『佐久間宣行のずるい仕事術』(佐久間宣行著/ダイヤモンド社)という本を読み終えて、「佐久間さん、これ、全然『ずるくない』よ!」と思ったのです。

 

佐久間宣行さんは、1975年生まれのテレビプロデューサーで、テレビ東京で『ゴッドタン』『あちこちオードリー』などの人気番組を制作し、2021年3月にフリーに転身されました。

テレビ東京に勤めていた2019年から、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』という深夜ラジオのパーソナリティも担当されており、僕はこのラジオを偶然聴いたのがきっかけで、佐久間さんに興味を持つようになったのです。

 

「仕事術」の本って、世の中に、たくさん出ていますよね。

「ずるい」とタイトルにつけるくらいだから、「コスパのいい、裏技」みたいなものがたくさん載っているのだろうな、と想像していたのですが、「読みやすくて、正攻法のど真ん中のストレート」な内容だったのです。

 

佐久間さんは僕と年齢的に近いので、僕と同じように「体育会系が幅を利かせ、仕事人間であることが求められる時代」から、「残業を減らし、仕事以外の家族や自分の趣味の時間を大事にし、生活の質を高めることが重視される時代」への移り変わりを経験してこられたのだと思います。

 

この本、ある意味「身も蓋もない」のです。

例えば、「相談のゴールは『解決』にする」という項には、こう書かれています。

仕事の悩みがあると、あなたは誰に相談するだろうか。
先輩、上司、親、友だち……。
ちなみにそれで、問題はどれくらい解決してきただろうか。
悩みについての相談を、ただの愚痴やストレス発散で終わらせず、根本から解決したいと思っているなら、相談相手の選び方から変えてみよう。
「話を聞いてほしい人」ではなく「その問題を解決できそうな人」を選ぶのだ。
相談の目的は、問題解決。
そうであるなら悩みをぶつける相手が問題を解決してくれることがゴールになる。
つまり仕事の悩み相談とは、「動いてもらうためのきっかけづくり」。
だから、悩んだ時はまず、「どうすればいまの問題を解決できるか」を考える。
そして、「だれにアクションを起こせば問題が解決するか」を考えて、これが叶うキーマンに相談するのだ。
それは直属の上司かもしれないし、クライアントかもしれない。間違いないのは、親友に相談して気持ちが晴れても、状況は変わらないままということだ。
相談の仕方にもコツがある。
まずは相談内容より先に、「なぜあなたに相談するのか」を伝えたい。
「これは○○さんにしか解決法がわからないと思うので教えてください」
「あのプロジェクトを経験されたと聞いたのでご相談させてください」
なぜ自分がその人を選んだかが伝わると、悩みの方向性も明確になるし、相手もより親身になる。今の自分にとって、「あなた」に相談することに意味があるとわかってもらうのだ。
「なぜあなたなのか」が腑に落ちて、親権度合いが伝われば、心ある人ならあなたの話を聞くのみならず、すぐ具体的な解決に動いてくれる。

佐久間さんは「相談でやりがちなミスは、1〜2年次上の先輩に相談すること」とも仰っています。

「自分とそんなに経験も立場も変わらない人に、『愚痴』をダラダラ聞いてもらっても意味はない」と。

 

「言われてみれば当たり前」ではあるのですが、いざ、自分がその立場になると「問題解決のためのキーパーソン」よりも、「自分が話しやすい人」「仲が良い人」に「相談」してしまいがちですよね。それで、共感なり慰めなり助言なりをもらって、「あなたに相談して、スッキリした!」と思い込んでしまう。

でも、それで状況が変わることはない。

 

この『ずるい仕事術』を読んでいて、僕は何度も、ローマ帝国の五賢帝の一人、マルクス・アウレリウス・アントニヌスが書いたとされる『自省録』を思い出しました。

この『自省録』、賢帝の自らを戒める言葉が繰り返し綴られているのですが、僕なりにまとめてしまうと「人間としてより良く生きるには、自分が『やりたいこと』ではなくて、『やるべきこと』をやれ、やり続けろ」ということなのだと思います。

 

人生の悩みとか恋愛相談といった類に関しては、話すほうも「身も蓋もない正論」を望んでいない、あるいは「共感してほしいだけ」ということも多いので、「話したい人に話す」でも意味があるのかもしれませんが、仕事上、あるいは実務的な行き詰まりに関しては、「誰ならそれを解決できるのか」を最優先に考えるべきなのです。

 

ゴールから逆算して、最適な道筋を見つけるという習慣を、僕は身につけないまま年をとってしまった。

これまでの僕の人生を思うと、「話しやすい人」を優先して、ずっと回り道ばかりしてきたような気がします。

 

偉い人や責任ある人に、いきなり相談するのはけっこうハードルが高そうなのですが、実査にやってみるとそうでもない。

相手がどんな立場であろうと、「あなたにしかできないことなので、あなたに相談したい」とアピールすれば、ほとんどの人はサポートしてくれるみたいです。

人間って、「あなたにしかできないことなので、ぜひお願いしたい」と言われて、その求めに道理を感じることができれば、動いてくれる。

 

「リーダー」についてのこんな話には、僕も25年くらい様々な仕事をしてきて、納得せずにはいられませんでした。

書店に足を運ぶと、部下や後輩の育成法について書かれた本がたくさん並ぶ。
もちろん、それぞれに説得力があるし、役に立つものだろう。
ただ、たくさんの後輩やスタッフと仕事をしてきた経験から、「みんなのモチベーションを上げる方法」にかぎって言えば、次のひと言に要約できる。
リーダーがだれより本気で楽しそうに働くこと。
これに勝る育成法はない。
リーダーが明るく、フラットで、ムラがなければ、自然とチームの雰囲気は良くなる。一方、死んだ魚のような目をしている上司の下では、つられてテンションが落ちてしまうし、ピリピリしている上司の下では萎縮する。
僕のチームは一時期、メンタルの調子が悪い人や会社を辞めそうな人が送り込まれる「療養所」になっていた。
ひたすら楽しい現場を見せるだけで、くじけかけた人もまたがんばれるようになるからだろう。
リーダーの姿勢ひとつで、変えられることはたくさんあるのだ。
リーダーが仕事に対してだれよりも本気で向き合って入れ歯、おのずとチームの「レベル」も上がる。
たとえば会議のとき、リーダーが入念な準備をしていて、いくつものアイデアを披露すれば、メンバーも「会議はこれくらい考えてくる必要があるのか」とわかってくれる。

僕自身も、長年、いろんな人の下で働いてきました。

ものすごく頭が切れるとか、仕事ができる、気が利く、という人もいれば、人の悪口ばかり言っていたり、パワハラ的な言動をしたりする人もいました。

 

リーダーに最も必要なのは「人柄」というか「人徳」みたいなものではないか、というのが今の僕の結論なのです。

周りが「この人のために頑張って結果を出そう」と盛り上げていくようなリーダーがいる組織は、雰囲気がいいし、逆境にも強い。
まあ、そんな人は、そうそういるものではないんですけどね。

 

佐久間さんは、「明るく、フラットで、ムラがない」ことを優れたリーダーの条件として挙げています。

シンプルな言葉ではありますが、これを兼ね備えた人って、本当に稀有なのです。

 

優秀なんだけど気分の波が激しかったり、部下に不公平だったりするリーダーは、周りが「リーダーの機嫌をうかがうこと」にばかり注力してしまいます。

人間、地位が上がっていって、偉くなるほど、疑り深く、お気に入りを重用し、不機嫌を表に出しやすくなっていく傾向があります。

メジャーリーグから日本に戻ってきて、日本ハムを日本一に導いた時の選手時代の新庄剛志さんは、まさにこんな感じのリーダーだったのではなかろうか。

 

この本、人気プロデューサーが書いた、ありきたりの自己啓発本なんだろうな、と思いつつ読み始めたのですが、いまの時代に「いい仕事」をしていくための知見が詰まっていることに驚きました。

佐久間さんが20年前からやっていた「ずるい仕事術」は、2022年には「正攻法」になっているのです。

僕も20年前にこれを読めたら良かったなあ、これを若い頃に読める人は、ちょっと「ずるい」よ。

 

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

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