ちょっと前にホームレスになれるのも男性特権であるという意見がインターネット上でバズっていた事があった。

昨今のリベラルな男女同権を理想とする考えにより、女性はガラスの天井でもって社会進出が阻まれているという考えは広く共有されるようになった。

 

一方で男性はガラスの地下室に閉じ込められているという意見がある。

これは成功できなかった男性はまるで見えないもののように社会から”無かった”事にされてしまうという現象を暗に示している。

 

ホームレスに男性が極端に多いという現象はこのガラスの地下室現象の一つだと僕は思っていたのだが、じゃあ実際にホームレスに”なる”ってどういう事なんだろうという疑問は長い間あった。

 

果たしてホームレスは男性特権なのかそれともガラスの地下室なのか。その疑問に答えてくれる本を紹介しよう。”ルポ 路上生活”だ。

ルポ路上生活

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東京のホームレスは食べ物に困らない

一口にホームレスといっても国や地区で色々あるとは思うのだが、ルポ 路上生活を書かれた國友 公司さんは「都内のホームレスは飯に困る事はまずない。

むしろ何を食べるのかの選択肢が案外豊富」だと言う。

 

國友さんは実際に2ヶ月ほど路上生活をされたようだが、その中で食事にお金を使っていたのはほぼ最初の頃だけである。

じゃあどうやって食事を得ていたのかというと、炊き出しや弁当配布などである。

現代は飽食社会だというが、僕はメシがこんなにも都内で無料配布されまくっているという事をこの本を読んで初めて知った。

 

ホームレスもコミュ力が重要

ただ、この豊かな食生活に黙っていて触れられるというものでもない。

どこでどういった炊き出しがされているのかや、どこの炊き出しが美味しいのかの情報は当然といえば当然だがわかりやすく整備されているわけではない。これらの情報はホームレス同士の横の繋がりによってのみ共有される。

 

つまり…食生活豊かなホームレスになれるかどうかは、コミュ力によって決まるのだ。

私たちの誰もが人間関係の中にいるが、ホームレスだってその例外ではない。

夢が無い話ではあるのだが…結局、みんなで仲良く楽しくやっていけるか否かといった能力は、どこの社会に所属するにしても”必要”だという事なのだろう。

 

ホームレスでも”どこに住むか”は超重要

この本を読んでいて個人的に一番面白かったのが住む場所の生活難易度の違いである。

同じ都内であっても、東京の新宿周辺は天国のように住みやすいのだと國友さんは言う。

一方で上野や河川敷まわりは生活難易度が高く、いい食事へのありつきやすさも違うらしい。

 

以前に”年収は「住むところ」で決まる”という本を読んだ事があったが、僕はまさかホームレスですら「住むところ」で生活難易度が変わるだなんて思いもしなかった。

 

いやはや、やっぱり住む場所というのは色々な意味で人生に影響を与えるものである。

もし仮に自分がホームレスになるような事があったら、安易に近場で妥協なんてせずにいい住処が見つかるまで都内をちゃんと巡回しようと思わされてしまった。

 

”選択”と”決断”はどこにいっても肝心なのだ。僕も改めて今の生活をナアナアでやってないかキチンと確認しよう。

 

東京は無料で住めるでっかいワンダーランド

また、路上生活というと寒さが身に堪えそうなイメージが強いが、実際には暑さの方が厳しいのだそうだ。

 

衣服や毛布はそれこそ捨てるほど貰えてしまうそうで、上手にダンボールハウスを組み立ててさえしまえば、寒さで身が悴むような事は特にないのだという。

むしろ衣服や毛布などといった装備で取り除けない暑さの方がQOLには強く影響するようで、これらをどう耐え凌ぐかも豊かなホームレス生活を送るにおいては重要なのだそうだ。

 

ここまで見てきた通り、ホームレス生活は”何かが足りない”という事はあまり無い。

物資はむしろ潤沢に供給されるので、ある意味では見方によっては東京というサバンナで野生動物のようにサバイバルが楽しめるのではないかと思わされてしまうほどである。しかも無料で。

 

アメリカでは家賃が高すぎて車内や路上で生活をする事を選ぶ人もそれなりにいるとはいうが、今後日本でも東京サバンナでのサバイバル生活を楽しむ層が一定数出てきてもおかしくはない。

実際、僕は馬鹿みたいな規則でがんじがらめにされたり、クソみたいな場所で自殺衝動を抑えながら働くぐらいなら、東京サバンナ生活を楽しむのもそこまでメチャクチャに悪いものではないんじゃないかとすら思えた。なにせ無料だし。

 

この東京サバンナでのサバイバル生活を”楽しみやすい”のは女性よりかは男性だろう。

そういう意味ではホームレスは男性特権的な側面があるというのは完全に間違いとは言い切れないかもしれない。

消極的だし超進んで自ら選びたくなるような選択肢では無いので、特権とまで言うのはどうかとは思うが…

 

お前、このままだと終わっちまうぞ

それに実際、いくら無料で東京サバンナでサバイバル生活が楽しめると言っても、それを死ぬまでエンジョイできる人は多くはあるまい。

人生の難しい部分はキチンと軌道にのせる部分にある。

 

ちゃんと人らしい生活を営み、日々の生活の中で自尊心を補填しつつ自由も謳歌する。

ホームレス生活でこれが絶対に達成不可能だとまでは言わないが、普通に社会をやっていった方がコレを獲得する難易度は低いだろう。

 

本書の中には、ホームレス生活者を一般社会へと呼び戻そうと試みる人もいる。

いわゆる手配師と言われているタイプの人達で、彼らは若いホームレスを捕まえては現場に投げ込むのが仕事だそうだ。

 

本書に登場する手配師の京太郎という人の言葉は色々と胸に響くものがある。

彼が若いホームレスを捕まえて話を聞くと「やりたいことがみつからない」とよく言うのだそうだ。

そういう人に手配師の京太郎さんはこう諭す。

 

「お前、このままだと終わっちまうぞ」

「気持ちはわかるよ。でも、それじゃしょうがないだろ?」

「まずは目の前にある事をやるんだ」

「嫌な仕事が30日頑張れたら、もう30日頑張ってみろ」

 

やりたいことがみつからない

「やりたいことがみつからない」

この感覚は僕も若い頃に随分と悩まされた。

 

自分は何の為に生まれてきたのか?という問いを一度たりとも持たない人間はいないだろう。

”人間、誰でも一つぐらいは才能がある”という言葉があるが、世の中を見渡せば自分の上位互換としか思えないような人間がそこら中にいる。

 

「はぁ、なんでA君は背も高くてカッコよくて頭が良くて性格もいいんだろう…」

「それと比べて自分は…」

 

実際問題…持ってる人は何でも持っている。

そういう人に限って、自分よりも人生が楽しめそうなポジションまで確保していたりするのだから、人生というのは誠に悩ましいものである。

 

「せめて、たった一つだけでもいいから生きがいのようなものが見つけられて、それに没頭できればいいんだけど」

 

若い頃、本当によくこう思ったものだった。

将棋の藤井聡太さんや野球の大谷翔平さんのような若い頃から人生のやりたいことを見つけ出せている人を嫉妬しなかった日は無かったぐらいである。

 

短期的な視点でみれば、人生のやるべきことは極めて明瞭である

そうして30代も中盤を超えた自分だが、最近になってこの”やりたいことがみつからない病”の解決のようなものがやっとこさわかってきた。

 

この病気の解決歩法は極めてシンプルだ。それは”現実をちゃんとみて、いま自分がやるべき事をちゃんとやる”である。

 

実際問題としてである。自分の人生をキチンと真正面から見据えれば、キチンとやらなくちゃいけない事はハチャメチャにある。

学生ならば学業に専念する事が求められているだろうし、社会人ならキチンと仕事する事が求められている。

このように人生というのはその日その日でみれば、貴方に”コレをやって欲しい”という事がキチンとある。

 

これはどこのどんな有名人であろうが勝手に奪う事は許されない貴方オリジナルのモノであり、かつキチンとやれば絶対に信用が積み重なる性質のものだ。

こうして目の前の現実に応え続けていくと、驚くべきことに道が続く。

会社ならキャリアが積み重なっていくし、家庭や友人なら円満な人間関係が積み重なる。

そういう風に、順調に人生を積み重ねるのが凡人における人生の意味のようなものだとすら今は思う。

 

キチンと人生を積み重ねて守るべきものを持てるようになると、やりたい事なんてその中から無限に発生してくる。

人間一人の欲望なんてシンプルでたかが知れたものだが、集団の欲望は複雑で凄い。

凡人だって集団として群れを形成できれば、生きがいを容易に生み出せるのである。

 

仕事は凄い

最近実に思うのだが、仕事というのは本当に凄い。何が凄いのかって、人間は仕事を真面目にキチンとやっている人間の事を絶対に嫌えないのである。

 

以前は仕事を金銭の対価としか見れていなかったので「こんなの真面目にやるだけ損じゃないか」としか思えなかった。

だが、最近はむしろ「同じ仕事をやるんなら、真面目にやらない方がむしろ損じゃないか」としか思えないようになってきた。

 

良い日を過ごせば、次の日はもっと良い日になる。

そうやって複数人でもって良い人生を積み上げ続けていくと、自分の想像を遥かに超えて人生に面白い展開がポンポンと舞い込んでくるようになる。

 

ちっぽけな自分の想像を遥かに超えた部分にある未来。それをつかめるかどうかは、結局のところ全部自分次第なのである。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

Photo by Jon Tyson