とても面白い記事を読んだ。
元妻や内縁妻たちは次々と去っていき…認知症になった「神の手」天才ドクターがたどった、「悲惨すぎる末路」
内容を簡単に述べると、メチャクチャ手術が上手でそのお陰で社会的な名声も得ていたイケイケDr.が、歳を重ねて能力が低下し、認知症にもなって周りから誰もいなくなっていったというお話である。
個人的には存じ上げない先生なので、この記事に書かれている事が本当なのかどうかは知らないし、まあ勝ち組が負け組に転落する事に痛快な気分を感じさせるためのインターネット上のフィクションの可能性もあるかなぁとは思うものの、それでもなんていうか妙にリアルである。
自分自身の身の回りにも、イケイケな自分だけが良ければそれで全部ヨシな態度を取っている人間はそこそこいる。
皆さんにも思い当たる人間が一人や二人はいるはずだ。
僕は昔からこういうタイプの人間が好きになれなかった。それこそ何度も「なんでこいつはバチが当たらないんだろう?」と何度も思ったものである。
しかし最近になって、この手の人間はある意味では物凄いリスクを取った人生設計をしているのだなという事がよく理解できてきた。
今日はその事を書こうかと思う。
老人ホームでは好かれる人と嫌われる人がクッキリと分かれる
先の神の手Dr.は最終的には高齢福祉施設行きになったようだ。
あまり知られていないとは思うのだけど、高齢福祉施設では非常に興味深い光景がみられる。
何が興味深いのかというと、入所している高齢者の性格がメチャクチャにクッキリと映し出されるのである。
もっというと、ある人は施設の職員から物凄く好かれる一方で、ある人はハチャメチャに嫌われる。
もちろん、多くの施設では暴力やら差別のようなものは基本的には行われない。仕事は仕事として淡々と行われ、そこにクオリティの差は無い。
なので、性格の良し悪しで対応が大きく変化するわけではないのだが、それでも入所している人の精神的な満足度は全然違うだろう。
誰かから好かれていると感じられると、人は自尊心や自己肯定感を持てる。逆にいえば、嫌われているなと感じられたら、もう心の中は大荒れだ。
認知機能が十全なら、仕事やらお金やらといったドーピングアイテムで自尊心や自己肯定感なんていくらでも高められるかもしれない。
けど…残念ながら高齢福祉施設でそれを使う事は難しい。むしろ余計なプライドが生じてしまって、逆方向に作用する可能性も高いだろう。
結局…人間最後に持っていけるのは性格だけなのだ。性格だけが、最後の最後にあなたという人間の価値を規定するのである。
大往生できればいいのだけど…
そういう風に考えると、冒頭で例に出したようなイケイケな自分だけが良ければ全てヨシな人間の未来は暗い。
もちろん…彼・彼女らがそのまま最後までイケイケで終わる確率もそれなりにはある。
認知機能がバリバリに残った状態で、突然の事故に巻き込まれたり、あるいは心筋梗塞のような病気で急変し、大往生するパターンもそれなりにはあるだろう。
しかし逆に言えばである。イケイケ・ドンドンで人生をやって安寧な状態で死を迎える方法はそれぐらいしかない。
一部の海外地区みたいに自決が許されるのなら、ある段階で苦痛なく勝ち逃げを決める手段も無くはないが、多くの人はたとえ苦痛など無くても自決など怖くて選べないだろう。
つまりである。性格が悪いまま人生を突っ走っている人間は、物凄く描け金の高い賭けをやっているのである。
突然死して勝ち逃げをキメない限り、人間は絶対に自分自身からは逃れる事はできない。
低姿勢で腰を低くして生きられないのを中高年になってもやり続けていたら…行き着く先は高確率で「嫌われ疎まれる、どうしようもない存在」なのだ。
やり返さないで耐え忍ぶ事は凄く大切
「なんであの時、アイツにこう言い返せなかったんだろう」
「いま考えれば、こういう風に言えば相手を言いくるめられたのかもしれないのになぁ」
「現実は漫画や小説みたいにうまくいかないな…悔しい、悔しいよぅ」
こんな感じの事を思った事が無い人はいないだろう。僕も昔はこんなことばっかり考えていた。
しかし最近になって、それぐらいが人生ちょうどいいのではないかと思うようにすらなってきた。
かつてナインティナインの岡村隆史さんがテレビで「悔いを残せ」と言っていた事がある。
それを聞いた時、僕は「えっ、悔いを残すな、じゃないの?」と驚いたものだったけど、改めて考えるにこれはかなり正鵠を射た表現だと思う。
テレビでは岡村隆史さんは「悔しいという思いがあるから頑張れる」というような意味でその言葉の真意を語っていた。
僕はこれはこれで正しいと思うのだが、最近はもう一つの効用も感じられるようになってきた。
それは「やり返さない勇気」だ。
被害者が加害者になると、物事はドブ沼化する
酷いことをされたからといって、その人に暴力的な行為をとったり、あるいは訴訟などを通じて相手にダメージを与えようと画策するタイプの人間がこの世にはいる。
僕は何度かそういう行為をやった人間を目にした事がある。中にはトントン拍子でいい感じにうまくいった事例もあるのだが、観測範囲ではこういう強い報復行為にでた人間の予後は非常に悪い。
僕が思うにだが、この手の強い報復行為を取る人間は
「自分自身は被害者である」
「だから被害者である自分が、加害者を叩く権利がある」
と思っているように思う。
これ自体は特に間違ってはいないのだろうが、その心情を実際に行為に移すと物凄い事が起きる。
それは「自分自身も加害者になる」という事だ。
当たり前だけど、叩かれた時点で報復された側も内心的には被害者となる。
こうなると被害と加害の関係はメチャクチャに複雑になり、もう傍からみてるとドブ沼みたいな事態になる。
リアルでは悪役は舞台から退場してくれない
小説や漫画ならだ。悪役は一撃を食らわされたら舞台から静かに退場してくれる。
「ああスッキリした。やっぱ最後には正義は勝つんだな!」
そう思う人も多いかもしれないが、現実はそんなに簡単ではない。
歴史をみればわかる通り、復讐は必ずといっていいほどに次の復讐を産む。
現代では血を血で洗うような激しい抗争とまでいかないだろうが、逆に言えば血が流れないという事は争いがどちらかが諦めないまで永遠に続くという事でもある。
一度振り上げた拳は簡単には降ろせない。
こうして貴重な人生をドロドロの争いごとで消耗するだけにとどまらず、争いごとを通じて猜疑心をより深めたりする等で性格がドブのように真っ黒になってしまったら…まあなんていうかお察しである。
リアルでは悪役は簡単には退場してくれない。
だから法的に完全にアウトだったりでサクッとケリがつくのなら話は別だが、名誉的な意味で酷い目にあったとしても報復はあまり選択肢にあげない方が無難である。
そんな事をする暇があるのなら、サクッと「運が悪かった。嫌な思いしたな」と気持ちに損切りでもして、そこで学んだ痛みを大切な人に共感できる為の手口に使用する方がよっぽど建設的である。
葬式に何人の人がやってきてくれるかを考えれば、自分の本当の価値がわかる
かつて代々木ゼミナールで授業を受けていた時の話だ。
数学の人気講師である荻野暢也さんが授業を始める前にこう話した。
「今な、代ゼミを歩いていたら掃除のオジサンのチリトリの前にプッと噛んでいたゴムを吐き出した奴がいたんだ」
「俺はそいつを即座に説教したんだよ。そういう事したら、掃除のオジサンは嫌な気持ちになるだろうって」
「けどそいつさ、怒られてポカンとしていたんだよな」
「お前らはそういう事をする人間になるなよ。受験がどんなに辛いからといって、他人に優しくなれない人間には何の価値も無いからな」
僕はこの当時、浪人を絶賛真っ最中だった事もあって荻野先生が言っている事がそこまでよくわからなかった。
むしろ
「集めやすいようにチリトリの前にガムを吐き出すのは、ひょっとしたら相手が掃除をしやすいように思い量ったのかもしれないんじゃ…」
と思ったほどである。
しかし今になると、荻野先生の言いたいことが本当によくわかる。アレは本当にマズいし、あれを変だと思えなかったあの当時の自分はちょっと壊れていた。
人間にはプライドがある。誰だって尊敬してほしいし、誰だって馬鹿にされたくはない。
例えば世の中には仕事ができないというだけで相手の事をバカにするタイプの人達がいる。
彼・彼女らは自分自身は仕事ができるという安全な立場にいるから、相手の能力を平気で馬鹿にできているが、逆の立場だったらその立場を受け入れられるのだろうか?
仕事が自分の思った通りに円滑に進まない事でイライラしているというお気持ちは重々承知するが…それでもやっぱり他人のプライドを傷つけるような事はしては駄目だ。それは最悪な性格をしていると言っても過言ではない。
人間、最後に残るのは性格だけだ。だからその性格だけは、なんとしても壊さないように死守しなくてはいけない。
一時的な気の迷いや気持ちよさでもって捨てたくなってしまうのもわからなくはないが、それでもその一線だけは絶対に超えてはならないポイント・オブ・ノーリターンなのである。
最後に荻野先生が授業中によく言っていた名言を書き残しておこう
「あなたの葬式に出席している人を想像してごらんなさい。彼らはあなたの人生を振り返り何と言ってますか?そして、何と言って欲しかったですか?」
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【著者プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
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noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます
Photo by Andrew Seaman