「要領が悪い人」がいる。仕事が遅く、その質が低い人のことだ。

 

例えばこんな塩梅だ。

「パワーポイントの資料、お願いしたやつ、終わってる?」

「あ、はい今やってます。」

 

「今やってる?頼んだのおとといの朝だよ? もう締め切り時間だよ。」

「13ページ目に埋める資料を担当からもらおうとしたら、きのう一日不在だったので、今朝もらったんです。」

 

「いや、それはいいんだけど、13ページはともかく、他のページは先にやれるでしょ。なんでいまさら慌ててんの。」

「そうなのですが……甘く見てました。」

 

「……で、あとどのくらい残ってるの?」

「あと5ページくらいです。」

 

「……ちょっとまって、10ページの図、おかしいよ。これ古いやつじゃん。こっちのデータもおかしいし。」

「あ、あああ間違ってました……」

 

「ほかも大丈夫? ……やばいな、ちょっとこっちで巻き取るわ。もういいよ。」

「すいません……」

 

 

彼らの仕事はトラブルになりやすい。

本人の主観的な努力と、成果が釣り合わないことが多いからだ。

 

リーダーから見ると「何やってんだ、時間あれだけかかって、出てくるのはこんな成果か……」

と思う一方で、彼は「時間かかった。もうヘトヘトだ」と感じている。

 

リーダーがイラついて、「いつまでかかってんだよ、こんな仕事に。」と言おうものなら、彼は頭にきて「精一杯やってるのに、何もわかってない」と嘆く。

 

こうした人物のパフォーマンス改善は、管理者たちにとっての悩みの種だが、本人は「真面目に仕事をやっている」がゆえに、かえって改善が難しいのが実情だ。

実際、

「仕事に優先度をつけろ」とか

「タスク管理をせよ」とか

「メモを取れ」とか、

彼らに対して言われる様々な解決策が世の中にある。

が、「要領の悪い人」は、要領の悪さゆえに、なかなかそれらを使いこなすことができない。

 

実は、問題の根はもう少し深いところにあるので、そうした「ライフハック的技術」では解決が難しい。

それを理解しないまま、新しい手法を試みたり、管理者があれこれ言っても、あまり事態は良くならない。

 

「要領」とはなにか

問題の根を知るには、まず、「要領」とは何かを知る必要がある。

辞書にはこうある。

1.物事の最も大切な点

2.物事をうまく処理する手段。こつ。また、要点をつかんで、巧みに立ちまわる方法。

(日本国語大辞典)

 

この定義は実態をよく表している。

現場でよくある「要領が悪い人」とは、仕事の大切なポイントがつかめない人、と言い換えてもよい。

 

彼らは仕事を「優先度がつけられない」のではない。「何を優先すべきかを間違う」。

「タスクを忘れている」のでもない。「まちがったタスクに没頭している」。

「メモができない」のでもない。「大事なことがメモできていない」。

 

仕事は、その場その場で、「やると結果に大きく効く、重要な行動」があるのだが、彼らは、その見分けがつかない。

全部の仕事が、同じ重要度に見えるか、せいぜい彼らに見えているのは、「緊急性」や「依頼者」、「怒られるかどうか」程度。

 

その粒度で仕事を見ているから、「どの仕事が重要なのか」がわからず、結局クオリティと労力が見合わない状態になる。

 

これは昔、しんざきさんが、「要領がいい子と悪い子の勉強法のちがい」で示していたことに重なるところが大きい。

ここで話は冒頭の文章に戻ります。鎌倉幕府成立についての文章。

勉強が出来ない子にとっては、この文章って、「どの記述が重要な情報で、どこを覚えればこの文章の要点を抑えたことになるのか」が分からないんですね。というか、そもそも「要点」というものが分からない。

 

だから、例えば

「無断で朝廷から官位を受けた弟の義経を許さず」

という記述も、

「1185年、国ごとに守護を、荘園や公領に地頭を設置しました」

という記述も、

「先祖から引きついできたその領地の支配を認め」

という記述も、全て同じような重要度に見える。

 

強いて言うと、「平仮名よりも漢字の単語の方が重要に見える」とか、マジでそういう理解です。

これは子供の話だけではない。

大人でも全く同じで、彼らに改善を促すには、「何が結果にとって重要なのか」をきちんと教える必要がある。

 

要領が悪い人は、確認と評価の回数が圧倒的に少ない

だから、普通の人と「要領が悪い人」のちがいは、「この仕事って、何が重要なんだっけ?」と把握する仕事、すなわち

・作業前の確認

・作業後の評価

の2つの仕事にいちばんあらわれる。

 

要領が悪い人は、確認、そして評価をうける回数が、要領がいい人に比べて圧倒的に少ない

例えば「パワポの資料」を頼まれたとしよう。

 

要領のいい人は「状況の確認」をするために、すぐにざっくりと作業に着手してみる。

やってみないと、何が確認できていないか、わからないからだ。

そして、「足りない資料」や「自分だけでは完結しない作業」「想定外の作業」の確認を行う。

 

また、納期までに複数回「依頼者」の時間を確保し、「資料の評価をしてもらう回数を増やす」ことをまず考える。

そうすれば、途中で方向を何度も修正できる。

 

この、早く仕事に手を付ける ⇒ 前倒しで確認する のサイクルが早く、回数も多いのが「要領の良い人」。

このサイクルが遅く、回数も少ないのが「要領の悪い人」だ。

 

早く着手、早く確認

だから要領の悪い人に、改善を促すには

「早く仕事に手を付けさせる」

「評価の回数を増やす」

ことを徹底的にやる。こうすると、限度はあるが、どんな人でもある程度、要領の悪さは改善する。

 

これらは起業なども同じで、「仮説」→「検証」のサイクルが早いほど成功する可能性が上がる。

また、世の中の多くのプロジェクトも同様に、「予測」→「調整」のサイクルのスピードが問われる。

 

世の中には「要領が悪い」ことを個人の能力のせいにし、「どんくさい奴はダメ」というマネジャーもいるが、実際はマネジメントのやり方ひとつでかなり変えられるのだ。

 

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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