コンサルティング会社に在籍していたときのこと。

ある時期私は、「人材育成」をテーマにしていました。

企業内研修や教育プログラムを企業向けに売っていたのです。

 

その中で、私の人材育成観にたいして大きな影響のあった話がいくつかあります。

これはその一つです。

 

上司は「気に入った部下」だけ育てればいい。

それがタイトルにもある、上司は「気に入った部下」だけ育てればいい、という経営者の話です。

 

実は私はそれまで、「上司は、部下に対して贔屓をしてはならない、あるいは極力フラットに接する」という考え方でした。

 

具体的には、

・スキルアップ・教育研修の機会は出来得る限り平等に与える

・昇進・昇格の機会も、可能な限り均等にする

ということになるでしょうか。

 

もちろん、研修や教育についても同様で、私は、社員研修の対象者を「社員全員」とすることを当然のことと考えていました。

これは、研修を売る身として、できる限り研修の対象者を広げたほうが儲かる、という側面もあったと思います。

 

しかし、あるとき私が訪問したソフトウェア開発会社の経営者は、私の話を真正面から否定しました。

「全員を研修の対象とはしたくないんだよね。対象者を上司が選ぶことは可能ですか?」と。

 

私は、「研修の対象者は全員」だと頭から信じていたので、この意見には驚きました。

そして、「この経営者はもしかしたら、値引き交渉をしたいのでは」と思ったほどです。

そこで私は、

「企業内研修であれば、金額は、全員受けても、一部の方々だけにしても、さほど変わりませんが」

と、ご案内しました。

 

すると経営者は首を振りました。

「いやいや、そういう話じゃなくて。そもそも研修なんか受けても無意味なやつがたくさんいるから。」

というのです。

 

「どういうことでしょう?」

「学ぶ意欲があって、素直なやつだけを育成対象にしたいんだよね。」

 

「……というと?」

「上司にとっては、育てたいやつと、どうでもいいやつがいて、どうでもいいやつにわざわざ教育を施すなんて、無駄でしょう?」

 

私はようやく、彼の言っていることを理解しました。

要するに、「上司は育てたいやつだけ育てればいいのだ」と言っているのだと。

 

直感的には「間違っているのでは」とその時点では感じたのですが、この会社の業績は非常によく、かつ技術力も高いとの評判だったので、

「ひょっとしたら、私が間違っているのかもしれない」と思い、詳しくこの経営者の話を聞きたくなりました。

 

「なぜそう思うのでしょうか?」

「部下の教育の目的は、会社の業績を向上させることですから。教育のコストの本質は、研修ではなく、「上司の時間」なんです。それが限られている以上、「平等にコストを掛ける」なんてことは不合理で、上司の言うことに対して素直で、意欲があるやつに集中的に時間を投下したほうがいい。」

 

「なるほど……。」

「もっと言えば、上司が「時間を投下する価値がある」と見込んだ人間や、「気に入った」と思った人間だけを育てればいいわけです。それなら上司の教えようという意欲も保てる。」

 

「しかし、それだと公平感に問題は出ないでしょうか。」

「税金などの公費で運営されている学校であれば、公平感は重要でしょう。しかしここは企業です。費用は会社持ちです。業績さえよければ文句を言われる筋合いはない。そもそも、個人だってそうしているじゃないですか?」

 

「といいますと?」

「他人ではなく我が子を優先する、脈のありそうな異性にアプローチする、家族の中で最も賢い子に優先的に教育費をかける、素直な子を可愛がる、何でも費用対効果ですよ。意識、無意識に関わらず、みんなやってるでしょう?」

 

「そうかも知れませんが、社員は我が子みたいなものでは?」

「そんなわけ無いでしょう。社員とは「契約」でつながっているだけです。その中に「目をかけてあげたい」という人が一部存在するだけです。そもそも現場だと、逆に「素直じゃないやつ」に、「育てたいやつ」より、むしろ多くの時間をかけないといけないくらいです。上司が説得したり、納得感を作ったりとね。そんな時間があるなら、芽のある人間にその時間を使うほうがいい。」

 

彼の言い方は、多少癇に障るところがありましたが、主張はまっとうで、「みんな、我が子を優先する」というくだりにも、納得感がありました。

 

それ以来、私は「一律にチャンスを与える」という考えを改めました。

一個人、一私企業である以上、チャンスは、目をかけたい人だけに与えればいい、それが世の本質だと。

 

その結果、研修を売るときに「対象者をどうしましょう?」と聞かれたら、「対象者は経営者、もしくは上司が念入りに選定してください。可能なら素直な人、意欲のある人だけを出席させてください」とアドバイスするようになりました。

 

すると、副次的に「参加者を絞り込むことで、研修が盛り上がる」という効果もありました。

素直で意欲のある人達だけで固めると、冷笑的で意欲に欠ける人たちによる妨害がなくなるので、研修の質も成果も向上したのです。

 

 

理想としては、「全社員にスキルアップの機会を与えたい」というのが、経営者や上司の本音であると私は思っています。

 

ただ、分配できるリソースは無限ではないし、経営者や上司にも、彼らの好みや理想、そして生活があります。

現実的な落とし所を探った結果として、このようになっているのだと思います。

 

そして、これを逆からみれば「その会社でスキルアップを目指している」のであれば、経営者や上司に対して、意欲を見せたり、素直であったりと、かれらの「育成対象」に入る努力をせねばならない、ということです。

若手や、転職者は、こうした現実を受け入れて、適応せねばならないのかもしれません。

 

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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