「部長、5件でいいので見本を見せてください!」

 

証券会社の1年生だった頃、所属長にこんな懇願をしたことがある。

ことの発端は、”高額納税者リスト”に片っ端から電話をしろと、業務命令を受けた時のことだ。

 

令和の今では信じられないかもしれないが、当時は「日本のお金持ちランキング」とも言うべき高額納税者が地域ごとに詳細に発表され、毎年ニュースを賑わしていた。

そして高額納税者は住所、氏名が世間に公表され、当然のことながら金融機関からの営業電話がなり続けることになる。

 

しかしかけてもかけても、

「忙しいんに、クソ電話してくんな!」

「儲かる株なら自分で買えばええやろ!」

とガチャ切りされるばかりで、全く受注を頂けない。

 

そりゃあそうだろう。こんなリストで実名や連絡先を公表されたら、怪しい投資から詐欺のような話まで、全国から電話が殺到しているに決まっている。

 

部長はイラ立ち、

「お前ら、それでも大学出てるんか!」

と無意味な叱責で私たち新入社員を追い込み、時に分厚いドンコ(顧客名簿)で頭を殴りつけてくる。

※平成初期の話です

 

そんな無意味なプレッシャーや叱責を聞き続けてもとても成果が上がらないと思い、私が言ったのが冒頭の言葉だった。

どう話せば契約を頂けるのか、成功イメージが全くありません。5回でいいので、見本を見せてくださいと。

 

すると部長はいきり立ち、

「おぉ、やったろうやないか!よう見とけ!」

と言って、私のリストを奪い取ると手際よく電話をかけ始めた。

 

「もしもし、私、大和証券の宮本と申・・・」

“ガチャ”

 

「ご多忙のところ恐れ入ります、私、大和sy・・・」

“ガチャ”

(・・・俺と同じやんけ)

 

すると部長は3件で止めてしまい、

「言い訳すんな!徳島支店ではもう1億円の契約取った同期もいることを忘れんな!!」

と吠えた。

今となっては微笑ましい思い出だが、昔の金融営業パーソン1年目とは、こういうものであった。

 

しかし当時の部長と同じような年齢になった今、思うことがある。

これは本当に、微笑ましい思い出でいいのだろうか。

大げさなようだが、先の大戦で日本が敗れた本質的な理由も、平成以降の日本の凋落すらも、もしかしたらここに原因があるのではないだろうか。

 

「50点の仕事」は落第点なのか

話は変わるが、私は地方の中堅企業で経営の立て直しに取り組んでいたことがある。

このポスト、世間ではおそらくカルロス・ゴーン氏のような、強権的経営者による経営改革のような仕事と思われているだろうが、現実はかなり違う。

少なくとも従業員1,000名程度の「属人的に仕事が回っている」中小企業では、外様経営者などゴミ以下の扱いである。

現経営陣にとっては居心地の良い秩序を破壊する存在であり、社員にとっては何も知らないくせに偉そうなだけのクソ部外者だからだ。

そのためまずは、「そもそも仕事をさせてもらえない」状況を解消することが、最初の仕事になる。

 

そんな中、最初にぶつかったのが「正しい経営状況を把握できない」という壁だった。

会社には、1年の決算と同様に毎月集計する、「月次決算」というものが存在する。

通常、どれだけ大きな会社でも月末で数字を締めたら、翌月の10日くらいまでには前月の概算数字を集計できるのが常だ。

そしてその数字に基づいて役員会を開き、経営方針の修正を話し合うのがよくあるスタイルである。

 

にもかかわらず、その会社では月次決算が締まるまでに、40日もの時間がかかっていた。

例えば1月1日~31日の売上・利益の概算を把握できるのが3月10日であり、その数字に基づいて役員会を開催するのが3月20日というスケジュールである。

2ヶ月遅れの数字を話し合う反省会など、一体何の役に立つというのか。

 

そのため数字の迅速な把握を阻んでいる理由を営業部長、経理部長にヒアリングし、解決を試みるが、

「それは無理です」

「仕組み上できません」

という、取り付く島もない返事しかもらえない。

「特殊な事情があり、数字の把握までに30日かかる事業所がいくつも存在する」

ということを繰り返すばかりだ。

 

困り果てた私は、そのポストに就いてから初めてできた唯一の“友達”である、経理部の若い社員を飲みに誘った。

 

「田村さん、月次集計がまともにできずに困っています。なんで当社は、こんなに数字の把握に時間が掛かるんでしょう」

「数字の正確な集計に時間がかかるのは仕方ありません。それぞれ、契約の問題で物理的に伝票を触れないんですよ」

「・・・そうらしいですね」

「でもね、桃野さん。こんなの本当は、簡単に解決できる方法があるんですよ?」

「どういうことですか!?」

 

そういうと田村は、ざっと以下のようなことを説明してくれた。

伝票を触れない事業所の数は全部で5か所ほどだが、そのうちの2か所は売上など微々たるもので仮引当で何も問題がないこと。

残りの3か所は、売上や毎月の季節変動こそ大きいものの、前年同月の数字を引き当てて仮集計しても、大きなズレは発生しないと断言できること。

いずれの事業所の数字も、数ヶ月遅れで差分処理するだけでよく、誤差など恐らく大したものにならないこと。

そこまで一気に語ると、彼は誇らしげに私と目を合わせジョッキを飲み干した。

「エライ連中が揃いも揃って、バカなことで悩んでるな~(笑)」と、その目が笑っている。

 

私は小躍りすると、さっそく田村の話を基に月次決算のルールを仕組み化する。

すると彼の言う通り、例外的な事業所の数字は仮引当で十分に機能し、月次決算はわずか7日で集計が完了して、10日には役員会が開催できるようになる。

経営立て直しを図る上でやっと、「目」が見えるようになったのである。

 

「なんだ、そんなの企業会計の基本じゃないか」

と思われる人も多いかもしれないが、この話の肝はそんなところにあるのではない。

田村は潰れかけの会社で、誰もがやる気を失っている中でこんな貴重な話を自ら、私に話してくれたのである。

 

考えてもみてほしいのだが、もし自分の給与が低く、休日数も法定最低限、さらに将来が見えない中で働いていたら、どんな思いで日々、仕事に取り組むだろうか。

会社の行末など知ったことではなく、さっさと転職を考えるというのが本音ではないだろうか。

そんな中では、社員が「50点の仕事」をしてくれるだけでも本当にありがたくて涙が出る。

会社や経営陣が30点以下のクソなのだから、当然ではないか。

 

そして日本中の会社を探した時に、どれだけの会社が社員に対し、80点の仕事環境を提供できているだろうか。

成長の機会、能力向上の環境、成果が報われる仕組み・・・

もしそれだけの環境を本当に提供できているのであれば、経営者も堂々と社員を厳しく叱責し、80点の仕事を求める資格があるだろう。

もっとも、そのような会社の経営者ほど傲慢な態度とは無縁だが。

 

つまり経営者やリーダーとは、「社員や部下に感謝し、奉仕するのが当然」ということだ。

「会社も自分も未熟で力不足で、本当に申し訳ありません」

という正しい自覚があるのであれば、

「そんな会社のために頑張ってくれてありがとうございます」

と思わないほうが傲慢であり理不尽である。

 

潰れかけの会社で仕事をする過程で、私はその「経営者にとって当たり前の姿勢」を嫌というほど学ぶことができた。

そして田村をはじめ多くの社員の協力を得て一定の成果を出すことができたことを今も、ささやかな誇りに思っている。

 

「減点主義」は本気で改めなくてはならない

話は冒頭の、かつての証券会社の上司についてだ。

なぜ私が、このようなリーダーの姿勢こそが日本がアメリカに敗れた理由であり、日本凋落の元凶であるとまで考えているのか。

 

日本の経営者やリーダーの多くはなぜか、自分の無策・無能を棚に上げて

「テメエなんで80点を出せないんだ!」と、成果を上げて当然の姿勢で組織をマネジメントしようとする。

そして成果が出ない場合、それを社員個人の能力と責任に転嫁し、徹底的に糾弾する。

いわば「根拠のない減点主義」だ。

にもかかわらず、リーダーに不可欠なナレッジの共有や仕事の仕組み化という初歩的な知識すら持ち合わせていないのだから、成果など上がるわけがないだろう。

 

その一方で、例えば大戦中のアメリカ軍の姿勢はどうであったか。

当時も今も変わらないが、米軍は「兵士に難しいことを求めない」発想で、組織と戦略を設計した。

移民の国でもあり、言葉も十分に話せない若者すら戦力化する必要性の中でたどり着いた知恵である。

いわば「40点の仕事」を出発点に戦略を設計する、「合理的な加点主義」ということだ。

「自力で80点を出せない社員はゴミ」という”マネジメントもどきのパワハラ”をする日本との差は、悲惨なほどに大きい。

これでは、日本はあらゆる領域で敗れて当然ではないか。

 

先に、「社員が頑張ってくれたら、それだけで感謝しなければならない」という話を、潰れかけの会社でマネジメントした経験からお話した。

しかしそれは実は、何も潰れかけの会社という特殊な環境だけで通じる話ではないということである。

 

繰り返すが、経営者やリーダーとは、

「会社も自分も未熟で力不足で、本当に申し訳ありません」

「そんな会社のために頑張ってくれてありがとうございます」

という「加点主義」の原則に立ち、それでも回る組織・仕組みを作ることが、本当のスタート地点である。

 

部下の心身をぶっ壊すだけの日本人的なマネジメントは、もういい加減に止めなければならない。

リーダーの姿勢と発想が変わらなければ、日本はさらに30年、100年と、凋落の坂を転がり落ちていくことになるのではないだろうか。

 

 

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【プロフィール】

桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。

20代の頃、8月の早朝5時に目が覚め外に出ると、
「あぁ、この空気・・・小学生の夏休みに感じたラジオ体操の匂いだ・・・」
と感慨にふけっていました。
しかし今、同じ時間に目が覚めるとクソ暑くてビール飲んで2度寝します。
地球も俺も、ぶっ壊れてる。

twitter@momono_tinect

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