本日の議題はこちらです。
「『残業ゼロ』を掲げる企業なら、仕事を放り出して定時帰宅してもいいのか?」
最近は、どこも売り手市場。働きやすさをアピールして人材確保に躍起になっている企業は多い。
しかしそれには、弊害もある。
「残業なしって言ったんだから、仕事が終わってなくても帰っていいですよね?」と、仕事を放り出して定時帰宅する社員がいることだ。
「納期は間に合わないけど定時帰宅していいですか?」
先日、『納期に間に合わないが「残業はしない」はアリ?』という記事を読んだ。
記事内では、こんな例が挙げられている。
若手のDさんが、翌週の月曜朝までに終えなければならない仕事を、金曜日の定時を過ぎても完成できなかった。ところが、その事実が発覚したのは金曜日の夜になってからだった。
上司はDさんに逐一「大丈夫か?」と尋ねており、決して無理のある納期で仕事は頼んでいなかった。しかし「大丈夫です」とDさんは答えるだけ。何の相談も報告もしなかった。
Dさんの上司は「怒りを通り越して呆れた」と言う。結局、月曜日の期限に間に合わせるため、他メンバーが2人、残業・休日出勤をして完成させた。
Dさん当人は、「残業・休日出勤しない権利があるはず」と言ってオフィスに出てこなかったからだ。
「モンスター社員と一緒ですよ」
Dさんの上司は吐き捨てるように言った。この会社も「基本的に残業ゼロ、休日出勤ゼロ」をアピールして採用活動に励んでいた。だからか、このような権利を主張する若手が増えたのだという。
さて、みなさんはDさんのような若手がいたら、どう思うだろうか。どう対処するだろうか。
記事に対する反応は賛否両論で、「残業ゼロで採用したならそれを守るべき」という人もいれば、「業務命令なら残業を拒否できないはず」という人もいたし、「そもそも事前にフォローすべき」という人もいた。
まぁ、仕事をちゃんと終わらせろという上司の気持ちもわかるし、約束通り帰らせろという若手の気持ちもわかる。
そのうえで、わたしはこういいたい。
「できもしない『残業ゼロ』を約束する企業もバカだし、何が何でも残業しない人もバカ」
責任を持って仕事すれば、残業ゼロが不可能だとわかるはず
そもそも仕事において大切なのは、「ちゃんと終わらせること」だ。
いくらクオリティーが高くとも、期限から1か月も過ぎていたらなんの意味もない。
仕事を引き受ける=任されたタスクを期限までに終わらせる責任を負う。
そう考えたら、残業ゼロがありえないなんてこと、だれにでもわかるだろう。
残業削減成功アピールをしている企業だって、残業時間は「1日30分以内」「月10時間以内」などがほとんどで、「残業を完全にゼロにしました!」を公言している企業はまず見たことがない。
いくらホワイト企業であっても、「明日までに絶対にこれを終わらせなくてはいけない」ということは起こりうる。
そうなれば、ときには長く働く必要もある。
だから、できもしない「残業ゼロ」を約束する企業もおかしいし、残業ゼロを信じるほうもおかしい。
それはつまり、「仕事に責任をもたなくていい」と言っているようなものだから。
それでも残業ゼロにこだわるのなら、契約社員やアルバイトのように、勤務時間中に決められた仕事だけしていればいい、という形態で雇えばいいのだ。
時給なら能力によって評価や給料が大幅に変わることはないから、定時で帰ってもだれも文句は言わない。
「責任をまっとうする」より「決められた時間働く」ことを優先するなら、そうすればいいじゃないか。
能力によって給料が変動する雇用形態であれば、自分の仕事に相応の責任を負うのだから、「残業ゼロ」は非現実的だろう。
残業以外の方法で仕事を終わらせるから定時に帰れる
とはいえわたしは残業を推奨するつもりは一切ないし、むしろ大嫌いだ。
だって残業は、一番楽な手段だから。
長く働けばそのぶん仕事が進む。非常にシンプルで、なにも考える必要がなく、どんな無能でも実行できる。
でも「終わらないなら長く働けばいい」とはつまり、「終わるまでやり続ければいい」と同義。じゃあそれ、いつ終わるの? いつまで働けばいいの?
考えることをやめて「終わるまでずっと働けばいい」というのは、逃げだ。効率的に働くための努力や工夫を放棄しているだけ。マネージメントの敗北。だから、残業は嫌い。
残業が少ない企業はどこも、残業以外の方法で仕事を終わらせる仕組みを確立している。
報・連・相を徹底したり、会議を減らしたり、承認フローを簡易化したり……。
「終わらないなら長く働けばいい」から「終わらないならここを改善しよう」という考え方にシフトし、実際に努力して、時間内に仕事を終わらせているのだ。
そうやって効率化した結果の残業削減なのに、そういった努力をせず安易に残業ゼロを約束する企業はおかしいし、「残業ゼロって言ったから帰っていいでしょ?」という従業員もちょっとズレている。
仕事が終わらなければ当然、評価は下がる
ちなみにわたしはドイツに住んでおり、移住前は「ドイツに残業はない」と信じこんでいた。
そういったタイトルの本もあるし、みんなさっさと帰ってビールを飲んでいるイメージを持っていたのだ。
しかし実際住んでみると、みんな平気で残業していることに気付く。
驚いて多くの人に質問してみたが、「ドイツ人は残業しない? だれだよそんなこと言ったの(笑)」と鼻で笑われる始末。
そもそもドイツは基本担当制で、自分のタスクは自己責任で終わらせなければならない。
終わらなければ自分の評価が下がるし、日本のようにだれかが代わりに終わらせてくれることもない(病欠や事前に申請した休暇は別として)。
もちろん、「知ったこっちゃねぇ定時で帰る」という人も存在しないわけではないが、仕事を放り出すような人は当然、大事な仕事を任されなくなる。
「17時にはオフィスの電気が消えているのが普通」なんて話を聞く一方で、持ち帰りで仕事をしている人も多い。
実力主義であればあるほど成果を求められるし、成果を出すには大前提として仕事を終わらせなきゃいけない。それなら当然、場合によっては長く働くこともある。
きっとどこの国でも、責任を負う仕事であれば、多少なりとも残業が発生することはありうるんじゃないか?
仕事はちゃんと終わらせろ、ただし残業以外の方法で
では冒頭の「『残業ゼロ』を掲げる企業なら、仕事を放り出して定時帰宅してもいいのか?」という質問に戻ろう。
そもそも、「時間になったら帰宅するかどうか」なんて、本来どうでもいいのだ。時給で働いているわけじゃないんだから。
大事なのは、仕事をちゃんと終わらせること。
定時帰宅する人のために他人が残業で仕事を終わらせるのでは意味がないし、みんなが仕事を放置して帰宅したらその企業は顧客からの信頼を失う。
一方で、全員が定時帰宅、なんなら早上がりしても、仕事が終わっているのならなんの問題も文句もない。
「かぎられた時間でいい仕事をしよう」と思えばしぜんと効率化が進み、残業時間は減っていく。
逆に「終わるまでダラダラ働けばいいや~」なんて気持ちで働けば、残業は増えるだけ。
何時間働くかではなく、どういう姿勢で働くかが大切なのだ。
だから、「仕事を放り出して定時帰宅してもいいのか」なんて議題自体がバカバカしい。
いいわけないだろ?
仕事はちゃんと終わらせろ。
でもそのために安易に残業に逃げるのは、マネージメントの敗北。
そうならないように、長く働く以外の方法でより多くの仕事を終わらせる工夫と努力をするべき。
つまり結論は、「仕事はちゃんと終わらせろ。ただし、できるかぎり残業以外の方法で」。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
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