知人の優秀なエンジニアが「管理職になったので部下を選ばなければならない」と言っていた。

「どんな人を部下にするつもりなのか」と尋ねたところ、彼は「誰でもいいけど、『意識だけ高いやつ』、要するにバカは要らない」と言っていた。

 

会社にいる『意識だけ高いやつ』

『意識だけ高いやつ』とは、どんな存在なのか。

 

詳しく聞くと、「やたらと「勉強してます」「意欲あります」アピールをしてくる割には、「頼まれた仕事を最後までやらない」のが特徴。

「お客さんからの依頼も放置する」ので、上司が彼らの尻拭いをするはめになるという。

 

「なぜ仕事を放置した」と聞くと、「担当さんに質問をしたのだが、回答がないので。」と言い訳をする。

詳しく見てみると、1週間も回答がないのに、彼は担当に対して返事の催促もしていない。

 

「回答の期限を切ったのか」と聞くと、「忘れてました」

「1週間も回答がないなら、重ねて問い合わせるのが普通だろう」というと、「気づきませんでした」

「クレームが来ている」と知らせると、「お客さんが悪いんですよ」

 

何かにつけて、こんな調子なのだ。

目の前の仕事をきちんとやらない。

それでいて、「週末に社外勉強会に参加しました!」とか、スタートアップ企業の自社開発プロダクト記事を見せてきて「うちもやりたいっすねー」とか言い出し、挙句の果てには「社内では出世しているほう」とのたまうのだから、周りのイライラがつのる。

「わかったから、仕事しろ」と。

 

冒頭のエンジニアは、「こういうやつは速やかにクビにしたい」という。(実際にクビにはできないようだが)

「手を動かさない社員はいらない」というわけだ。

 

「意識だけ高い」人たちは一体、何を考えているのか

しかしなぜ彼らは、「仕事をしない」のに、意識だけ高くいられるのか。

 

私は不思議に思って、質問をした。

「通常、仕事をしないのであれば、「意識が高い」というのは、行動と矛盾しているように感じます」と。

 

すると、彼は言った。

「別に矛盾してないですよ。彼らは仕事するのが好きなのではなく、「すごい」と言ってもらえるのが好きな人たちなので。」

 

なるほど、と思った。

確かにそう思うと、様々なことの辻褄があう。

「責任感の欠如」も「主体性のなさ」も、「すぐに「称賛」につながらないことはやらない」からであって、彼らの中では合理的な選択なのだ。

 

何を好き好んで、大した見返りもない、面倒な仕事をせねばならないのか。

当然やらない。

 

回答が遅いひとをつっついて、わざわざ回答をもらうか?

仕事を増やすより、相手のせいにしたほうが楽ではないか。

 

必要そうだけど、お客さんから言われていない仕事をするか?

言われるまでやらないのが、得策だ。

 

万事が「すぐリターンがあるかどうか」で判断されるので、彼らは積み上げを必要とする仕事と非常に相性が悪いのだ。

 

なぜならプロ意識は、「その場でのインスタントなリターンを求める」というよりは、長期的な信用とスキルの獲得を求めるからだ。

 

うなぎ職人の世界には 「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」という言葉があり、優れた職人ほど「私なんか、まだまだです」という謙虚な方がたくさんいる。

それは、インスタントな称賛を求めてしまいがちな、傲慢な自分への戒めとして機能している。

 

同様に、私はコンサルタントとして10年以上働いていたが、世の中の「意識高そう」というイメージとは裏腹に、本物であるほど「謙虚なコンサルタント」は、実は非常に多かった。

エンジニアたちにも、一種そういう文化があり、「意識だけ高い」やつが嫌われるのではないかと思った。

 

「即リターンがある作業」にしか興味がない人々へどう接するか

したがって、冒頭の彼が言うように、「意識だけ高い人」が、部下にいると、これはもう、上司は間違いなく苦労する。

 

もちろん、コンサルにも「意識だけ高い人たち」がたまにいた。

 

しかし根本的には、彼らはエンジニアだとか、コンサルタントと言った、(実は)地味な積み上げが必要な仕事に向いていない。

おそらく彼ら自身も、「すごいと思われたいけど、苦労はしたくない」と思っており、「見栄えがよく、ぱぱっと稼げる仕事」で金が入ってくれば、それでいいと思っているだろう。

 

ただ、「バカは要らん」と言って、切り捨ててもいいのだが、彼らにチャンスをあげたい、という方もいるだろう。

 

では、どうすべきか。

 

「褒めて伸ばす」と主張する方もいるが、経験的に言うと、彼らは褒めると努力しなくなるので、逆効果だ。

もし本当に彼らを育てるならば、褒める叱るはどうでもよく、彼らには徹底して「仕事をやらせる」しかない。

本当にそれ以外、道はないのだ。

 

海兵隊が登場する映画では、新兵向けの厳しい訓練(ブートキャンプ)が登場する。

そこでは、厳しい訓練で、生き残るための基礎を1から叩き込まれ、「自己否定からの変革」を迫られる。

(進撃の巨人 諫山創 第四巻 講談社)

(ちゃんとした)コンサルタントやエンジニアのように、ごまかしの効かない個人技を要求される仕事では、「考え方を変えろ」というのではなく、「厳しいタスク」をこなさせ、その中で本当の実力をつけさせる以外、彼らの居場所はない。

 

もちろん、脱落するなら追わなくていい。(脱落がデフォルトだ)

根本的には、そういう仕事には合っていないのだから、無理強いは不要だし、優しく送り出してあげよう。

 

だが、彼が「自己変革したい」と言うのなら、口に見合う実力がつくまで、手を緩めてはならない。

それが、本当の親切ってものだ。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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