就職して、20年以上働いてきた。
そろそろ、折り返し地点に差し掛かる。
思い起こすと、新卒で入社したコンサルの仕事は、飽きっぽい私にとても合っていた。
というのも、「仕事の多様性」が、圧倒的だったからだ。
テーマも場所も、目的も様々であり、実に様々な人に会うことができた。
担当が多かった北海道、福井、石川をはじめとして、日本各地のほとんどの県に行った。
それらの企業は、東京の企業とは全く異なる文化、論理をもっていた。
プロジェクトの途中に政治家が入ってきたり、社員が経営者の引っ越しを手伝ったりしている会社もあった。
社長の自宅でミーティングや、社員旅行に一緒に行くこともあった。
ちんまりとした工場で回る巨大な輪転機や、機械化された倉庫に案内され、その説明を延々と聞くこともあった。
とにかく毎日新しい出来事があり、新しい人と会った。
そういう働き方が好きな人には、「コンサルティング」は、結構おすすめの仕事だ。
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さて、そういう多様な仕事をしてきた中で、
「いつでも、どこでも、役に立った」
と感じたスキルが、いくつかある。
そしてそれは、いずれも「人間関係」にまつわるものだった。
裏を返せば、どんな専門スキルであっても、「人間関係」をうまく調整できるスキルがあって初めて、仕事として成り立つ。
これは、裏を返せば、嫌なやつ、言ってることがわかりにくいやつ、不親切なやつ、約束を守らないやつ、愛想のないやつとは、一緒に仕事したくない、という人が多いという話だ。
もちろんコンサルティングに必要な専門知識である、品質管理、情報セキュリティ、プログラミングや、リサーチ、文書作成、デザインスキルなども重要だった。
が、逆に、いくら専門スキルがあっても、クライアントを迷わせたり、怒らせてしまったり、信頼されなかったりすれば、お金はもらえない。
様々なクライアントと仕事をする中で、「スキル」として最も重要なのは、結局、「人間」にまつわるスキルだというのは、対人関係が苦手で、学生のときに研究者を志したこともあった私にとっては、ハードルの高いことだった。
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では、具体的にどのような対人スキルが「使えた」だろうか。
以下に示す。
1.聞くスキル
コンサルタントになる前は、プレゼンなどで「話す」ほうが「聞く」よりも重要だと思っていたが、それは全く見当違いだった。
「聞くスキル」こそ、すべての現場で役に立つ。
これは単純に、「話す」行為は敵を作りやすく、「聞く」行為が味方を増やしやすいということに由来する。
話す行為は、かなりの高スキル者であっても、マウントにつながりやすく、相手を退屈させやすい。
それに対して、聞く行為は、さしてスキルが高くなくても、相手に優越感を与え、楽しませることができる。
これは、ほとんどの人が「承認されること」と、「自分語り」、そして「教えること」を好むためだ。
なおこれは、「質問」のスキルとは似ているようで異なる。
「聞くスキル」というのは、「あなたの話すことに大変興味があります」ということを、言語、非言語で相手に伝える行為そのものであり、質問が下手でも別にかまわない。
要は人に接するときの「態度の基本形」が、「聞く」、すなわち「教えを乞う」なのだ。
「謙虚さ」を体現したスキルが、「聞く」だと考えてもよい。
これを勘違いしている人が、「聞く」を「質問スキル」だと誤解して、往々にして「尋問」になってしまう。
だから、新人のコンサルタントは、まず「聞く」を8割、「話す」を2割程度にせよと、上司から習っていた。
なお、「聞くスキル」の発展版に、「沈黙スキル」というのがある。
これは、意図的に黙ることで、相手の発言を誘発するスキルで、自分の発言の効果を検証したり、相手が思考する時間を意図的に設定したりする、「聞く」の上位互換スキルだった。
これはまた、別の機会に書く。
2.マーケティングスキル
私はこれまで何度か書いたことがあるが、「マーケティング」は技術にかかわる専門スキルではなく、むしろ「対人スキル」である。
仕事をするすべての人はマーケティングを学ばなくてはならない。
というのも、ピーター・ドラッカーが指摘するように、マーケティングの定義とは、「顧客の欲求からスタートする」ことだからだ。
つまり「相手の立場に立って考えよ」というお題目を、仕事の中で体現するスキルが、マーケティングだ。
だから、他者が絡む、およそすべての仕事に、マーケティングスキルは適用可能であるし、実際、マーケティングスキルに優れた人は、あらゆる面で仕事ができる。
相手に約束を守ってもらいやすくできる。なぜなら、相手が守りたい約束を提案できるから。
自発的な行動を促せる。なぜなら、相手のやりたいことがわかるから。
売れるものを作れる。なぜなら、顧客が買いたいものがわかるから。
耳目を集めることができる。なぜなら、皆が見聞きしたいことがわかるから。
上司を納得させられる。なぜなら、上司が抱えている欲求を見通せるから。
味方を増やせる。なぜなら、敵のやりたいことが見えるから。
ある意味、究極の「人心掌握術」といっても、差し支えないのが、マーケティングというスキルなのだ。
そのため、私が在籍していた部署では、「コンサルタントは、全員マーケター」というスローガンを掲げていた。
3.挨拶スキル
「たかが挨拶」と思うのは間違っている。
挨拶ができるスキルは、最も汎用的かつ、効果の高いスキルだ。
なぜそう言えるのか。
それは、「挨拶」が、初対面の「壁」を払しょくするからだ。
どんな人間でも、初対面の相手には必ず警戒する。
それを、かなりの程度和らげてくれるのに最も効果の高い行為が、挨拶だ。
ただ、「挨拶」は簡単ではない。
むかし、シロクマ先生が書いていたように、挨拶をするのが、ものすごく大変だ、という方は結構多い。
挨拶するたびにHPがごっそり減っては社会人をやっていくのが辛くなるから、なるべく挨拶に慣れ、挨拶をトレーニングして、せめてHPの減りを少なめに抑えていくしかないのだと思う。
そうやって挨拶ができる自分というものを頑張って作り、なるべく消耗しない社会人として生きていくしかない。
私もそうだった。
クライアントに訪問するたびに冷や汗をかきながら、挨拶をして回るのは、とても重労働で、終わるとへとへとになったものだ。
「おはようございまあす!」と、一人一人に、必要以上に大きな声であいさつする私は、とても滑稽に見えただろう。
しかし、そういったものも含めて、「挨拶」をする人は、対人関係に巨大なアドバンテージが得られる。
シロクマ先生が、後段で述べているように、挨拶の声がでかいだけで、それは「がんばっているなあ」という、共感を招くからだ。
だけど私は時々感じてしまう。
「ほら、あの人。あの人、頑張って挨拶に慣れた人のにおいがする」
「社会人のスキルでごまかしているけれど、あの人は”同族”だね」
訓練された挨拶の隙間からみえる努力の痕跡。
穏やかな物腰から微かに感じられる「頑張っている感」。
そういったものを私は見つけ出してしまう。
そしてひそかに共感せずにいられない。
よくできた社会人という体裁の内側に、本当は挨拶するたびにHPが減っていくをこらえているさまを見つけることは割とよくある。
あなたのまわりにも、そういう人っていませんか。
(中略)
我が身を削るように挨拶をする人の挨拶をみた時、とにかく、私も返礼をする。
せめて心をこめて。それ以外のなすすべを、私はまだ知らない。
これこそ、対人関係の基本中の基本だといえる。
いわば、「礼儀正しく」をもっともわかりやすく体現するスキルが、挨拶なのだ。
4.言語化スキル
最後のスキルが「言語化」だ。
これについては、「しってた」という人も多いだろうが、そのとおりで、言語化スキルは重要だ。
言語化は、あらゆる人間関係の調整に、非常に役立つ。
例えば、会議における発言の調整。
「~ということですよね」
と、言語化の助け舟を出すことで、会議が一気に進む。
あるいはタスクの分解。
「この仕事は、〇と〇と〇に分割できますよね」
と言語化できれば、仕事を複数人に分けることもできるし、スケジュール管理も可能になる。
ほかにもサービスのネーミング、議論の準備にする言葉の定義、企画の提案など、あらゆる仕事に「言語化能力」が問われる。
なお、これについては昔に記事を書いたので、そちらも参考にしていただきたい。
今の世の中は、「言語化する能力」が高い人が、有利に事を運べる
今の世の中は、「言語化する能力」が高い人が、有利に事を運べる。
とくに知的な仕事では、自分の思考を、他者に理解させ、そして動かす力が、とても重要だ。
要求を伝えること
アイデアを交換すること
組織や人のつながりを作ること
これらすべてにおいて「言語化能力」は、重要であり、「賢さ」の要件の一つであることは間違いない。
また、実践的な能力開発の手法はこちらのマガジンにも記事を書いています。(実践は非常に面倒です)
「言語化能力を鍛える、4つの明日からできる具体的習慣」について述べます
「考えて仕事をしなさい」と、言われたことのある人も多いだろう。
そして、「考え」は、言語によってアウトプットされる。
すなわち、「考えて仕事をする」を、体現するスキルこそ、「言語化」なのだ。
*
以上の4つのスキルは、仕事における対人関係を調整するための、真に根源的なスキルだと私は考えている。
ご参考まで。
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(2024/8/12更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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