『ちゃんと考えた?』って言われたことありますか。

働き始めて間もない新人のとき、「ちゃんと考えた?」と言われたこと、ある人いますか。

わたしはあります。

上の人に出した資料を突っ返されて、「もっとちゃんと考えてよ」と言われるあの瞬間。

嫌だったですよね。

 

で、そのとき、わたしがまず頭に浮かんだのは何だったかと言うと、

「ちゃんと考える」の、”ちゃんと”ってなんだ?

でした。

 

しかし、現実には、”ちゃんと”を、うまく説明できる人は、ほとんどいません。

というのも、”ちゃんと”という言葉が当たり前に使われすぎているからです。

 

ただ、「ちゃんと考えていない」のは、上司からすると、それなりに明確です。

例えばこんな具合です。

上司「この売上なんですけど、合計の数字間違ってますよね。この資料は重要だと言ったでしょ。」

部下「え、間違ってました?」

 

上司「はい。どこの数字を見ましたか?」

部下「どこだったかなあ……。」

 

上司「正確かどうか検証しなかったのですか?」

部下「いや、正しいと思ってました。」

 

上司「なぜ正しいと思ったのですか?」

部下「えー……。」

 

上司「本当にちゃんと考えました?」

部下「すみません……」

一事が万事、といいますが、この人は他の仕事もこんな具合で『ちゃんと考えて』やっていないと予想できます。

 

『ちゃんと考える』って、なんだ?

では「ちゃんと考える」とは、いったい何でしょう。

 

これは長い間、わたしの疑問の一つだったのですが、その謎が、最近ようやく解けました。

『ちゃんと』の本質は「注意深さ」だったのです。

 

たとえば「ちゃんと考えている人」は、論理的に思考することができます。

それはなぜかといえば、「思考すること」にわざわざ脳のリソースを割いており、「本当にこれで筋が通っているかな?」と、立ち止まって考えているからです。

 

逆に「ちゃんと考えていない人」は、認知にリソースを割かず、適当に「感覚に任せて」いる。

言い換えれば、怠け癖に負けてしまっています。

 

これを、行動経済学の権威である、ダニエル・カーネマンは「最小努力の法則」と呼んでいます。

よく言われる「最小努力の法則」は、肉体的な労力だけでなく認知能力にも当てはまるのである。

この法則は要するに、ある目標を達成するのに複数の方法が存在する場合、人間は最終的に最も少ない努力ですむ方法を選ぶ、ということだ。

経済学的に言えば、努力はコストである。そこでスキルの習得も、その利益とコストを天秤にかけて行うことになる。こんな具合に、怠け者根性は私たちの中に染みついている。

 

「ちゃんと掃除する」のもまったく同じ

これは他の様々な活動についても同じでです。

例えば掃除。

 

「ちゃんと掃除する」ためには、そこに認知のリソースを割く必要があります。

 

・部屋を隅々まで掃除するために、まず落ちているものを片付けたか?

・汚れがちな場所から家具を移動させたか?

・全面にそうじ機をかけたか?

・もうゴミは落ちていないかチェックしたか?

・水ぶきをしたほうが良い箇所はないか?

 

そういう事を改めて「一度立ち止まって」考えている人と、そうでない人とは、掃除のレベルが異なるのは明らかです。

 

これは、冒頭に出てきた資料作りにも言えます。

資料作りにどんなタスクが必要かを洗い出して、一つ一つを確実にやること。

それが「ちゃんと考えて資料を作る」ことです。

 

ダニエル・カーネマンは、この「一度立ち止まって考える思考」こそが、目的を達成のための「実行制御」の能力だとしています。

決定的な能力は、いわゆる「タスク設定」ができることである。すなわち、慣れていない作業を指示されたとき、それに応じられるよう記憶をプログラムすることができる。

たとえば、「このページに出てくるfの文字をすべて数えなさい」と言われたとしよう。これは、あなたが前に一度もやったことのないタスクであり、自然に思いつく類いのものでもないが、システム2はちゃんとやってのける。

この作業をうまくこなせるよう注意力をセットするのにも、実行するのにも、努力が必要だ。しかし何度もやれば必ず上達する。心理学では、このようにタスク設定を導入し完了するプロセスを「実行制御(executivecontrol)」と呼ぶ。

 

「頭がよい人」は話す前に何を考えているのか?

つまり、物事をうまく進める人、論理的に考えることのできる人、つまり「頭が良い人」とされている人は、「注意深い」のです。

言い換えると、感覚や直感に身を任せない、というべきでしょうか。

 

これはもちろん、仕事で重要な「コミュニケーション能力」とも大きくかかわります。

 

前に書いたことがありますが、コンサルタントになって受けるコミュニケーションの訓練は、結局のところ、以下の2つに尽きます。

だから、コンサルタントは相手に接するとき、気持ちよく話してもらうために「よく聞く」し、「無駄なことは一言も話さないように」細心の注意をはらいます。

 

わたしは物覚えの良い方ではありませんでしたので、お客さんのところへ一人で行かせてもらえるまでに、大変な時間を要しました。

でも、苦労して身につけた

「よく聞く」

「話す前に考える」

「タスクを整理する」

「書く前に考える」

といった、様々な「注意深くなる」クセは、新卒から20年以上たった今でも、本当に役に立っています。

 

そして、これは先天的な「知能」というよりは、後天的に身に着けることのできる「技術」の要素が大きいのです。

 

 

そんな話を詰め込んだのが、4月19日に発売になる ”頭のいい人が話す前に考えていること” という本です。

仕事だけではなく、プライベートにおいても「ちゃんと考える」技術とは、どういったものなのか、どうすれば「よく考えている」と見なされるのか。

どうすれば、人間関係の摩擦をへらしつつ、アウトプットの質を高められるのか。

 

あらためて、ゼロから、今までやってきたことを書き直しました。

 

編集者のかたと1年以上、ほぼ毎週ミーティングをしながら、すこしずつ書きためてきた本ですので、ぜひ手にとっていただければとても嬉しいです。

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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