願いしてしまった。
どれだけ自分は思い上がってたんだ、調子に乗っていたんだ、という話ですよ。
もう4年も前の話になるけど、わたしはこの件を、いまだに申し訳なく思っている。
(それを伝えたことはないから、この記事を受け取った編集の方は驚いているかもしれないけど)
「結果が出なくても大丈夫」という言葉のおかげでいまのわたしがいる
読まれる記事がある一方で、当然ながら、読まれない記事もある。
ほかの人の記事は読まれているのに、自分の記事だけ明らかに数字が低い……というのは、ライターならだれしもが経験したことがあるだろう。
PVがすべてではないとはいえ、「どれだけ読まれたか」を気にしない書き手なんていないと思う。
そんなわけで、記事の納品の際、何度か編集部の方に
「最近なかなかPVが伸びずすみません……」
と言ったことがあった。
それに対していただく言葉はいつも同じで、
「お気になさらないでください。いいと思うものを自由に書いていただければ!」
である。
フリーライターなんて掃いて捨てるほどいるんだから、わたしじゃなくてもいいはずなのに。
それなのに、「数字として結果が出なくても大丈夫」だと言ってくださるわけですよ。
それに引き換え、わたしときたら!
ちょっと数字がよかっただけで原稿料アップの交渉をするなんて!
本当にもう、自分のことしか考えてなくて恥ずかしい。
4年経ったいまになって改めて記事にしちゃうくらいには、この件をずっと忘れられずにいた。
赤字はスルー、黒字は「自分のおかげ」は自分勝手
さてさて、そんななか、先日公開された『面倒な人の欲求を「察してあげる」と、増長してさらに扱いづらくなる』という記事は、久しぶりに多くの方に読んでいただいた。
4年前は、「うっしゃバズったぜ~。うへへ、原稿料の交渉だ!」と目を「¥」にしていたわたし。
しかしいまは、
「お世話になってるメディアにちょっとでも恩返しできてよかった~! いつも本当にありがとうございます! これからもがんばります!」
と、180度ちがう態度でその数字を受け止めた。
当時はわかっていなかったけど、成功って、「結果を出せないあいだも見放さないでいてくれる環境」があってこそなのだ。
ライターに限らず、仕事をしていれば、「元が取れない」ことはある。
つねに利益を出せればいいのだが、打率10割なんてできっこない。
そんなとき多くの人は、「そういうときもあるよ」と肩をポンポンして励ましてくれるよね。
そして、見放さないでもう一度チャンスをくれる。
結果を出せるのは、そうやって待っていてくれた人のおかげ。
「自分の手柄」なんて、成功のうちのほんの何割かだけなんだよ。きっとね。
当時のわたしは、他の人がフォローしてくれていること、長い目で見てチャンスをくれていることに、とんと無自覚だった。
だから、少しうまくいっただけで、それを自分の力だと思い上がってしまったのだろう。
こういう若気の至りならぬ若気のイキリは、たぶん多くの人に心当たりがあるんじゃないかな、と思う。
たとえば、「会社は自分を評価してくれない! 自分にはもっと価値がある!」と仕事を辞める人とか。
右も左もわからない新人を雇うのって、企業からしたら赤字だよね。
でも「将来ペイしてくれるだろう」という期待を込めて、面倒を見る。
それなのにちょっとばかし結果を出したらそれを自分の能力だと勘違いし、「正当な評価」を要求してしまう人は、きっと少なくない。
「正当な評価」なんてされたら、もっと早い段階で切られていたのにね。
最初なんてみんな足手まといでさんざんフォローしてもらってるわけで、会社からしたら「マイナスだったものがようやくゼロになった」ってだけだし。
(本当に不当評価の場合もあるから、あくまで例だけど)
「育ててもらった恩」だなんて、この時代「古い」と言われるかもしれない。
でも「うまくいかないあいだも見放さないでくれた人、助けてくれた人」がいてこそ「成功」できるのは、まちがいない。
それを忘れるのは、ちょっと不義理だよね。
うまくいったときにこそ、まわりに感謝を
結果を出して自信につなげるのは大切だし、野心があることは悪いことじゃない。
自分を安売りしない意識は必要だし、仕事に対して対価を求めるのもまた当然。
お世話になっているからって、不当に低い給料で働くことが正義だとは思わない。
給料交渉や自己アピールがダメだとも思わない。
でも、「結果を出したんだから評価しろ」と言うのであれば、結果を出せなかったときは相応のものを失う覚悟をするべきだったなぁ、とは思う。
そんな覚悟もなくうまくいかなかったときのことを考えず、そのくせ手柄だけは自分のものだなんて。
ああ、薄っぺらい。ぺらっぺらだったよ、本当。
マイナスを出したら個人で補填すべき!だなんて思わないけど、自分が出したマイナスには無頓着でプラスにはがめついのはちょっとね……。
給料交渉は、そういったことを理解したうえで、「それでも自分は継続的に安定して対価以上の利益をもたらした」と胸を張って言えるようになってからすべきだった。
自分の売り込み方、自信のつけ方をまちがえると、うまくいかないときに手を差し伸べてくれる人たちに不義理をしてしまう。
それが、4年前わたしが学んだことだ。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
Photo by Ben Allan