「うおおおお!合格や!!」
そう叫んで喜び狂う誰かの横で、私は自分の受験番号が無い現実を受け入れられずにいた。
1997年の出来事で、場所は伊丹空港の空港事務所前だ。
当時、JALやANAなどのエアラインでパイロットになるほぼ唯一の方法だった、運輸省・航空大学校の合格発表である。
令和の今では信じがたいかもしれないが、昔は受験の合格発表といえば物理的に紙で張り出し、所定の日時・場所に合否を確認しに行くものだった。
それにしても、残酷な場所で合格発表をするものだ。
合格した者には最高のシチュエーションだろうが、不合格で肩を落とす受験生に、これほどキツい場所はない。
ならばその残酷な仕打ちを目一杯味わってやろうと展望デッキに上がり、離着陸する飛行機をうつろに眺めながら、私は一つのことを考えていた。
「オヤジに言うべきだろうか・・・」
その時、パイロットになりたいという子供の頃からの夢を物心ともに応援し続けてくれたオヤジは、がんの最末期にあった。
文字通り、私の合格の報告が人生の最後の楽しみのハズである。
しかも、一番狭き門である学科試験を突破していたのだから、吉報を確信し待っているに違いない。
(どうせモルヒネで意識も混濁してるんだし、言うべきじゃないよな・・・)
(いや、不合格であっても、これまでのお礼を伝えることが人として正しいことだ)
そんなことをグルグル考えながら電車に乗り病院に着くと、意識が混濁するオヤジの耳元で覚悟を決め、小さな声で報告した。
「お父さん、ダメだった。今まで応援してくれたのに本当にごめん」
「・・・」
「それから、いろいろと本当にありがとう。心から感謝している」
「・・・結果には理由がある。それがわかれば失敗だって成功だ」
混濁していたはずのオヤジが急に話しはじめ驚いたが、しかし何を言っているのかよく意味がわからない。
どういうことなのかと聞き直すが、オヤジはすぐにまた混濁の中に戻って行き、会話が成立しなくなってしまった。
結局、その意味を聞くことができないままにオヤジは程なくして、三途の川の向こう側に行ってしまった。
そしてその日からこの言葉の意味をずいぶんと考え続けたが、私は今、オヤジの言葉をこんなふうに解釈している。
「子供の頃からの夢なんてものは、叶うべきじゃない」と。
“イイコトしてる俺かっけえ”
話は変わるが、もう10年以上も前のことだ。
CFO(最高財務責任者)として一つの仕事に区切りをつけたタイミングで、交流会で知り合った経営者から自社にこないかと誘いを受けたことがある。
30代前半だという若い彼は当時、先進的な技術を売りにしてニュースなどでもたびたび取り上げられるなど、“乗っている”社長だった。
多くの投資家から数億円のまとまった投資を受けることができたので、上場を目指しCFOを探しているのだという。
おもしろそうなので一度会社に遊びに行くと約束し、訪問することにした。
「よく来てくださいました!ぜひ会社を隅々まで見ていってください!」
にこやかに私を出迎えてくれた彼は、資金調達で得た資本金を元に引っ越したという清潔で豪華なオフィスを隅々まで案内してくれた。
これまで、古くて薄暗いオフィスで仕事をしていたので、まずはどうしても引っ越しをしたかったのだと熱っぽく語る。
そしてオフィス内を一通り見て回ると社長室に場所を移し、今度は会社案内を広げ始めた。
この会社案内も、資金調達後にデザイナーや専門のライターに依頼し、高額の報酬で満足の行くものに新調した自慢の会社案内だという。
「…なるほど。ところで社長、社長はこの事業を通じてどんな価値観を実現しようとしているのですか?」
「一言でいえば、叔母の障害の手助けになる製品を作ることです。弊社の技術を突き詰めれば、叔母の障害の大きな助けになるんです」
「いえ社長、起業のきっかけではありません。事業を通して実現したい価値観です」
「ですので、叔母の障害の助けになることです」
(…本気で言ってるのか?バカのふりをしてるのか?)
私の戸惑いに気がついていないのか、彼はその後も会社案内の説明を続けるが、その中身は中々に酷いものであった。
「叔母の障害の助けになりたい」
というストーリーに基づき、“ボクがやりたいこと”ばかりが語られており、政治家の活動報告バリに自分の写真が満載である。
かろうじて最後の数ページに、その製品を実現できれば多くの人の助けになる、有意義なビジネスになるという趣旨のことが読み取れるページがあったが、もはや手遅れだ。
「製品を完成させビジネス化するのは副産物」
とダメ押ししているようなものであり、相当にイカれている。
経営者にとっての仕事とは、どのようにしてお客様のお役に立ち、そして商品やサービスを通じてどんな価値観を実現したいのかを語るものだ。
「叔母の障害をなんとかしたい」というのは「お金持ちになってベンツに乗りたいです」という個人的な欲望を語るに等しく、顧客には無関係である。
まして従業員にとっては、聞かされるだけ迷惑なブタの寝言だ。
そして世の中には、経営者に限らず、このように「手っ取り早い正義」をファッション感覚で語る連中が溢れている。
障害に苦しむ人のためのビジネスと言えば、よほどおかしなことをしない限り簡単に称賛を集められるからだ。
同様に、地球を救うためと言ってSDGsビジネスを語れば、
“イイコトしてる俺かっけえ”
と簡単に自分に酔えるので、中身のない人間ほどすぐに飛びつく。
しかし元々何かを成し遂げるような熱意も意志も能力もないので、最後には有名絵画にトマトスープをぶっかけるようなことをやり始める。
言うまでもないが、こういう連中の存在は、本当の意味で障碍者の問題解決やSDGsに取り組む人にとっても有害であり、迷惑でしかない。
結局彼の会社はその後、数億円もの資本金をかき集めたにもかかわらずわらず、一度たりとも資本金を上回る売上すら上げないまま、廃業に追い込まれた。
ファッションで社会問題の解決を語る経営者モドキの、当然すぎる結果である。
それくらいがちょうどいい
話は冒頭の、オヤジの言葉についてだ。
「結果には理由がある。それがわかれば失敗だって成功だ」
というメッセージをなぜ私は、
「子供の頃からの夢なんてものは、叶うべきじゃない」
と解釈したのか。
思うに私は、本当はパイロットになりたかったわけではないことに、早くからなんとなく気がついていた。
私がなりたかったのは、ただ単に「国際線パイロットの俺かっけー!」と思えるカッコイイ自分である。
旅客輸送を通じて実現したい“何か”もなければ、顧客に対しどんな付加価値を提供できるパイロットになりたいのかなど、たったの一度も考えたことなどない。
むしろお客さんは“カッコイイ俺”の引き立て役であり、“オレのために顧客が存在する職業”くらいに思っていただろう。
そんな勘違いした愚か者が下手に夢を叶えたらどうなるか。
きっと会社にも顧客にも迷惑をかける、自分本位でどうしようもないパイロットになっていたはずだ。
加えて、どんな仕事にも辛いこともあれば、忍耐が必要なことだってある。
そんな時に私はきっと、
「こんなはずじゃなかった、思っていたのと違う」
「この仕事、全然カッコよくない。おもしろくねえ」
と簡単に心が折れ、おそらくすぐに辞めていたのではないだろうか。
そして話は、ファッション感覚で障害やSDGsを語る“意識が高い経営者”についてだ。
地べたを這い回る覚悟もなく、仕事の本質も理解せず、「わかりやすい称賛」を求めこのジャンルで起業する経営者など、結局のところ小学生のリテラシーのまま大人になった迷惑な存在でしかない。
起業家の仕事の本質とは、想いをマネタイズする仕組みを生み出すこと、そして顧客を幸せにして世の中を変える力を持つことにある。
そんなこともわからないまま経営者を名乗り、あるいは政治的な主張で影響力を握ろうとするような連中を認め、称賛すると、歪んだ承認欲求が暴走してろくなことにならない。
だからこそ、「仕事」や「物ごと」の本質を理解しないままに夢見た職業への憧れなど、簡単に叶うべきではないと言うことだ。
私の夢が叶うことはなかったが、指一本が掛かったところで不合格になったことを含め、全てがそうあるべき出来事だった。
そして、「結果には理由がある。それがわかれば失敗だって成功だ」の言葉の通り、成功体験ですらあったと、今では考えている。
とはいえ正直言うと今も、飛行機に乗る時に操縦席に座るパイロットを見ると少しだけ、嫉妬で胸が痛い。
いつか自家用ライセンスを取り、パイロットの夢を叶える夢も、諦めていない。
自分のためだけに見るような夢は、それくらいがちょうどいい。
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(2026/01/19更新)
【プロフィール】
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
実はパイロットと言えば、上空で強烈な紫外線を浴びる影響もありハゲの人が多い職業の一つだそうです。
そのため私は若い頃、「良かった~パイロットにならなくて!」などと負け惜しみを言ってました。
しかし今、パイロットになれなかったのにハゲてます。
神様いくらなんでもヒドすぎねえか?
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Photo by : Kevin Bluer













