最近、昔のクライアントだった方と話をする機会があった。

当時その方はかなり優秀なエンジニアだった。

 

その方が、今になって言ったことの中で、特に意外だったのは、

「お礼も言わないなど「教えてもらう態度」ではない人がいる。なんで、彼らは「教えてもらえるのが当然」と思えるのか、理解に苦しむ。」

という一言だった。

彼は面倒見の良いほうだと思っていたが、「条件付き」だった。

 

「できなくても教えを乞う態度があればまだいい。しかし「教えてもらって当然」という態度の人間には我慢ならないので、放置してました。」というのだ。

彼は温和ではあったが、「態度の悪さ」には厳しかった。

 

 

別の知人も、「その態度の話は思い当たる」という。

彼女の会社でも、たびたび「態度の悪い人物」がトラブルを引き起こしていたからだ。

 

例えば同僚だった一人のコンサルタント。

彼は英語が堪能で、知識もあり仕事ができたが、遅刻が多く、依頼した仕事の期限を破り、そしてそれを悪びれもせず、反省もしない人物だった。

そんな彼に対して、先代の社長は、「言っても直らないから、欠点は目をつぶろう。英語や知識の豊富さなど、いいところもある」と、彼を起用し続けた。

 

だが、社長の代替わりが起きたとき、新社長はすぐに言った。「今までみんな我慢してきた。だが、もうほかの社員への示しがつかないので、辞めてくれ」と。

彼は退職した。

 

また、新人の「態度」も問題になったことがあった。

 

仕事をなかなか覚えず、同じミスを繰り返す割には、それを反省しなかった。

「読んでおいて」と言われた資料もろくに読まず、それを指摘されると「やらなければいけないと思わなくて……」と泣き出してしまった。

そしてなんと「今日はショックで仕事にならないので帰ります。」と帰ってしまったというのだ。

 

加えてその日の午後、外出していた同僚の一人が、たまたま街でその新人を発見した。

「ニコニコ笑いながら、大声で電話して歩いてましたよ」という報告に、社長もついに「変なの雇ってしまった」と、彼女を辞めさせたのだった。

 

 

日本の会社では、能力や成果よりも、反省しなかったり協調性がなかったりといった、「態度の悪さ」のほうが、はるかに問題になることが、労働政策研究・研修機構の調査で指摘されている。

「態度」の重要性:雇用終了するかどうかのようなぎりぎりの段階において労働者の適性を判断する最重要の基準がその「態度」にあり、言葉の上では「能力」を理由に挙げているものであってもその内容を仔細に見れば「態度」がその遠因にあるものが多い。

もちろん、「正論」では、管理職は、相手の態度が悪いからと言って「教えない」というわけにはいかない。

「それは仕事だ」と言えば、そうなのだろう。

 

あるいは「帰ってしまった女性」がプライベートでどう振舞おうが、会社とは関係ない。

「会社から離れて、元気になった」というのがホントのところだろう。

 

だが、日本の職場、会社員の多くは、それを問題にする。

「態度が悪い」と。

それは、論理的なものというよりは、「態度の悪い人物と一緒の職場にいたくない」という強い感情の産物だろう。

 

それゆえ「態度の悪さ」は、時に労働者の権利を主張する労働組合ですら、それを「労働者の問題」とすることがある。

例えば、上で取り上げた「日本の雇用終了」に「遅刻やクレームにその都度注意してきたが、自分の正当性だけを主張し、勤務態度の改善が見られないため、解雇を行った」とされる、タクシー会社の例がある。

 

そして、そのタクシー会社の労働組合は、経営陣に、この従業員をこう告発した。

このまま放置するとお客様がいなくなります、他の組合員も心配しております。会社から早急に退職勧奨をお願いします」と。

 

調査レポートによれば、「労働者の悪い「態度」を問題にするという意識という点では会社側と労働者側にあまり差がなく、いわば労使協同で態度の悪い労働者を責めるという配置状況になりがち」だという。

これらの状況は、日本の職場が「メンバーシップ」、すなわち共同体であり、「態度の悪さ」が致命的であることを意味する。

 

 

おおむね「態度の悪さ」は、4つのケースに集約され、これらは仕事の能力や、成果云々、というよりも、「コミュニティのガイドライン違反だから嫌われて追い出される」と考えたほうがつじつまが合う。

 

1.反省の色がなく、改善しようとしない

同じミスを繰り返すが、悪びれない。

 

2.周囲のせいにし、無礼で自己の正当性ばかりを言う

他責思考で、周囲との摩擦が絶えない。

 

3.遅刻や無断欠勤が目立つ

ルーズである。

 

4.業務命令拒否

上司の命令に従わない。

 

そう考えると、「態度の悪いやつはクビ」は、YoutubeやTwitter、あるいはオンラインゲームのチートでBANされるのと、本質的には同じだ。

コミュニティに属していながら、ルールに従わず、何も貢献せずフリーライドし、メンバーから搾取しようとする輩を排除するのは、コミュニティを健全に保つことの必須条件である。

 

 

これを書いているとき、ちょうど結城浩氏が、こんなツイートをしていた。

 

冒頭の「教えてもらう態度」に腹が立つ、という話と、状況が全く同じだ。

 

質問に対して結城氏は「私の場合は自分を改めた、そうすることで人が寄ってきた」と回答している。

真っ当な回答だと思う。

 

が、普通の人間の感情としては、「簡単に答えをもらおうとする態度に腹が立つ」のは、普通だし、その感情は大事にすべきだ。

なぜなら、「無償で人に与え続ける」と、その先にあるのは「踏みつけられる」だからだ。

 

これは米国心理学者、アダム・グラントの研究でも実証されており、「無償で人に与え続ける」と、相手が「テイカー(搾取する人)」であった場合、自分が損をするだけになる。

 

最初は「ギバー(人に与える人)」でよいが、相手の態度が悪ければ「相応の報いを与える」のが、正しい戦略だ。

ピーターの経験から、ギバーが大損させられずにすむための方法がわかる。 つまり、テイカーとつき合うときには、マッチャーになればいいのだ。ただし、最初はギバーでいたほうがよいだろう。信頼は築くことこそ難しいが、壊すのは簡単だからだ。

それでも、相手が明らかにテイカーとして行動したら、ギバー、マッチャー、テイカーの三タイプを使い分け、ぴったりの戦略をとるのが得策だろう──そう、ピーターがリッチに、事業で成果を出せと迫ったようにである。

 

確かに「態度の悪いやつ」は、「成果を出していないやつ」よりも、たちが悪い。

経営者も労働組合も、上司も先輩も後輩も、YoutubeもTwitterもオンラインゲームプラットフォームも、一丸となって、「態度の悪いやつ」をコミュニティから追い出そうとするのは、むしろ当然の振る舞いなのかもしれない。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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