「部長の説教が長くて、うんざりしちゃったよ」とか
「説教臭い話ばかりで、つまらない会議だな」とか。
いわゆる上司の「説教」は、ほとんど無力で、時間の無駄。
それは、会社に入ったことのある人であれば、だれでも知っている事実だ。
実際、ほとんどの人は上司の説教を聞き流しており、その間に考えることと言えば
「早く終わらないかなー」程度。
まあ、非常に素直な人でも
「まあ、言っていることはわからないでもないけど、長いなー」
といった感じだろう。
決してポジティブなイメージではない。
というか、上司の「説教」に対して、何の文句も言ったことがない人は、まず存在しないだろう。
この評判の悪い「説教」。
なぜこんなにも無力なのだろうか。
説教が無力なのは、「一方通行」だから。
結論から言うと、説教が無力な理由の一つは、話が「一方通行」だからだ。
上司は「語る」側。
部下が「聞く」側。
これは固定された関係である。
説教とは元来、神仏の教えを説き聞かせることを指すから、そこには「対話」はなく、「私が正しい」というメッセージがあるのみ。
相手が神仏であれば、仕方がないと思えるが、相手が人間であれば、「対話」がないところには、納得もなく、理解もない。
相手は奴隷ではないのだから、反発されるのは当然だ。
説教が無力なのは、「価値観」についての話が多いから
そして説教が無力であるもう一つの理由が、「方法論」ではなく「価値観」の話が多くを占めているからだ。
「必ず2回チェックせよ」ではなく「もっと真心でお客さんに接しなさい」とか。
「最初の1ページ目に結論を書け」ではなく「お客さんの気持ちになって提案しなさい」とか。
説教の目的の大半は、「方法を伝えること」ではなく、「価値観を転向させる」という目的に沿ってなされている。
しかし、「心」の在り方を含み、人間の価値観はそう簡単に変わらない。
ドラッカーは「コミュニケーションの原則」について、「相手の価値観を変えるようなコミュニケーションは、激しく抵抗される」と述べている。
コミュニケーションは、それが受けての価値観、欲求、目的に合致するとき強力となる。逆に、それらのものに合致しないとき、全く受け付けられないか抵抗される。
もちろん、それらのものに合致しないときであっても、コミュニケーションが力を発揮するならば、受け手の心を転向させることができる。受け手の信念、価値観、正確、欲求までも変える。だが、そのようなことは人の実存に関わることであり、しかるがゆえに稀である。人の心は、そのような変化に激しく抵抗する。
『聖書』によれば、キリストさえ、迫害者サウロを使徒パウロとするには、サウロを一度盲目にする必要があった。受け手の心を転向させることを目的とするコミュニケーションは、受け手の全面降伏を要求する。
「受け手の心を転向させる」というのは、「受け手の全面降伏を要求する。」わけであるから、上司が部下を精神的に屈服、洗脳しない限り、説教は有効ではない、という事だ。
当然、そのようなコミュニケーションは現代社会では「パワハラ」にたやすくつながる。
許される話ではないし、そもそも、相手の価値観を変えるのに時間がかかりすぎる。
説教ではなく「方法」を「対話」すること
これは別に、現代にかぎったことではない。
昔から説教はほとんど無駄であったし、宗教の集団以外では、説教はほとんど効果がない。
もっと言えば、実務的な組織で「やり方」について教えるは、説教は一方通行であるがゆえに、情報量が少なすぎるのだ。
したがって、仕事上であれば、上司は
1.状況を聞く
2.部下のやったやり方を聞く
3.公式のやり方、もしくは上司の望むやり方を伝える
4.部下との差分を検証する
5.お互いに合意する
というステップを踏む必要がある。
納得感を含んで、やり方を変えさせるためには、これくらいの情報量が必要だ。
一見回り道に見えるが、このほうが説教によって価値観を転向させるよりもはるかに簡単で速い。
もしくは説教などせずに、
「会社が決めたやり方でやりなさい、それ以外は禁止」
というだけでいい。
最後に、もう一度強調しておく。
説教は効果がなく、時間の無駄だ。
対話か命令でいい。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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