なかなか、わかりやすく話せない…という方は多いかもしれません。
それどころかむしろ訓練を受けていない、ほとんどの人の話は、論理的でもなく、筋道も通っておらず、「わかりにくい」のが普通なのでしょう。
ただ、プライベートでは、それほど「話のわかりやすさ」を問われません。
何となくその場の雰囲気で、皆、うなずいてくれるからです。
「ま、言ってることはわかんないけど、追及するのも面倒だからいいや」とか
「大したこと言ってるわけじゃなさそうだから、適当に笑っておこう」とか。
通常、多少の分かりにくさは、すべて無視されてしまいますから、支障はないのです。
仕事では「話のわかりやすさ」は死活問題
しかし、仕事においては少々事情が異なります。
理解不足が、場合によっては責任問題に発展することもありますから、「面倒だから、まあ流しておけばいいや」では済まされません。
基本的には、相手の話を細大漏らさず理解することが必須です。
そういう時に初めて問題になるのが、「話のわかりやすさ」です。
仕事においては、相手の話がわかりにくければ、何度も聞き返さなければなりません。
また、場合によっては話がわかりにくいと「この人大丈夫かなあ」と能力を疑われてしまいます。
お客さんの立場であれば、話のわかりにくい相手には仕事を頼みにくいでしょう。
仕事においては、「話のわかりやすさ」は、死活問題です。
話をわかりやすくする技術
そのため、私がコンサルタントをやっていた頃は、「話をわかりやすくするスキル」が、重要な意味を持っていました。
そして、そのスキルは、2つの大きな要素からなっていました。
一つは、前に書いた「結論から話す」ということ。
なぜ「結論から話す」が、なかなかできないのか、観察したら、理由が分かった。
そしてもう一つが、今回の主題である「話しすぎない」でした。
知識や経験がついてくると、どうしてもそれを披露したくなります。
しかしそれこそが罠であり、自分を人によく見せたいがために、あれもこれも伝えたい……と、会話に様々なものを盛りこむと、本質的な部分がよくわからなくなってしまい、結局何も伝わらないのです。
例えば、お客さんから「どうしたらいいでしょう?」と聞かれたとき、
「結論からいうと、3つあります。1つ目は… 2つ目は… 3つ目は………こういう手段もあります。また……」
と、結論からであっても、長々と話してしまうのは、実は下策でした。
優秀なコンサルタントは、こう答えます。
「お勧めは〇〇です、懸念などはありますか………?(沈黙)」
基本的には必要事項だけを述べ、あとは沈黙してお客さんが話す時間をできる限り長くとります。
言い換えれば、知っていることを、すべては話さない。
必要最小限だけ口を開き、相手に話させ、また相手のの理解が追い付くまで、都度待つ。
これが基本的な技術でした。
これは会話だけに言える話ではありません。
「わかりやすい文章」も、本質的には同じで、「盛り込みすぎていない」のです。
例えば以下の文章は、比較的「読みやすい」と感じるでしょう。これは2015年の本です。

(小林 泰三 記憶破断者 幻冬舎)
それに対して、以下の文章は、「読みにくい」と感じる方が多いでしょう。これは1841年の本です。

(エドガー・アラン・ポー モルグ街の殺人 青空文庫)
最近の本は、世の中が「わかりやすさ」を求めた結果、「会話」以外の描写が少なくなり、ユーザフレンドリーになっているのだと感じます。
話をわかりやすくするための最低限の要件
なお、話をわかりやすくするための最低限の要件とは以下の事項です。
①短い結論
まず、前項で述べた「結論」を言います。
前述したように、ここで話すのは1つ、ないし2つ程度の話題に限定します。
言いたいことが数多くあっても、「今、必要なことだけ」を述べてください。
そうしないと、ほとんどの場合、相手の理解が追い付かないからです。
②相手の理解度の確認
相手が理解し、次の話題に移ってよいかどうかを確認します。
「何か気になることはありますか?」
「どう思いますか?」
「ご質問はありますか?」
常に双方向性を保つことが、「わかりやすい話」の原則です。
③沈黙
相手が考えているとき、話そうとしているときは、沈黙します。
決して口を開かないでください。
特に、何かを説明したり、提案をしたりした後に相手が黙っていると、つい追いうちで説明をしたくなるのですが、ぐっと我慢です。
私のコンサルタント時代の上司は、相手が考えているときは沈黙し、それが長くなると、自分のノートを開いて、書いたものをまとめるなど、相手の目の前で内職するくらいでした。
「堂々と内職するなー」と思っていたのですが、相手は逆に「急いで回答しなければ」というプレッシャーを感じなくて済むので、よかったのではないかと思います。
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以上が、私が教わった、「わかりやすく話すためのスキル」です。
重要なのは、「うまく話す」のではなく、「相手の様子を見ながら話す」ということ。
話すスキルの奥義というのは、実は「発声」する部分ではなく、「沈黙」部分にあるというのが、私の拙い理解です。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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