先日のシロクマ先生の記事が、目を引いた。

「自己啓発」や「自己実現」の次に、どのような価値観が到来するのか?

実際、自己実現や自己充足を信奉可能なエリートたちは今後もそれらを金科玉条とし続けるだろう。

のみならず、そこに潜ませた正義や道理を非エリートに押しつけ、飴のかたちをした鞭で馬車馬のように働かせ、自分たちが勝ちやすいゲームの盤面を維持しようと努めるだろうとも思う。

なるほど、そんな考え方もあるのか、とひとしきり納得した。

「自分たちが勝ちやすいゲームの盤面を維持」というのも、そうなのかもしれない。

 

だがその上で、自分の見てきた、いわゆる「エリート」の面々を思い起こすと、

「そんなにみんな、仕事に期待していたかなあ?」

と、思い直した。

 

というのも、私が見てきた数々の企業の中で、「自己実現したいエリート」は、あまり見あたらなかったからだ。

実際のところ、日本人のほとんどは、エリートも含め「会社と仕事が大嫌い」なのだ。

 

例えば私が見た、有名大手企業の中の人々が、仕事に対してどのように考えていたかというと、

「給料分は頑張る」

と、まず今の仕事をこなすことを考えていた。

 

だから、「夢」とか「やりたいこと」は、特に仕事に見出しているわけではなく、

「仕事は仕事、プライベートはプライベート。」

「いい生活はしたいけど、無理をしてまで出世はしたくない」

と、管理職の人々すら、仕事で自己実現したい人は、たぶん少数派だった。

 

これは外資系企業やコンサルティング会社でもだいたい似たようなもので、評価がシビアなため、めいいっぱい働くのだが、それは

「自分の居場所を確保するために、責任は果たす」

「引き受けた以上はやりきる」

「クビにならないように頑張る」

という、あまり前向きではなく、ちょっと控えめな考え方の人が多かったように思う。

 

ある意味では「自己実現」などと言う人は、「え?何言ってんの?」と、ちょっと馬鹿にされてしまう雰囲気すらあったかもしれない。

 

「仕事で自己実現したい人」はどこにいるのか?

にもかかわらず、シロクマ先生の指摘するような「自己実現にまい進するエリート」の話は絶えない。

彼らは一体どこにいるのだろうか?

 

実は、彼らは2つの場所にいる。

 

一つは、スタートアップの経営層と、一部の学者たち。

野心に燃えており、成功を夢見て、仕事にすべてを捧げる人々だ。

 

私も仕事でよくこういった人々に会ったが、たしかに彼らは、考え方が普通の人と全く違う。

彼らの中では、普通の人が思う「仕事」は、仕事ではなく、「好きなことをやっていたら、それがたまたま仕事だった」という感覚なのだ。

 

だから、彼らの考え方は極めて理解しにくいし、達成欲や名誉欲が桁外れに大きいので、普通の人と話が合わない。

だから、小さなコミュニティの中で、経営者同士で交流していることが多い。

 

ただ、数としては極めて少数だ。

そもそも彼らの大半は、「他人がどう思うかを気にしない」ので、裏を返せば「自己実現」を、他人に強制することもない。(後述するが、強制しているヤツは間違いなく偽物だ)

 

「やりたい人がやればいいんじゃないの?」が徹底されている。

 

 

では、もう一つの「自己実現や自己充足を信奉している人々」たちは一体どこにいるのか。

実は面白いことに、「外面だけよく、でも実は待遇が悪い、中小企業の中」に多いのである。

イケイケに見えて、平均年収300万円半ば、みたいなイメージの会社だ。

 

例えば、あるシステムの運用会社でみた話だ。

社長は「金儲けがしたい」という動機で起業した、30再半ばの男性だった。

 

かと言って、卓越したビジネスモデルは、そうそう作れるものではない。

だから、どうしても労働集約的な仕事が中心のビジネスになる。

 

当然、給料は安く、きつい仕事が多い。

そのため、卓越した人材は集まらず、社員はろくなスキルもない、20代から30代の若い人たちばかりで構成される。

だから、彼らの能力に不満を持つ社長は、生産性の低さを補うための長時間労働と、自己啓発によるスキルアップを彼らに課す。

 

だが、それはとてもツラい。

そのツラさを麻痺させるために利用されるのが、「自己実現」や「夢」というツールだ。

 

例えば、こういうやり取りが、会社の中でかわされる。

 

社長「あなたがやりたいことはなにか?」

エリート「この仕事です!世のため人のため、ひいては自分のためになる重要な仕事です!」

 

社長「自分のを叶えるためには?」

エリート「自分が成長し、会社も成長することです!」

 

社長「だったら自己研鑽も長時間労働もツラくないよな!

エリート「はい、つらくありません!」

 

こうして待遇の悪さを「自己実現」の名のもとに、覆い隠して働かせる経営者は、腐るほどいた。

 

また、社員たちからしても「騙されているかもしれない」と思いつつも、一種の現実逃避ツールとして「自己実現」という言い訳を使う。

理由もなくツラいのは耐えられないが、何かしらの大義名分があれば、人間は相当のことに耐えられる。

 

だから、「仕事で自己実現」を信じているのはいわゆる「エリート」より、一部の待遇の悪い、中小企業の経営者と労働者、その両者だ。

 

ただ、30代後半、40代にもなれば、そういった大義を信奉するのに疲れてくる。

昨今、「自己実現を語る人」が、減ってきているのは、彼らが人口のボリュームゾーンなので、当然なのだ。

 

 

だから、「自己実現」に代わる大義を設定し、それを利用しようとする経営者と労働者は、これからも当然、出てくるだろう。

「自己実現」の中身なんて、もともと彼らからすればどうでもいい話だったので、効果がなくなれば、あっさりそのツールを捨てるに違いない。

 

だからもしかしたらこれから、

「社員を守るコミュニティがあります」

「皆が助け合う会社です」

「生活の面倒をみます」

などという、べつの大義を騙る中小企業の経営者が出てくるかもしれない。

 

まあ、それもいつか「別の物語」に取って代わられてしまうのだろうが。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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