血のように冷たく

座ってもいいか? 泣いてもいいか?

冷たいコンクリートの暗い部屋。響くのはおれの疲れた足音。きしむ椅子。

くたびれたコートのポケットから、くすんだ銀色のパッケージを取り出す。「血のように冷たく、鋼のように硬く」、そうつぶやく。この街に生きるということ。涙すら出ない目をぬぐった。時は流れない。

パッケージを破って、おれは完全栄養食のブロックを取り出した。味のないブロックをむさぼり食った。空には月もなかった。音もなく雨が降る。汚染された水には、もはや名前もつけられていない。

 

……というのが、だいたいの人間が持つ完全栄養食のイメージではないだろうか? おれもそう思っていた。

が、食べてみると意外によいものだと気づいたので、そのことを知らしめたい。知らしめたいって何様だ。

 

おれとおれの「餌」

その前に、おれの食生活を書いておく。

おれは基本的に朝食を摂らない。朝は弱い。そんな時間はないからだ。

昼食はコンビニで買う。炭水化物も、野菜も、肉も摂るようにしている。一日で一番カロリーを摂っている飯といっていい。

晩飯は……野菜だ。野菜をたくさん摂る。ある時期はお好み焼き、ある時期は冷しゃぶサラダ、……鍋、……蒸し野菜。

それら一辺倒である。

 

おれのTwitterをフォローしていればわかるが、おもしろいくらい(まったくつまらないが)これを毎日繰り返している。

一年に四回くらい「毎日の食事」が入れ替わる。最近では野菜炒めが定番である。野菜大量の焼きそばにしてみたら、夜の炭水化物が胃もたれするので麺を抜いた。とにかく夜は野菜を食う。

 

かように、おれは、おれの食事を餌だと思っている。餌に味も風味もない。最低限の栄養を摂れればよい。それだけである。

昼に、ある程度は炭水化物を食べる。カロリーは足りているはずだ。

 

毎晩同じものを食べても、べつになんの不満もない。さすがに一年中、一生という境地には達していないが。

まあ、旬の野菜は安いなど経済的な理由もある。それに、経済的と言えば、同じ食材だけをストックさせていくのは、食品に無駄が出にくい。合理的で地球にやさしい。

 

べつにものの味がまったくわからないというわけではない。できれば美味しいものを食べたいと思うこともある。

外食で外れを引きたくもない。そこまでは強い思いではないが、美味しいものを好む気持ちはある。

 

とはいえ、それは外食するとき、観光するときなど、とくべつなときの話だ。

「ハレとケ」だ。日常においては、食べるものなどなんでもよい。ひどくまずいものをあえて食べたいというわけでもないが、栄養さえどうにかなっていれば、それでよい。

 

おれのように日常の食事に興味のない人間に……完全栄養食は向いているのではないか?

 

おれの持病と食事

さらに、おれには双極性障害という持病がある。抑うつ状態になると果てしない抑うつ状態になって、倦怠感に襲われて、動けなくなる。

動けなくなると、ものも食えない。ものも食えないと、腹が減って動けない。

 

精神状態で動けないし、ものが食えなくて、腹が減って動けない。地獄のスパイラル。

そのままでは死ぬ。「死ぬ」というのが誇張表現のように思われるかもしれないが、実感している自分としては誇張でもない。

動けなくて、食えなくて、死ぬかもしれない、みたいな妄想にとらわれることもある。

 

そこで、なんらかの応急処置的な食べ物が必要になる。

なにがいいのか。いつ、動けなくなるのかわからないので、消費期限が短いものはだめだ。常備しておきたい。もちろん、調理に手間がかかるのは問題外だ。袋を破って、食える、くらいがいい。

 

たとえば、カロリーを摂取できるゼリー系のそういうやつがある。でも、個人的な感想として、ゼリー系のそういうやつはたいしてパワーにならない。サイクリングなどしていたので、そういうものを携帯などしていて、助けられたこともあるが、ハンガーノックの空腹をどうにかしてくれるタイプではない。

 

では、なんなのか。抑うつになって、それでも昼過ぎにヘロヘロで出社して食べるのはなにか。

今までは、コンビニで買ったおにぎりか、惣菜パンかといったところだ。昼休みも過ぎているので、弁当やサラダを広げて食うのも気が引ける。おにぎり2個、3個、惣菜パン2個、3個、これをインスタント・コーヒーで流し込む。

 

が、これらはどうも、カロリーはあっても栄養は満たしてくれないような気がする。

果実・野菜ジュースでも飲むか。それでいいのか。なにか、血糖値的によくないような気もする。

 

あ、おれが野菜にこだわるのは血統的に血糖値が気になる糖尿病の血筋だからで、とにかく糖尿病になりたくないという思いはある。

 

完全栄養食のパン

というわけで、おれはゼリーでもなく、おにぎりでもなく、惣菜パンでもない、なにかよいものを探していた。

消費期限は長くなくてはならない。一つ食べれば栄養を満たしてくれるならばなおよい。そんなものがあるのか。

 

あるのかもしれない。Twitterのタイムラインに流れてくる広告。Base Food。Base Bread。これである。

ベースブレッド(めんどうなので以後はカタカナで書きます)は完全栄養食である。一袋食べれば一日の1/3の必要な栄養を得られる。消費期限も普通のパンに比べて長い。だいたい1ヶ月もつといっていい。これは、おれにとってよいものではないか? と思った。そして、購入を申し込んでみた。

 

ちなみに、おれはべつにベースフードからなんらかの要請も受けていないし、これを紹介することによってなんの利益も受けない。たんなる一利用者である。一利用者が、完全栄養食の一つとして、ベースブレッドを紹介する。それだけである。

 

ベースブレッドの印象

して、おれの元にベースブレッドが届いた。20食分くらいだろうか。一個一個は意外に、小さい。まあ、実物はコンビニでも売っているので知っている人も多いと思うが。

 

しかし、これを食べてみると、意外なボリュームを感じる。「完全栄養食だからな」という思い込みがあるのかもしれないが、カロリーのわりには、腹にしっかりたまる感じがある。

昼にベースブレッド一個だけ、という非常事態の場合でも、夜までお腹が好かなかったりする。あくまで個人の感想だが。

 

味はというと、これもまた「完全栄養食だからな」という先入観あってのことだが、なにか栄養がたくさん含まれているような滋味を感じる。

まあ、決してまずいものではない。なにせ、基本的にはパンだ。チョコレートにシナモン、メープル、それぞれに悪くない。さすがにプレーンにはジャムかなにか塗る必要はあるか。カレーはちょっとパサパサしている。

 

ジャム、ジャムがあるとよい。偶然、おれがベースブレッドを買い始めたころ、会社のお土産でジャムをもらった。ふだんの食生活から、本来はジャムなどなかったが、偶然にもジャムが手に入ったので、これを塗って食べる。

ベッドから立ち上がり、椅子に座って、パンを食うというときには、ジャムを塗るくらいの気力はある。もらいもののジャムがなくなったら、スーパーで安いジャム的なものを買おうと思う。

 

というか、おれはもうベースブレッドを定期購入することを決めてしまっている。

おれのように「急に動けなくなって、ものも食うのも大変になる」人間にとって、消費期限が長く、手軽に食べられて、なおかつ栄養もあって、腹持ちもいい食べ物。それがおれにとってのベースブレッドだ。値段も、コンビニの惣菜パン一個に比べたら高いが、惣菜パン一個では満足できないし、決して高い買い物という気はしない。

 

おれのような人間にベースブレッドは向いていた。

 

いそがしいビジネスパーソンにもおすすめです

とはいえ、この食べ物がそれなりに支持を受けて売れているらしいのは、おれのような特殊例の人間にばかりメリットがあるからではない。

 

なにが「普通」かはわからないが、普通の人にもよいものではないか。まあたとえばこのサイトでは「忙しいビジネスパーソンにもおすすめです」とか言えるだろうか。

 

どのあたりがメリットか。とにかく、短時間でたくさん栄養が摂れる。ついつい偏りがちな食生活に……とか書き出すと、べつにそんなのは公式サイトでも読めば載っていることだろう。おれにはおれの実体験、実感を書くが、公式サイトに載っている宣伝文句を書き写す必要はあるまい。

 

とはいえ、まあ、メリットあると思うよ。たとえば、主食として食べなくても、なんか間食してしまう人は、それをベースブレッドにかえる。そんなに悪いものも入っていないし、けっこうな栄養がゲットできる。

差し引き、なんかいい感じになりそうだ。いい感じなのは、悪くない。悪くないので、あんたも一つどうかね? くらいには思っている。

 

うまくつかえば、ダイエットにもいいだろう。おれはダイエットのやりすぎで精神を壊してしまった人間なので、あまりダイエットについて語ることはできないが。

 

あ、一つだけあまり出ていないかもしれない情報を。買ったらついてきた「スタートブック」にこんなことが載っていた。Q&Aだ。

BASE BREADを食べるとお腹が張るときがあります。

牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする体質の方は、牛乳を消化するための消化酵素(乳糖分解酵素:ラクターゼ)が足りないため、牛乳や乳製品に含まれている乳糖をうまく消化吸収できず、お腹が張る場合があるようです。少量ずつ様子をみてお召しあがりいただくことを推奨しています。

ようわからんが、ベースブレッドにはそういう栄養も入っているようだ。そしておれは牛乳でお腹がゴロゴロいうので、ベースブレッドでも少しお腹がゴロゴロいう。ただ、牛乳を飲んだときの完全にゴロゴロするほどではなく、「ちょっとゴロってるかな」くらいのもので、許容範囲だ。ただ、一応、完全栄養食にはこういうデメリットもあるよ、ということもある。

 

そうだ、完全栄養食といっても、なにもかもパーフェクトじゃない。もちろん、小麦・卵・乳成分・大豆を使用しているので、それらのアレルギーを持っている人には食べられない。

全国民に一律完全栄養食だけ支給して成立しているSF世界があるとしたら、アレルギーの問題なども克服されているのだろう。

 

考えなくてもいいけど、地球人類のことも考える

で、この現代で個人個人がライフスタイルに合わせて完全栄養食のパンを食べる、食べないというのは、まあ自由な選択の話だ。

とはいえ、なんとなく完全栄養食がSF的、ときにディストピア的なイメージを持つのは、現在のような農業、畜産業、漁業などが維持できなくなり、人間が食べられるものが限られてしまうのではないか、という危機と無縁ではあるまい。

 

人間が、今後も、これまでと同じようなものを食べていけるのか? これについては以前書いた

 

人類の食糧事情はサステナブルなのかどうか。どうも、このままではまずいかもしれない。

しかし、一方でさまざまな技術革新も起きており、希望が持てないわけでもない。そんなところか。

 

でも、もうだめかもしれないとなったとき、一部の人間だけが今とかわらないような食生活を送り、たくさんの人間が飢えて死ぬ……という選択をしないのであれば、完全栄養食のパン、みたいなものは救いになりうるのではないか。

 

まあ、そんなふうに思う、くらいの話だが。なにせ、原材料は限られているので、それに注力すればよい。

現代の価格でも手に入り難いほど高価(少なくとも日本では)というわけでもないし、たくさん作れば作るほどコストも安くなるだろう。

食品ロスの問題もクリアされる。なにせパンだ。廃棄される部分は少ない。さらに、パッケージやなにかも限られているので、これもいろいろ集約されてコストがかからなくなるだろう。

 

もちろん、アレルギーの問題もある。それ以上に、食文化という人間が築き上げてきたものをないがしろにしてしまうという欠陥がある。

食文化は世界各地にさまざまな伝統を持っていて、これを無視して「完全栄養食のパンだけ食え」というのはさすがに問題がある。あるいは、おれのようではない人、食に人生のよろこびを感じている人間には、たいへんな苦痛に違いない。

 

まあ、しかし、もしもそうなったときの話だ。もしももう人類が食うの無理、となったとき、ベースブレッドのようなものがベースになる可能性はある。そう考えると、少し人類の未来について楽観的にもなれようか。

 

まあ、べつに人類の将来がどうなってもいいのだけれど(個人の感想です)、そういうSF的な妄想は嫌いじゃないので。

 

というわけで、今日もベースブレッド2個食べました

さて、おれは今日もベースブレッドを2パック食べて、これを書いています。

今日は休日。休日のおれの昼飯はいつもカップ焼きそばに追い乾燥キャベツ、というものが常なのだけれど、今日などは午後三時近くまでベッドでごろごろしていたので(病気的に言えば強い倦怠感)、まあ体が動かず、カップ焼きそばすら作るのが面倒で……モードになってしまったわけで。

 

そこで、禁断の(?)ベースブレッド2パック。これで、一日に必要な栄養素の2/3も摂取できてしまった。

もうすごくいいんじゃないかと思えてくる。無敵な感じがする。

むろん、世の中にはベースブレッド以外にもたくさん簡易的に摂れる完全栄養食的なものはある。でもまあ、とりあえずおれはしばらくこれを助けと思って食っていきます。以上。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

Photo by :Tatsuo Yamashita