11月の半ばに、ある日本のスタートアップ企業から「今アフリカで直面している事件を記事にしてもらえないか」と要望を頂いた。

彼らは今、「タンザニアで犯罪者と争っている」のだという。

 

タンザニアで中古車販売をする株式会社FMG

株式会社FMGは、タンザニアで中古車販売を展開する会社だ。

タンザニアはアフリカ東部の国で、人口は6000万人強。

アフリカでは、丈夫でよく走る日本の中古車が大いに人気を博している。

特にタンザニアは日本と同じ右ハンドルの国なので、改造をせずに販売ができる。

 

ただ、タンザニアは後発開発途上国に分類され、2020年の一人当たりの国民総所得(GNI/C)は15万円程度*1。

かなり貧しい国だ。

貧しい国でクルマを買えるのは一部の富裕層。

銀行口座すら持たない一般庶民は、車を持てなかった。

 

しかしそれでは潜在的に市場に存在する、大きな需要に応えることができない。

そこでFMGは、中間業者を省き、車両購入のための融資をセットにして、普通の人が車を持てる仕組みを提供した。

その際、最初の販売先はUberのドライバーとした。

Uberのドライバーは決して数は多くないが、クルマを「自家用」ではなく、「事業用」として購入する。

結果的にFMGは「事業サポーター」として彼らの手助けをすることになり、win-winとなる。

これがタンザニア人の潜在的な需要を喚起し、事業は軌道に乗った。

 

日本で10年走った車は、日本では値が付かない。

しかし、新興国では、生活の糧を稼ぎ出すツールになる。

多くのタンザニア人が、日本の中古車を通じて、自立を勝ち取った。

 

現地の販売パートナー企業「マルモ開発」社

当初、このような事業の展開には「クッション役」が必要だと考えた。

現地のパートナー企業に現地の人の相手をしてもらうことがもっとも綺麗なかたちだと考えたからだ。

 

現地に子会社を作るよりも、クッション役としてパートナーに入ってもらえるのであれば、その時間とコストもセーブできる。

 

そのため、彼らは、販売のために現地のエージェント企業「マルモ開発(Malmo Development Company Limited)」社と共同で事業をすすめることとした。

代表はGodwin Lazaro Shange、通称ゴッドウィン。

 

2018年に初めての輸出車が現地に届いて以来、マルモ開発との関係は非常に良いもので、エージェントがFMGの意を汲み、積極的に中古車の販売をやってくれた。

FMG社のCOOである金谷さんは、彼を「10年以上前から付き合いがあり、最も信頼する人の一人」だと思っていたという。

 

マルモ開発社自身も、「日本の企業との合弁事業を担っている会社」として、現地で大いに有名になった。

 

2020年頃からゴッドウィンの動きが怪しくなった。

ところがコロナ禍が始まった2020年ごろから、ゴッドウィンの動きが怪しくなった。

売上の数値報告や、顧客に関してのレポーティングが滞るようになった。

 

さらには、タンザニアの当局から税金が未納である旨の指摘をうけ、調査をすると、ゴッドウィンら、マルモ開発社の幹部が金を勝手に引き出せるようになっていた。

預託をしていた金額は6000万円。

FMG社がこれを追求しても、お金の話をしようとしない。

怪しんだFMG社は、彼らとの関係を継続しつつも、彼らに依存する現地の体制を見直す協議をもとめたが、彼らは話し合いを拒んだ。

 

さらに、ゴッドウィンは、更に怪しい動きをする。

というのも、Yohana Barikiel Mmbaga、通称バーガーを、マルモ開発の役員に迎えたのだ。

 

バーガーは「在ウクライナの外交官の息子」と自称する、もともと顧客の一人だった。

が、車両の代金を踏み倒そうと問題を起こすので、要注意の扱いを受けていた。

 

バーガーが役員になると、FMGに対する嫌がらせが始まった。

例えば、無意味なリーガルの問い合わせなどを出して業務を妨害したり、現地のFMGの事務所にやってきて、他の顧客や、現地で雇用されているタンザニア人に「日本人は信用ならない」などと吹聴するようになった。

 

汚職警官の襲撃

そして2021年の2月。

警官を名乗る男が、突然数名の仲間とともに、FMGの事務所を襲撃した。

当時の様子は監視カメラが収録しているが、紫の服を着た男が、斧で門のカギを壊して侵入しようとしている。

事務所のドアも壊されそうになったため、ドアを開けると部屋の中へ彼らは押し入ってきた。

当時、事務所にいたFMGの金谷さんは、捜査令状の提示を要求したが、男はそれを無視し、「ひざまづけ!」と金谷さんに怒鳴り、拳銃を出して弾を装填し、銃を突きつけた。

この後、日本人スタッフ3名と現地スタッフ3名は、警察署に連行され、パスポートをとりあげられ尋問を受けた。

「車のカギ」と「オフィスのカギ」を渡せ、そして、タンザニアから出て行けという。

 

この時、不幸中の幸いだったのが、事務所にはFMGのスタッフだけではなく、タンザニア人のお客さんや取引業者が多数いたこと。

彼らが、今起きていることなどを、インスタグラムなどのSNSで拡散してくれた。

また、彼らは「現地で雇用を作ろうとしてくれている」とFMGの肩を持ってくれた。

 

夜になり、警察の上層部から命令が出て、FMGスタッフは釈放された。

関係者の話によると、もし事務所にお客さんや取引業者がいなかったら、全員射殺されていた可能性があるという。

 

調査会社へ事件調査を依頼

新興国では、往々にして警察の捜査があてにならない。

また関係者が買収されている可能性もあるため、犯罪の調査会社を利用して、調査を進めた。

報告では、マルモ社幹部のゴドウィンらが、FMG社の金を横領し、私的に流用していたことが発覚した。

 

ゴドウィンは自動車ビジネスが軌道に乗り出したことを機に、金の採掘事業に手を染めて失敗し、横領におよんだという。

FMGがカネの流れを怪しみ、現地子会社を立ち上げる話をしたところ、バーガーが「ほら、日本人にビジネス取られちゃうよ、取られないようにしないと」と囁き、警官を買収して襲撃させたとのことだ。

 

現在、マルモ社は民事、刑事両方で訴えられ、余罪があることもわかった。

2012年12月現在、4件の刑事事件で立件されている。

 

判事や弁護士の買収。狙撃の危険も

しかし、「一件落着」とはならなかった。

現在でもなお、危険な状態は続いている。

 

例えば公判が始まると、突然判事が理由不明の交代をした。

さらに、FMGが雇った弁護士が、あからさまに不備のある書類を提出したため、裁判所から「訴えを取り下げなさい」と指示を受けた。

その弁護士にはすぐに連絡が取れなくなった。

 

「政府関係者」と名乗る人物から連絡があり、「会いたい」と言われたが、警察に相談すると「こちらも警官を同行させ、狙撃を受けにくい場所で会ってください」と言われた。

しかもその人物は、バーガーの知り合いだったという。

気を抜けば、すぐに身に危険が及ぶ。

 

タンザニアのような新興国においては、今なお「資本と契約の論理」が通用しない部分が大きい。

もちろん、どっちに理があるかは明白だが、「あいつら追い出したら、車を5台あげるよ」と言われると、そちらに傾いてしまう人も少なくないのだ。

 

もちろんその国の警察当局者や官僚の中には、「こうではいけない」と言う人もいる。

けれど、すぐには変わらない。

 

4兆円の投資もいいけど、こういう状況を外交努力で解決してほしい

岸田首相は、今年のTICAD(アフリカ開発会議)で、日本が今後の3年間で約4兆円の投資をすると表明した。

 

しかし、その4兆円は、本当に投資する価値があるのか。

実際、現地でビジネスをする企業の状況は、上のようなものだ。

 

FMGの代表の林さんには「さっさとビジネスを辞めて、他のことをしたほうがいい」と言うアドバイスもあった。

しかし今回、FMGのスタッフが助かったのは、タンザニア人の顧客たち、関係者たちがFMGの味方をしてくれたおかげであり、ここで手を引けば、彼らの生活にも大きな影響がある。

 

林さんは「これまでは、内々で解決しようと思っていたが、いち企業の力には限界がある。4兆円の投資もいいけど、こういう状況を、外交できちんと解決してほしい。」と言った。

 

現地では、バーガーと、その関係者による嫌がらせが続いているが、こういった事態を、きちんと解決するインセンティブを持たないと「金持ちの日本人が現地にやってきて、タンザニア人をいじめている、という誤った情報が流布することにになりかねない。

 

「投資からのリターンを最大化すべく現地で遭遇する理不尽に逃げない」

「断固たる態度で官民一体となって対峙していく」

 

本気度は、そのような姿勢に現れる。

カネさえ出せばいい、と言う話ではない。

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯Twitter:安達裕哉

◯Facebook:安達裕哉

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書

 

*1 JICA タンザニア