「相談があるのだけど……」と知人友人から持ち掛けられて、親切心から「アドバイス」をしてあげた。
でも、全く相手に響かず、「なんで言うとおりにやらないの」と、逆に相手を責めてしまい、何の解決にもならなかった。
そんな経験のある人はいないでしょうか。
私は死ぬほどあります。
そんな失敗から、徐々に私は「人からの相談」について、考えを改めざるを得ませんでした。
実際、「アドバイスの欲しい人」は本当に少ないのです。
多くの人が求めているのは、「黙って話を聞いてくれる人」であって、あれこれと改善案を考えてくれる人ではありません。
しかも、もっと悪いことに親切心からの「改善策」「アドバイス」はむしろ、「なんでこんなこともやってないの?」という批判だと受け止める相談者も少なくありません。
「◯◯してください」や「◯◯すべきです」といった直接表現はまず、誤解されて伝わるのです。
そして、非難されている、と思った瞬間、相手は聞く気を失います。
もうそうなると、アドバイスどころか、話もちゃんとしてくれません。
ですから、新卒の時、「コンサルタントはアドバイスをする職業」と認識をしていましたが、仕事をするにつれ、「コンサルタントは相手の話の交通整理をする職業」と割り切るようになりました。
そしてこれは、仕事だけではなく、プライベートも同じなのだ、と気づくのに、そう時間はかかりませんでした。
例えば、恋愛相談で求められるのは、ほとんどの場合、「アドバイス」ではなく「整理」であり、実は自分でやりたいこと、やろうとしていることは本人が良くわかっているのです。
それらを整理し、後押ししてあげるだけで、感謝されるのです。
気づけば、実に簡単なことです。
私が教わった「相手の話を整理する技術」とは
ただ、このような話をすると、「相手の話をうまく整理するにはどうしたらよいのか?」という疑問が浮かぶ方も多いでしょう。
高度なコミュニケーション技術が必要、と思う方もいるかもしれませんが、実際には「整理」の本質を知っていれば、とても簡単なのです。
まず「整理」の正確な意味です。辞書で調べると、以下のようにあります。
(日本国語大辞典)
もう少しわかりやすく言うと、整理とは「いらないものを捨てて、必要なものだけ残す」行為です。
したがって、「相手の話を整理」とは、相手の話から余分な情報を捨てて、判断に必要な情報だけを残してあげる行為、と言い換えても良いでしょう。
例えば、つい先日のことです。
私が空港にいるとき、急に妻から電話がかかってきました。
飛行機に乗る寸前なので、何事が起きたのかと思ったのですが、電話に出てみると、
「子供たちが着る、七五三の貸衣装。どれが良いか、決めきれないので相談に乗ってほしい」とのことでした。
時間がないので、短時間で妻の相談に応えねばなりません。
そこで、「整理」をすることにしました。
まずは相談の目的の確認です。
「さっき送ってもらった写真の中で、どの衣装にするか、決めたいんだよね?」
「そう」
ここでやってしまいがちなのが、写真だけを見て、「この衣装がいい」と自分の好みを話すことです。
当然、妻は納得しないでしょう。
自分の話を聞いてもらえていないからです。
これは、悪手です。
また、七五三の衣装とは本来……なんていう、自分の知識を披露するのもウザい行為です。
そんなことは求められていません。
では正解は何かというと、ここですべきは「聞くこと」です。
「迷っているポイントを教えてもらえないかな。」
すると、妻は話を始めました。
「まず、価格が◯◯円と、◯◯円で、大きく違うの。」
「うん。だいぶ違うね。」
「だけど、色はこっちの高いほうが、鮮やかで新しい感じ。」
「うん。なるほど。」
「子供たちは、鮮やかなほうに惹かれているみたいなんだけど。」
「うん。」
「だけど、鮮やかなほうにした場合、神社で写真を取れる時間が、だいぶ遅くなって、16時以降になってしまうみたいなの。」
「あ、そうなると、もう暗くなっているから、神社での写真は無理で、写真屋さんで集合写真しか取れないね」
「そうなの。だから迷ってて。」
そこで私は「不要な情報」を整理することにしました。
「まず価格だけど、この前、おじいちゃんとおばあちゃんが、少し協力してくれると言ってなかった?」
「そう。」
「それだと、判断基準としては重要度が下がる気がするのだけど。」
「確かにね。」
「あと、「子供たちの好み」って、コロコロ変わるんじゃないの?優先度低くない?」
「うーん、そうかもしれない。確かに、子供たちの趣味だけで決めるわけにもいかないし。」
「おじいちゃんと、おばあちゃんに聞いたら、また変わるかも」
「そうね」
「そうなると、重要なのは「時間」だけじゃない?夕方からしか借りれなくても、問題はない?」
「うん、わかった。考えてみるね。」
「それじゃ。行ってきます。」
妻は結局、「お参りの時間を優先し、鮮やかではないほうの着物」を借りることにしたようです。
私の役割は「整理」だけでした。
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現実的には、企業経営者に対するアドバイスは、これ以上に複雑な要因が多数、関わってきますので、これほどシンプルにはいかないことも多いです。
例えば、社員の教育プログラムを作る時に、
「全員を対象とするか?志願者だけを対象とするか?」
「今期からやるか、来期からやるか?」
「効果の測定をどの程度やるか?」
「人事評価と紐づけるか、別途やるか?」
など、意思決定をしなければならないシーンは、無数にあります。
しかし、やるべきことは同じです。
「不要な情報」を整理し、「必要な情報」だけに絞り込むことで、相手の話を整理し、意思決定を促してあげるのです。
なお、コンサルタントが「フレームワーク」を多用するのも、「この情報は検討の必要がある、それ以外は不要」という指標の一つになるからです。
例えば、売上のダウントレンドが問題になっているのであれば、
・事業のライフサイクルの問題
・商品ラインナップの問題
・セールスターゲットの問題
・差別化の問題
・引き合い/集客の問題
・営業/販売の問題
・リピート顧客の問題
・組織の問題
などに一度あてはめ、ヒアリングをしたうえで、網羅的にこの問題は重要、重要ではない、という判断を下しやすくします。
フレームワークの使いかたとは、本来そういうものです。
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「相手の話を整理する」とは、迷っているポイントや論点を、一度全て、俎上に出します。
そのうえで、論点を重要度で絞り込んで、比較や検討をしやすくする。
これが、コンサルタントたちが使っている「話を整理する」ことの本質です。
とても簡単ですので、必要なシーンではぜひお試しを。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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