新卒でコンサルティング会社に入社したときのこと。希望に燃えた新人研修が終わり、現場に配属されると、あっという間に生活の満足度が著しく下がってしまった。
成果へのプレッシャー。
将来への不安。
難しい人間関係。
そういったものが、いっぺんに降り掛かってきたため、常にストレスフルな状態に置かれたからだ。
お金の面では恵まれていた。パフォーマンスを出せば、ボーナスはとても大きな額になったし、市場と会社の成長スピードが大きかったので、1,2年で役職が上がり、昇給した。
しかしそこで痛感したのは、お金で生活の満足度が高まるわけではないことだった。
給与が増えても、税金で取られるだけで手取りはたいして増えないし、すぐに馴れる。
そもそも、私は独り身だったし、飲み歩く趣味もなければ、欲しい物も特になかった。
いや、むしろ「立場を失うこと」への不安や恐怖感はとても大きく、不安に苛まれた。
不安に駆られて1日の労働時間が最低でも13時間、長いと16時間以上という状態で、ストレスからか、まぶたの痙攣が収まらなくなった。
食事はだいたいコンビニか、よる遅くまで開いている家の近くの居酒屋だった。
こんな生活で、体を壊さないほうがおかしいが、仕事はせねばならないし、新しい試みも始めなければならない、仕事で必要な勉強もしたかった。
やりたいことが多くなり、目の前の現実の乖離が大きくなると、徐々に生活が乱れてくる。
家は掃除されず、ゴミがたまった。
当たり前の習慣こそ、生活立て直しの鍵になる
ある日、「このままではまずい」と思った。生活を建て直さねばならない。
しかし、何から生活を立て直すべきなのか、私にはよく分からなかった。
そんな時、何かの本(だったと思う)で、あるフレーズに出会った。
それは、うろ覚えだが、次のような趣旨のものだった。
「当たり前の習慣を大事にせよ」
不思議と「なるほど」と、思った。
一見、当たり前すぎる言葉だが、私にとってはなぜか、大きな考え方の転換になった。
というのも、私はそれまで、「どうしたら毎日を刺激的にできるか」ばかり考えていたからだ。
つまり、仕事でいかに目立ったことをするか、様々な人と交流するか、いろいろな場所に顔を出すかという事を考えていた。
でも実は、生活の大半は、稀にしかない刺激的な出来事ではなく、掃除や食事、睡眠や運動などの「習慣」でつくられる。
習慣がしっかりしていなければ、生活の満足度は向上しない。
満足度の高い生活をおくるために大事なこと
私はいったん、「人との出会い」や「変わった仕事」など、新しいことに手を出すのをやめ、生活を立て直すことに集中した。
具体的には、掃除をすること、そして、簡単でいいので、料理をすること。運動すること。この三つをとにかく意識してやるようにした。要するに、余計なことは辞めて、身の回りのことだけに集中した。
すると、変わり映えはしなかったが続けるうちに、「生活の満足度」が少しずつではあるが向上した。
そして私は理解した。
生活の満足度を大きく左右するのは、お金や仕事の刺激ではない。
整ったルーティンを設定することなのだ。
「毎日掃除する」
「決まって料理する」
「運動する」
などの、生活の中での決まった習慣をきっちり行うと、小さな達成感と満足が生まれる。
この効用は馬鹿にならないほどの大きさがあり、「まあ、自分はちゃんと生活できてるしな」という気持ちになる。
少し前に「まあ家に帰れば生ハム原木あるしな」というツイートがあったが、この気持ちに近いかもしれない。
生ハム原木が家にあると、ちょっと嫌なことがあっても「まあ家に帰れば生ハム原木あるしな」ってなるし仕事でむかつく人に会っても「そんな口きいていいのか?私は自宅で生ハム原木とよろしくやってる身だぞ」ってなれる。戦闘力を求められる現代社会において生ハム原木と同棲することは有効 pic.twitter.com/SNwQiMoGvN
— パトポッポ (@flowertoman) July 8, 2019
これは、村上春樹の仕事のやり方に通じるものがあり、彼は毎日必ず一時間走り(あるいは泳ぎ)、かつ毎日コンスタントに4000字を書くという。
昔からの習慣で四百字詰で計算します。もっと書きたくても十枚くらいでやめておくし、今日は今ひとつ乗らないなと思っても、なんとかがんばって十枚は書きます。
村上春樹は著書の中で、郵便局の仕事をフルタイムでこなしながら副業作家としても大成したアンソニー・トロロープや、プラハの保険局で公務員をやっていたフランツ・カフカの例を挙げながら、「リズムを乱さないように、巡り来る日を一日ずつ堅実にたぐり寄せ、後ろに送っていくしかない」と言う。
つまり、私が考えていた、
「仕事がうまくいけば、生活の質が向上するだろう」は、全く逆だった。
「生活を整え、身体に気を配り、日常のルーティンをしっかりこなすことで、仕事の成果があがる」のだ。
非凡な仕事をするのに、非凡な毎日を送る必要は全くない。
むしろ、平凡な毎日を確実にすることから生み出される。
この事実は押さえておいて損はないと思う。
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(2025/2/6更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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