2001年の春。

就職氷河期にかろうじて会社に滑り込んだ私は、勝どきのオフィスで、同期たちと新人研修を受けていた。

 

研修の内容はシンプルで、ディスカッション、プレゼンテーション、チームワークといったスキル的なもの。

あるいは、メールの出し方や勤怠管理システム、人事評価システムの使い方などのルーティンワークまで、多岐にわたっていた。

 

その新人研修で、一つ残っている思い出がある。

 

私は何気なく、研修の講師に「新人のときに頑張っておいたほうが良いことってありますか?」と聞いた。

ごく普通の質問だ。

 

研修の講師はちょっと考えて、こう言った。

「最初の仕事をとにかくがんばりなさい」

 

その時は「なんの変哲もない、普通の答えだな」と思った。

新人だろうが給料をもらっている以上、ベストを尽くせ、そういう意味だと思ったのだ。

 

だが、働くうちに、徐々にわかってきた。

「とにかく最初の仕事を頑張る」のは、私が想像した以上に大事なことだった。

なにせ、一生を左右するかもしれないのだ。

 

持っている人はさらに与えられて豊かになる

話は少し変わるが、「持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる」という一節が、聖書の中にある。

これは、マタイによる福音書25:29、イエスが語ったと言われる「タラントンのたとえ」の逸話のなかのフレーズだ。

 

主人は旅行に行くときに、自分の財産を分け、

しもべの一人に5タラントン預け、

しもべの一人に2タラントン預け、

しもべの一人に1タラントン預けた。

 

5タラントン与えられたしもべは、それを商売で10タラントンに増やし、主人に返した。

2タラントン与えられたしもべも、それを4タラントンに増やし、主人に返した。

 

しかし、最後のしもべは、それを失うまいと、1タラントンを土の中に埋めてしまい、そのまま主人に返した。

 

それを見て、主人は最後の一人を「怠け者」と罵倒した。

さらに、持っていた1タラントンを取り上げ、10タラントン持っている人物に渡せ、と命じた。

(出典:日本聖書協会 新約聖書)

結構ひどい話にも聞こえるが、この話のポイントはどこにあるのだろうか。

 

この話は「マタイ効果」の出典元としてよく知られている。

しかしよく読むと、マタイ効果で言われているような

「貧乏人はますます貧乏に、金持ちはますます金持ちになる。だから不公平だよね」

という話ではない。

 

実際、怠けた僕(しもべ)は「役に立たないヤツ」と、最悪の評価をされて、追放されている。

この話をそのまま解釈すれば、

・最初に持っているものが多かろうが、少なかろうが、やるべきことをやらねばならない

・失敗を恐れて何もしない人間は、持っているものまで、すべて取り上げられる

と言えるだろう。

 

実際には、「怠けるな」という話なのだ。

 

新人は「1タラントン与えられたしもべ」。

話をもとに戻す。

研修の講師が「とにかく最初の仕事をがんばれ」といったのは、まさに当時、新人だった私は「1タラントン与えられたしもべ」だったからだ。

 

新人は、会社の中では使えるリソースも、権限も、一番下である。

できることは殆どない。

しかし、失敗を恐れて何もしなければ「怠け者」と罵倒されて放逐される。

 

いま手元にあるもので、とにかくなんとか頑張って、成果を上げることを目指さなければならない。

だから、「とにかく最初の仕事をがんばれ」とあの講師は言ったのだ。

 

そして、新人のときにわずかでも同期の中で目立つ成果を上げることができれば、それは次のチャンスに繋がる。

チャンスが多ければ、ますます業績を上げるチャンスは増え、社内で目立つようになる。

そうして、「新人」の時に頑張って成果を上げた人物が、長期的にも出世するようになる。

 

つまり「最初に頑張っておくと、後々、ものすごく得をする」が「最初に怠けると、すべて取り上げられてしまう」のだ。

 

それが「とにかく最初の仕事をがんばりなさい」の正体だ。

 

世の中は「初期にあったほんの少しの差が、時間とともに増幅される」仕組みになっている

これは、仕事だけではなく、プロスポーツにも見られる現象だ。

スタートダッシュを決めれば決めるほど、後々有利になる。

 

例えば、プロアイスホッケープレーヤーには、「1月から3月生まれ」の選手が多いという統計がある。

カナダの心理学者、ロジャー・バーンズリーによれば、全選手の40%が1月から3月生まれで、1月生まれの選手は、11月生まれの選手の5.5倍も多い。

 

なぜこんなことが起きるのか。

その理由はシンプルで、カナダでは同じ年齢の少年を集めてクラスをつくる場合、年齢を区切る期日を「一月一日」に設定しているからだ。

 

カナダでは、9歳か10歳あたりで、選手の「選抜」が始まる。

が、その時点で1月生まれの選手は、12月生まれの選手に比べて、ほぼ1年の体の発達のアドバンテージがある。

 

選抜されれば、よりよい指導が受けられ、より強いチームメイトに恵まれ、二倍、いや三倍も実戦経験を積む。

最初のうちは「生まれが少々早かった」だけだった優位な点は、熱心な指導と、人よりも多い練習量のおかげで本当に優れた選手となる。

 

つまり、スポーツの世界でも、「初期にあったほんの少しの差が、増幅される」仕組みになっている。

 

お金もそうだ。

投資は、「複利効果」によって、時間がたてばたつほど、ほんの小さな差が、巨大な差となる

 

例えば、ウォーレン・バフェットは、世界で最も優れた投資家の一人だと言われているが、バフェットの純資産の95%以上は、65歳以上に得られたものだ。

もし、バフェットが人並みの人生を歩んでいて、たとえば10代や20代は見聞を広めるために世界を放浪し、30歳の時点で純資産2万5000ドルから投資を開始したとする。

そして現在の彼と同じように驚異的な年間収益率(年間22%)で投資を続け、60歳で引退して、後はゴルフを楽しんだり孫と遊んだりする日々を過ごしているとしよう。

その場合、バフェットの現在の純資産はいくらになるのだろうか?845億ドルではない。1190万ドルである。現在より99・9%も少ない純資産しか持っていないことになる。

バフェットの真に優れたところは、「10歳からスタートダッシュで投資をし、90歳以上になるまで継続している」と言う点にある。

80年も投資を続けている人間は、バフェットくらいだろう。

まさに「雪だるま式」とはこのことだ。

 

「知識」も同じだ。

知識は相互に接続しているため、知識があればあるほど、新しい知識を身に着けやすくなる。

知識は知識に引き寄せられる。すでに述べたように、新しい情報は自らを結びつけるネットワークを探り当てることができないと、三〇秒もしないうちに作業記憶から抜け落ちてしまう。

たとえば、トマス・ジェファソンが死去した日が七月四日だと初めて聞いたとき、ジェファソンが誰で、アメリカ建国においてどんな役割を果たし、その特別な日がどれほど重要かについて背景知識があれば、その日付を記憶に留める可能性はずっと高くなる。

背景知識の幅が広いほど、新しい情報は脳に定着しやすい。情報をすくい取る網は大きいほど有利だ。

本をたくさん読む人は、本を読まない人に比べて、同じ努力で、本からたくさんの知識を得ることができる。

だから、知識のある人は強い。

同じ情報から、他の人と桁違いの情報を取ることができるようになるからだ。

(参考:「地頭の良い人」と、そうでない人の本質的な違いはどこにあるか。

 

Twitterのフォロワー数、Youtubeのチャンネル登録者数なども全く同様で、ある閾値を超えた瞬間、同じ努力をしても、圧倒的に得られる成果が大きくなってくる。

私の個人的な感覚では

・フォロワー数10名のアカウントを100名にする努力

・フォロワー数100名のアカウントを1000名にする努力

・フォロワー数1000名のアカウントを10000名にする努力

これらはすべて、大して変わらない。

 

「最初」に動かねばならないのは自分

世の中の成功のほとんどは、「スタートダッシュの恩恵」が重要となる。

「成功の複利」によって、ほんのわずかな初期の努力が、時間とともに圧倒的な出力の差になるのだ。

 

それは「不公平」だろうか。

もちろん不公平だ。

 

が、不公平と嘆いても仕方ない。

世の中はそのようにできているので、やれる範囲でやれることをやるしかない。

 

結局、それを割り切って、「最初」に動かねばならないのは自分だと認識した人間だけが、成功をつかむ。

「とにかく最初の仕事をがんばりなさい」というのは、そういうことを含んでいる。

 

 

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(2024/2/8更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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Photo:Hannah Busing