プライベートに干渉してくる上司はうざい。

仕事は仕事、プライベートはプライベート。

いちいち口を出してくるのはハラスメント。

 

社員同士が家族ぐるみの付き合いをし、社内結婚が一般的だった時代と比べ、令和の時代はドライな付き合い方を好む人が多いとされている。

若い社員たちに合わせ、個人的な話を控えている管理職の人もいるだろう。

 

でも改めて考えると、ふしぎというか、なかなかわがままな要求だと思う。

「プライベートには干渉するな、でも部下のプライベートを尊重しろ」というのは。

 

1on1で担当した部下が異動を希望…いったいなぜ?

少し前、とある管理職の人が、こんなツイートをしていた。

詳細はツリーを追っていただくとして、ざっくり紹介すると

 

・1on1の上司として初めて、3児の父親である35歳の中途入社社員を迎えることに
・成長を求める彼に対し、ツイート主も積極的に協力
・最初の4か月は順調だったが、その後うまくいかなくなる
・ツイート主は問題解決のために努力するも改善せず、彼が「メンタルがヤバい」とSOS
・どうやら彼は、3人目の子どもが生後数か月の状態で引っ越しをし、いろいろ重なってパンクしたらしい
・結果、彼は別部署への異動を希望
・彼いわく、ツイート主のサポートが薄く、チャレンジングな環境をつくったのが悪かったらしい
・ツイート主は「彼の成長のためにがんばったのになぜ……」と悩むが、「自己成長を与えられるものだと思っている人にとって、自分のやり方はストレスだったのだろう」と結論づける

 

といった流れだ。

このツイートにはさまざまな意見が寄せられ、最後はこのツイートで締められている。

こういったすれ違いは珍しくないし、やってみて合わなかったから異動というのも悪い選択肢ではない。

当人にしかわからないこともたくさんあるしね。

 

ただ、「3人の子育てしながら新しい事を挑戦する事自体が超難しい事」であり、「そこを自分は理解できていなかった」という結論はちょっとちがうんじゃないかと思う。

だって最近は、「仕事とプライベートは別」という考えが一般的になりつつあるのだから。

 

理解したい管理職と干渉を嫌うデジタル世代

3人の子どもがいて、下の子が生まれたばかりであれば、私生活はドタバタだろう。そのうえ引っ越しともなれば、心身共に休まる暇がなかったかもしれない。

 

しかし、家庭の事情を踏まえてマネージメントするためには、上司は部下のプライベートをあれこれ聞く必要がある。

上の子たちは何歳か。幼稚園・保育園の送り迎えは。パートナーはどんな働き方をしているのか。実家の協力はどれくらいあるのか。家事・育児分担の比率は。

 

そういったことを把握してはじめて、「じゃあこの程度の仕事量にしよう」とか、「早く帰れるように業務を調整しよう」なんて話ができるようになる。

でも実際、上司からそんなことを根掘り葉掘り聞かれたら、うっとおしくない? 面倒くさくない?

 

事実、管理職と20代のデジタル世代のコミュニケーションに関するアンケートでは、なんとも悲しい結果になっている。

「デジタル世代が嫌う上司や先輩からのコミュニケーション」で20%を超えているのは、「飲みに誘われる(30.2%)」「ツールやSNSなどのコミュニケーションツールを利用したやりとりをしてくる(27%)」「仕事以外の話を聞いてくる(22.6%)」「個別面談や対話の場を持つように促されている(22.6%)」の4つ。

 

要は、プライベートな時間を拘束するな、干渉するな、SNSで関わるな、面と向かってあれこれ聞いてくるな、ということである。

 

しかし残念なことに、管理職がデジタル世代とのコミュニケーションで心がけているものとして、「仕事以外の話をする」が50.2%と半数を超えており、「個別面談や対話の場をもうける」も40.8%と多い。*1

 

管理職たちは、部下を理解するために仕事以外のことにも関心を向け、個別面談の時間をわざわざ取っているのに、部下にとってはありがた迷惑らしい。かわいそう。

 

ハラスメントやらなにやらに気をつけなくてはいけないうえ、プライベートへの干渉はNG、でもプライベートを考慮したマネージメントを求められるなんて、一体どうしろってんだ。ムリすぎるだろ。

 

ライフを尊重してもらいたいなら理解してもらう努力が必要

働き方改革が求められ、「ワークライフバランス」という言葉が浸透した。

 

しかしワークライフバランスでは主に、ワーク→ライフへの影響が注目される。

長時間労働はやめよう、プライベートが充実するように柔軟な働き方をしよう、のように。

 

でもワークライフバランスとは、「ワーク」と「ライフ」が両端にのった天秤で、相互に作用するものだ。

つまり、ライフ→ワークの影響も、もっと注目されるべきじゃないだろうか。

 

妊娠・出産や介護などがよく言われる「ライフの変化」だが、たとえばパートナーが病気になっただとか、子どもが小学校に通う年齢になっただとかもそうだ。

 

もっと言ってしまえば、「月曜日は子どもの習い事の送り迎えがある」「水曜日はパートナーが早出で朝食担当だから朝が忙しい」「毎週木曜日にバスケットクラブに行きたい」とか、そういうのだってライフからワークに影響することだろう。

 

それらを踏まえて、月曜日は早く出社するぶん早めに帰宅、水曜日は在宅勤務、木曜日も早出早帰り……なんてことができたら最高だ。

 

でもそれを可能にするためには、それを許可する上司の理解が必要なわけで。

理解してもらうためには、プライベートを知ってもらう必要があるわけで。

 

「プライベートには干渉してほしくない、でもプライベートは尊重してほしい」ってのは、なかなかの無茶振りである。

知らんものをどう尊重しろと?

 

プライベートを開示してくれる部下のほうがマネージメントしやすい

プライベートを大事にするために、柔軟な働き方をしよう。

上司が部下のプライベートに干渉すべきではない。

 

どちらも理解できるし、まちがってはいないと思う。

ただ、この両論の両立はむずかしい。

 

育児休暇や在宅勤務など、権利として認められていることを行使するだけなら、いちいち細かく上司に説明する必要はない。

有給休暇取得のためにプライベートを明かさなきゃいけない、なんてのもおかしな話だし。

 

でも、上司だって人間だ。

プライベートをよく知らず一緒に飲みに行ったこともない部下と、家庭の事情などを定期的に相談してくれてたまに食事に行く部下だったら、後者のほうがマネージメントしやすいと思う。

 

子どもが生まれたからと部下が仕事終わりに赤ちゃんをお披露目したり、「3歳になって七五三やったんですよ~」なんて写真を見せられれば、だれだって多少は情がわく。

その関係性で、部下から「子どもが熱を出したので早退します」といわれたら、「そりゃ大変だ、すぐ帰れ」という気持ちになるだろう。

 

でも子どもが生まれたのは知っているけど男の子か女の子かも知らず、プライベートを一切明かさない部下が、急に「家庭の事情で早退したい」と言い出したら、「あ? あーうん、わかった、ハイ」ってならないだろうか。

部下を平等に扱うべきとはいっても、プライベートな事案に対する態度・対処は、ふだんの関係性に左右されるよね。上司だって人間だもの。

 

でも後者のような部下相手でも、「プライベートを考慮したマネージメント」を求められるなら、もう全管理職の胃に穴があいちゃうよ。

 

ワークライフバランスで問われる、尊重と不干渉の比重

もちろん、「上司にプライベートを干渉されたくない」という考え自体がまちがっているわけではない。

でもプライベートと仕事を切り分けたいのなら、プライベートに仕事を持ち込まないのと同じく、仕事にもプライベートを持ち込むべきじゃない。

 

「いま家庭内がドタバタしていて……」とプライベートが仕事に影響を及ぼすなら、「仕事とプライベートは別なんで(キリッ」って理論は通らないよね。

プライベートを尊重してほしいのなら、それを理解してもらう努力をすべきだと思う。

 

いやね、上司にプライベートすべて開示しろってわけじゃなくて。

上司と飲み会に行けってことでもなくて。

ただ、「上司とのいい関係」の構築をサボっておいて、いざというときだけ「融通を利かせてください」はぶっちゃけムリじゃない?って話でさ。

 

「プライベートの話をせずともいい関係性はつくれる!」って人もいるかもしれないけど、少なくともわたしは、気楽に家族の話もできないような部下と「いい関係」をつくれるとは思わないんだよなぁ。

 

だって困るでしょ、いままでなにも知らなかったのに、急に部下から「実はプライベートがいまこういう状態で、限界なんです。それを考慮したマネージメントをお願いします」とか言われてもさ。知らんって。

 

いまはまだ、「ワークライフバランス」という言葉が広がり始め、いままでおざなりになっていた「ライフ」が重視されている段階だ。

 

でも本当の意味で「ワーク」と「ライフ」が同じ重さで天秤に乗ったとき、わたしたちは、「自分のプライベートを大事にするためにいかにマネージメントしてもらいやすい人材になるか」を考えなくてはいけない。

「プライベートに干渉しないでください、でも自分のプライベートを大事にしてください」では、人間関係がむずかしくなるだけだから。

 

というわけで、ワークライフバランスで問われるのは、プライベートへの「不干渉」とプライベートの「尊重」のつり合いなのかもしれない。

 

*1 THE ADECCO GROUP 「デジタル世代vs管理職 働く価値観に関する意識調査

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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