とある出版社の編集の方と話をしたとき、「頭が悪そうに見える言動って、ありますかね?」と聞かれた。
少し考えて、「頭が悪い」ではなく、頭が悪そうに「見える」というのが、ポイントだと思った。
というのも、「頭の良し悪し」は、ちょっとした言動だけでは判断が難しいからだ。
例えば、自己紹介では「どんくさいなあ」と思った人が、実は優秀でよく仕事をした、というケースには事欠かないし、面接ではハキハキと話す優秀そうに見えた新人の実力がお粗末、ということもよくある。
さらに「頭の悪さ」が何を意味するかも曖昧だ。
「IQが低い」
「目的遂行能力が低い」
「ユーモアがない」
など、人によってその意味するところは千差万別だ。
だが問われたのは「頭が悪そうに見える」だった。
これは「頭が悪い」とは全く異なる、単なる印象の話で、もっと具体的に噛み砕いて言えば、これは「他者から低評価を受けやすい言動」のことだと解釈した。
それであれば、まちがいなく存在している。
実際のIQや行動力とは関係なく、他者がそれを聞いたときにパッと「あの人、ひょっとしてヤバくない?」と感じてしまうような言動は、数多くある。
ビジネスシーンでは評価や信頼にも直結するので、注意すべき事項だ。
では、具体的にどのような言動が「頭が悪そうに見える」のか。
1.言いわけ(謝罪なし責任転嫁)する
ビジネスシーンでダントツで低評価を集めるのは、「言いわけ」だ。
自分の非を認めず、他者の責任ばかりを並べ立てる行為は、殆どの組織で許容されない。
実際、コンサルタントとして、多くの現場で「宿題をやらない人」「約束を守らない人」「手を動かさない人」などの言い訳の実例を見てきた。
そして悲しいことに、内容が正当であろうと、そうでなかろうと、「言いわけ」はとにかく印象として見苦しいと思われてしまっていた。
例えば、任された仕事で思うような成果があがらないときに、
「(私は悪くないです。)時間が足りなかったので。」
「(私は悪くないです。)お客さんが決めてくれなかったので。」
「(これを作った人のせいで)エクセルの表が見づらかったのでミスしました。」
「(あなたの)説明がわかりにくかったので、動けませんでした。」
と、まず責任転嫁をする言動は、軒並みアウトだ。
もちろん、言い訳の内容は本当かもしれない。
優しい同僚は、そのことについて同情しているふりも見せてくれるだろう。
「あなたのせいじゃないですね。別の誰かや環境がわるいのですね。気の毒ですね」と。
でも実態としては、「自分のせいじゃない」と主張すればするほど、印象が悪くなる。
「まず自分の非を認めなさいよ。」と心のなかで思われてしまう。
2.虚勢(実績を伴わないマウンティング)を張る
次点で悪印象なのが、虚勢を張ること。
具体的には
「有名人と知り合い」とか
「知人が大金持ちになった」とか
「権力者が私を特別扱いしてくれている」
といった、権威主義的な発言だ。
ビジネスシーンでは特に、本人の実績が伴わないマウンティングをすると、そのギャップから「お前自身は大したことないだろ」と思われ、軽蔑されることになる。
これもみんなに上辺では「すごい」と言ってもらえる。
しかし、虚勢は一種の自己陶酔だとみなされるので、虚勢を張り続けると良識のある人は、どんどん離れていく。
なお、類似の存在として
・「できもしない理想論でマウントする」机上の空論屋
・「些末なことで能力をアピールする」重箱の隅おじさん
たちがいるが、彼らもまた、自己陶酔を伴う「虚勢」だとみなされることが多い。
彼らは「マウントしたいだけ」で、発言が相手のためになっていないからだ。
3.決めつける(強すぎるバイアス)
心理学者のセルジュ・シコッティによれば、いわゆる「バカ」の定義は「バイアスが極端に誇張されている人物」だという。
結局のところ、「バカ」とは、心理学研究によって証明されたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉が極端に誇張されている人物をいうのだ。そして、そうしたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉をすべて併せ持つ人物こそが「キング・オブ・バカ」、バカの王様だ。
例えば、以下のような言動を、あらゆる場所で繰り返す人物は「ひょっとしてこの人、頭が悪い……?」と思われやすい。
【後知恵バイアス】 「ほら、私が言ったとおりになったでしょ!」(そんなこと言ってないだろ)
【自己中心性バイアス】 「私の仕事がうまくいかないのは、同僚がみんな能無しだから」(お前も似たようなもの)
【優劣の錯覚】 「弁護士になるなんて簡単だよ、法律を暗記すればいいんだから」(ならやってみなよ)
【偽の合意効果】 「こんな些細な違反なんて、みんなやってるでしょ!」(やってるのはお前だけ)
【楽観バイアス】 「大丈夫な理由?たぶん大丈夫よ、前も大丈夫だったし。」(根拠ないじゃん)
【因果と相関の混同】 「東大生は家が金持ちだから東大に入れたんだろ?」(それは単なる相関)
【確証バイアス】 「未確認飛行物体は存在する。なぜなら私も一度見たことがあるからだ。」(n=1では?)
もちろん、人間である以上、バイアスから逃れることはできない。
しかし、中には自分の判断がバイアスに支配されていることに気づけず、ひたすら「決めつけ」が激しい人がおり、彼らは、周囲から低評価を受けやすい。
例えば、さしたる根拠もなく「主語の大きい発言」をする人を見たことがあるだろう。
「男はみんな浮気する」
「経済学者はインチキ」
「ジャーナリストは権力の犬」
「最近の若者は消極的」
こうした発言を繰り返していれば、「この人、頭が悪いのでは……?」と見なされても仕方ないかもしれない。
*
繰り返すが、もちろん「頭が悪そうに見える言動」をする人が、本当に頭が悪いとは限らない。
だが現実には「頭が悪そうな発言」は、それだけで損をする。
それこそ、前の記事「職場では「無能」よりも断然「態度の悪いやつ」が問題らしい。」に書いたように、「態度が悪い」とされてもおかしくない。
コンサルタント時代は「注意深く発言せよ」「言い方を考えろ」「口に気をつけろ」と、上司からさんざん言われたが、それは印象一つで仕事が台無しになることを、彼が身をもって経験していたからだろう。
この問題は、どうでもいいようでいて、実は厄介なのである。
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【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
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お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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