ちょっと個人的に新鮮な体験が出来たので、それについての経緯と所感を書いてみたいと思います。

 

以前にも書いたことがありますが、「自分が何を知らないのか」を知るのはとても難しいことです。

なにしろそこには、知識を求める為の「とっかかり」というものがない。知識量ゼロの状態だと、「自分には何が分からないのか」が分かりません。

 

必然、人に聞こうにもwebで検索しようにも、そもそも「分からないことを解決しよう」という動機自体が発生しません。

「こういうものなんだろう」という自分の知識の範囲内に、人は簡単に安住してしまうのです。

 

我々は、基本的には、「知っている」ことをスタート地点にして、そこから少しずつ手探りをするような形でしか知識を広げていくことが出来ません。

「知らない」を自発的に、一足飛びに解決する為には、壁を二、三枚超えなくてはいけないのです。

だからこそ、「知らない」をどんどん勝手に埋めてくれる学校教育の場が大変貴重なのです。

 

と、あまり抽象的な話をしても仕方がないので、何が起きたのか簡単にご説明しますと、私はコーヒードリッパーというものを知りませんでした。

正確に言うと、恐らく目にしたことはある筈なんですが、自分に関係があるものとして認識していませんでした。

 

以前から、私はこういうコーヒーの淹れ方をしていました。

要は、「フィルターをセットした漉し器を直接手で持って、そこにお湯を注いでいた」のです。

 

これ、周囲の皆さんの反応から推測するに、どうもそこそこ非常識なことをやっていたようです。もしかすると皆さんも、「は??お前は何を言っているんだ??」と思われるでしょうか。

自分では全く自覚がありませんで、「なんか手が疲れるしたまにお湯が跳ねて熱いけど、まあコーヒーはちゃんと淹れられてるからいいや」と思っていました。

 

そもそも何故こういう状況が生まれたのか、経緯をご説明しますと、

・以前からコーヒー自体は好きで、缶コーヒーやインスタントコーヒーはちょくちょく飲んでいた(お気に入りの缶コーヒーはBOSSの贅沢微糖)

・誕生日プレゼントにコーヒー豆を挽いた粉をもらった

・「これはインスタントコーヒーとは違うものなので、直接コップに淹れてお湯を注いではいけない、フィルターで漉さないといけない筈」という知識だけはあった

・家にコーヒーフィルターというものがあった(後から聞いてみると、どうも妻がお菓子作りの為に用意していたものだったらしい)

・こういう謎の道具もあった

・フィルターをつけてコーヒー粉を入れて、お湯を入れたらコーヒーっぽいのが出来た

・まあこれでいいや美味しいしと納得していた

こんな感じです。

 

文章の便宜上、一旦ここでは上記の淹れ方を「原始的ドリップ」と名づけましょう。原始的なので。

 

そもそも私、折角コーヒー粉をもらったものの、そこまで頻繁にはコーヒーを淹れていなかったんですよね。

土日に誰もいなくて暇なとき、ふと気が向いて「ちょっとかっこつけたいな」と思ったタイミングで、ちょこちょこっと原始的ドリップをしてコーヒーらしき飲料を口にしていただけなのです。

 

ところが、ここ三か月、原始的ドリップをする機会が激増しました。

それは何故かといいますと、転職をしてフルリモートの勤務形態になったからなのですが、仕事をしている間はついついコーヒーを飲みたくなりまして、残っていたインスタントコーヒーをあっという間に飲みつくしてしまいました。

 

で、「あ、コーヒー粉あるじゃん、こっち飲み切っちゃおう」と思って、日常的に原始的ドリップでコーヒーを淹れるようになりました。平日日中なので、当然家族の目に触れる機会もありません。

 

で、皆さんご存じないと思うんですが、原始的ドリップには「熱い」という問題があるんですよ。お湯って90度とかなので。跳ねるので。

 

時々違和感を感じることはあって、「これはもしかすると、もっと簡単に解決する方法があるんじゃないだろうか?」という疑問が頭をよぎりもしたのですが、「まあいいや出来てるし」という壁は厚く、なかなか「解決しよう」という発想の飛躍に至りませんでした。

 

これ、「問題がありつつもなんとなく出来てしまっていた」というのが恐らく最大の問題で、中途半端に「フィルターを使えば淹れられる」という知識があったことによって解決が妨げられていたんですよ。

その知識がなければ、さすがにもっと早い段階で解決に動いていたと思います。

 

で、先日、ちょっと派手目にお湯が跳ねまして、「いや、これ絶対何か、技術的な解決目途がある筈だよな。私は何か間違ったことをしているんじゃないか?」とようやくはっきり気付きました。

かといってどう調べたものかも分からず、取り敢えずTwitterで聞くかと思って上記のような曖昧な尋ね方をしたところ、色んな人から「お前は何をやっているんだ」という総ツッコミを頂いた、という話なのです。

 

で、その時「コーヒードリッパー」というものの存在を教えていただきまして、即ヨドバシでポチりました。

で、これを書いているまさに今商品が届きまして、私は今初めて、原始的ドリップで淹れたわけではない自作コーヒーを飲んでいます。なにこれ超楽。手が疲れないし熱くない。そして超うまい。人間の技術って本当に素晴らしい。

こうして私は、快適なコーヒーライフを送れるようになったというわけです。とても素晴らしいと思います。

 

ちなみに、上の方で出てきた謎の漉し器ですが、後から妻に聞いてみると「コップで紅茶を淹れる用のヤツ」だそうで、ちゃんとピッタリサイズのコップが家にありました。

私の原始的ドリップの話をしたら「そんなことしてたの!?」とびっくりされました。もっと早く聞くべきだった。

 

***

 

上記の経験はさすがに極端な事例なのかも知れず、「そんなのお前だけやん」と思われるかも知れないですが、冒頭述べた通り「知らない」事を知るのは誰にとっても大変困難なことです。

 

そして、自分の経験からも分かるのですが、「「知らない」と認識して、それを解決する」には、超えなくてはいけない壁が何枚かあります。

 

まず、「知らない」ことによって発生する事象に、なにかしら違和感を覚えなくてはいけません。

これは、発話するなりコーヒー淹れるなり、何らかの行動をしないと可視化されないことでもあります。今回の場合、「お湯が跳ねて熱い」ということが違和感の原因でした。

 

次に、「まあいいか出来てるしそんなに困ってないし」という心理的な壁を乗り越えて、「解決しよう」という意志を持たなくてはいけません。

 

人間、現状維持程楽なものはないので、これはこれで結構心理的な壁になるんですよ。「特に困ってない」という意識ほど改善の妨げになるものはないんです。

技術や一般的な知見に対する信頼というものも重要で、「いや、これ同じようなことで困ってる人がいない筈がないし、絶対に解決する手段がある筈だ」という発想に思い至るかどうか、というのも一つの壁になります。

 

そして、「知る」為に行動しなくてはいけません。

これは、基本的には「知らない」状態を言語化して、その言語を使って調べるか、あるいは周囲に投げかけるか、ということになります。

 

これまた面倒な話で、「分からない」ことを言語化するのはそれだけで難儀なことですし、「人に言うの恥ずかしい」ということだって普通の話でしょう。

 

「調べ方を間違えて、更におかしな知識を身に着けてしまう」という可能性だってあるかも知れません。今回は「コーヒーの淹れ方」という、人生においてそこまでクリティカルでもない問題だったのでまだ良かったですが、例えばそういうちょっとした違和感から陰謀論に突っ込んでしまう、ということだってあり得ないことではなさそうです。

「信頼できる情報はなんなのか」ということを判断する壁、という話でもあります。

 

そういう何枚かの壁を破って、今回「コーヒードリッパー」という正解にたどり着いたことについては、自画自賛ながらなかなか偉かったなあと自分を褒めてあげたい気分だ、という話なのです。自画自賛には抵抗がない方なので。

 

どうも私は若干知識が偏っているのか、あるいは情報摂取のアンテナに不具合でもあるのか、「何でそれを知らないの!?」とびっくりされることは以前からしばしばあります。

私は味覚糖を知りませんでしたし、ハンドミキサーの使い方を知りませんでしたし、包丁は押すんじゃなくて引いて切るものだということも知りませんでしたし、パクチーとコリアンダーが同じものだということも知りませんでした。

 

恐らく他にも、「私は知らないけれど世間的には常識」という知識はたくさん世の中に存在するのでしょう。

そして、それを知る方法は、「とにかく出力して、世間とのずれを可視化する」以外にはありません。

 

今回もそうでしたが、「自分が知らなかったこと」を知って、人生の可能性が広がるのは、本当にスリリングなことですし、生きる楽しみの一つでもあります。

 

これからも、それが何であれどんどん出力して、自分の無知と世間のずれを可視化していこうと。

そんな風に考える次第です。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo by:Tyler Nix