元アイドルで現ラーメン屋経営者である梅澤さんがラーメン評論家を出禁にするという通達を行い、とても話題になった。

そもそもではあるのだが、評論という行為はされる側からすれば非常に面倒でしかないものだ。

 

例えばあなたが上司から管理指導されるとして、それを「好き好き大好き♡超愛してる」と言えるだろうか?

結果としてはお賃金だとか成長だとかが手に入るから”良いもの”として苦々しく受け入れているかもだが、管理や指導抜きに同じような結果が得られるのだとしたら皆が業績評価なんてパージするだろう。

 

そういう大前提を踏まえた上でだ。

私達は評論家というポジションに座りたくなってしまう欲を己の魂から出来る限り排除すべきなのである。

 

あなたが思う誰かにとって”いい事”は、必ずしも誰かにとっての”いい事”ではない

99%の評論は己の魂から醸し出された100%の善意が、相手にとっては100%の悪意となる本当に最悪の所業である。

 

あなたのすぐ近くにも他害を振りまく酷い人間が1人ぐらいいるだろう?

大抵の場合において、あれは本人自身はいい事をやっているような認知でもって行動しているケースが実に多く、それ故に問題の解決は至難を極める。

あなたが思う誰かにとって”いい事”は、必ずしも誰かにとっての”いい事”ではない。

 

というか世界の宗教事例を少し考えればわかりやすいが、むしろ正義と正義は大抵の場合において対立する。

私達は善行を通して己の自尊心を満たしたいという強い欲を持つ生物だが、正義というものはそれ相応の覚悟をもってキメなくてはならない非常に傲慢で強欲な性質のものだ。

あなたのそのエゴには、そのエゴを飲み干す事でもって得られるわかりやすい何かがあるだろうか?

 

大金だったり、いいお客さんだったり、次に繋がる仕事だったりといった目に見えて即効性のあるナニカが貴方に与えられるだろか?

そういうわかりやすいメリットが与えられないのなら、残念ながら自分には評論家をやる資格は無いと捉えた方が無難である。

 

テレビの謝罪会見がシンプルである理由

評論家・稼業に関してはとりあえずこの辺で置いておくとして、次に件の評論家であるH氏ことはんつ遠藤氏が何を致命的に誤ってしまったのかをみていこう。

梅澤愛優香さんに対する、はんつ遠藤の意見 : ブログbyフードジャーナリスト はんつ遠藤

 

彼の謝罪ブログを読んだ人の感想を拾うと

「おじさん構文」

「文章が長すぎる」

「なにを言いたいのかがわからない」

「謝罪の気持ちが伝わってこない」

だいたいはこんな調子である。

 

あのブログの何が問題なのかを一言でいおう。はんつ遠藤氏は書きすぎである。

彼は自分の書いた文章を善意でもってキチンと読んでもらえると恐らく思っているのだろうが、残念ながらお気持ちが荒ぶっている人にはどんなに言葉を尽くしてもそれを善意をもって正しく読み下してはくれない。

むしろ悪意でもって最悪に読まれる。

 

端的にいって、はんつ遠藤氏はお気持ちに対する理解力があまりにも不足している。

これは「お気持ち is King」な現代社会を生きるものとしてはあまりにも致命的だ。

彼は彼なりのロジックでもって「話せばわかる」と思っているのかもしれないが、残念ながら冒頭に出した断絶宣言をするような方の心の中は「話せばわかる」ようなフェーズにはない。

 

対話には対話でもって応じる事ができる。だがお気持ちには対話は絶対に通じない。

自分が被害者であり、とてつもなく酷いことをされたんだという強い叫びに対して、私達が本当に真剣に悪いと思っているのなら成すべき事はたった一つである。それはごめんなさいだ。

 

私が悪かったです。

心の底から反省しています。己の悪行を軽々しく許してくれるだなんて思っていませんけど、悪かったと思う気持ちは真剣にあります。

本当にごめんなさい。

 

彼が取るべきだった手段は、正直な事をいえばこの三行以外にはない。

テレビの謝罪会見が内容がないと言いたくなるほどにシンプル極まりないのにも理由があるのだ。

 

ゆめゆめ、お気持ちを馬鹿にしてはならない

この謝罪でもって相手が話を聞いてくれそうな態度を示してくれたら、そこから対話が始まる可能性が0.00000001%ぐらいはあったかもしれないが、残念ながら長文での返信は火に油を注ぐ以外の何物でもない。

 

お気持ちは実にシンプルだ。

だからその研ぎ澄まされたシンプルに対しては、こちらも簡素なシンプルさでもって真摯に対応する必要がある。

 

人間、誰だって過ちは犯してしまうものである。

僕だって今まで散々間違い続けてきた。けど、人間は反省できる生き物でもある。

はんつ遠藤氏ほどに歳を重ねてしまった人が今から反省して生き方を買えられるかというと難しいかもだが、今回の件に触れた我々は彼の失敗から大いに学ぶべきであろう。

 

ゆめゆめ、お気持ちを馬鹿にしてはならない。

お気持ちは世界を動かす原動力だ。

シンプルで研ぎ澄まされたそれは、屁理屈の999倍の破壊力を持つ、この世で最も強い衝動のうちの一つである。

 

目には目を、歯には歯を。

お気持ちにはお気持ちで、ロジックにはロジックでもって答えるのがこの世の大原則である。

それができないのならば、私達は沈黙を貫くしかないのである。

偉い人もこう言ったではないか。語り得ぬものには沈黙しなくてはならない、と。

 

お気持ちはとてつもない暴力性を秘めている

最後にお気持ちの加害性についての記述を書いて文章を〆たい。

 

僕はお気持ちへの共感がとんでもなく嫌いで、他人からそれを求められると虫酸が走るタイプの人間なのだが、最近になって共感して欲しがっている人達が実のところ別に他人には全くといって共感したいだなんて思っていない事に気がついた。

世の中には実に共感を求める人が溢れている。

こんなにも共感して欲しい人がワンサカいるのなら共感したい人も少し位いてもいいものだけど、残念ながらこの世には”自ら進んで他人に共感したい”人は全然いない。

 

何故か?

それはお気持ちが実のところ極めて暴力的だからだ。

人は誰かに共感すると凄く疲れる生き物であり、それがお気持ちであるならば疲労度は尋常ではないレベルにまで及ぶ。

 

人はなぜ育児でもってあまりにも疲れ果ててしまうのか

お気持ちは、どんなに姿かたちを整えたところでその本質は暴力だ。

 

例えばインターネットでは育児を通じて子供のお気持ちにダイレクトに対処しヘトヘトになってしまう人達の姿を簡単にみる事ができる。

子供のお気持ちは実に凄い。

シンプルで衝動的で、その強さは時に親の心をへし折る。

 

もちろん子供に悪気があるわけではない。

子供は自分でもよくわからない生命の情動に突き動かされてお気持ちを全力で爆発させているに過ぎない。

その衝動を受け止めるのは親となり責任を付与されたものへのサガみたいなものだ。

 

だが、大人のお気持ちはそうではない。

どういう理由があるにしろ、お気持ちはぶつけられると誰かを強く傷つける。

そういう暴力で満ち溢れたお気持ちを溢れさせる人に対して、僕は素直にいい気持ちで向き合う事はとてもむずかしい。

 

僕が思うに、この事件の発端ははんつ遠藤氏が梅澤さんに対して行ったお気持ちの発露だ。

はんつ氏がシンプルに仕事の会話だけをしたのならば、ここまで問題がこじれたとは到底思えない。

人間、程度の差はあれど誰もがお気持ちは持っている。

それは性欲と同じようなもので、人間の本質部分を司る何かでもある。

 

勘違いしてほしくないのだけど、性欲もお気持ちも蔑ろにして決していいような性質のものではない。

どちらも人間にとっては非常に大切なもので、それらを無いものにしてよい事など何もない。

お気持ちを表出する自由は誰にでもある。

 

だけど僕はこうも思うのだ。こんな暴力的な香りがする成分は、出来る限り丁寧に取り除いて人様には見えないように処理すべきものなのではないかなと。

 

いいお客さんの言葉は常にヒッソリとしている

お店にとって、本当にいいお客さんの声は常にヒッソリとしている。

いいお客さんはうるさい事をいわない。

金払いはいいし、それでいて必要以上に店に滞在する事もない。

シンプルにさっそうと用を済まして、必要以上のものは何一つ求めない。

 

彼らは影響力という意味ではとても小さな小さな存在だが、そんな彼らの事がみんな大好きだし、そういう静かでいいお客さんがこの社会を本当の意味で上手に運用している。

本当に世界を良くしたいのなら、私達はよいお客さんであるべきだ。

 

そしてそれと同時に、私達もお客さんに面倒なものを押し付けずによい仕事をするものでもあらねばならない。

そのためにも私達は公の空間では極力お気持ちの香りを消臭するべきなのではないか?

誰だって、他人のヌメヌメとした部分に関わるのは嫌だろう。

 

だから性欲を公の場で消費する事が一般的にははばかられる事であるのと同様に、お気持ちもクローズでプライベートな場所でヒッソリと上手に処理するのが大人としての礼儀作法だという文化が定着して欲しいと切に願う。

 

大人のお気持ちはいい歳したオジサン・オバサンの性欲と同じぐらい気持ちが悪く、時に残虐で暴力的なものだ。

お気持ちに対する理解を深める度に、ヒッソリとした亭主といいお客さん達同士で成立する世の中が、いつの日か来てくれればいいのだけどな、と思うのである。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

Photo by Jan Kopřiva