前回、「金をくれと言わないと、仕事ではない」と書いた。

これをもう少し突き詰めると、仕事における実力とは「売る力」のことであって、究極的にはそのほかのラベルや能力、例えば学歴やIQなどは、2次的なものに過ぎないとわかる。

 

 

なおここでいう「売る力」とは、営業力だけを指す概念ではない。

富を得るために「何を売るか」までを含んでいる。

 

例えば、最も富を集めにくいのは、単に「自分の時間」を切り売りする単純な労働だ。

日本だと時間給で、1時間当たり約1000円~1500円程度だろうか。

1日8時間働いて、最大で月に26万円、手取りで月に20万円程度になる。

 

次に、組織に対して「自分の能力を売る」ケースで、いわゆる会社員・公務員・団体職員など。

年収は200万円~500万円程度が普通。

コンサルタントや医師、パイロットなど、専門性の高い能力によっては、年収3000万円くらいまで稼げるかもしれない。

 

なお、私はコンサルタントだったが、「コンサルタントって苦労の割には給料安いでしょ」と、無邪気にクライアントの社長の何人かに言われたことがある。

実際、その通りだった。

なぜかと言えば、多少の技能の差はあれど「一社に所属して給料をもらう」という点で、会社員も医師もパイロットも、みな同じだからだ。

 

 

では「能力」ではなく、「パフォーマンス」を売る人はどうだろうか。

 

つまり、純粋に自らの業績に連動した報酬を受け取る人たち。

具体的には芸能人、スポーツ選手、トレーダー、保険の営業職員、開業医、商店主、各種フリーランスなどだ。

 

彼らの収入には、原則的に保障がない。

「パフォーマンスが悪ければ」収入はゼロになる。

 

その代わり、成功したときの実入りは大きい。青天井なのだ。

一介のエンジニアであっても、交渉が上手ければ年収2000万を狙うことは十分可能だし、保険や化粧品の営業でも、年収数千万から1億が狙える。

アメリカのプロバスケットボールの選手の平均年俸は約10億円という。

 

なお、彼らの年収レンジは、「マーケット」に依存する。

大きなマーケットか、小さなマーケットか。

薄く広く存在しているマーケットか、ごく一部の成功者に富が集中するマーケットなのか。

 

つまり「パフォーマンスを売る人」が受け取るお金を決めるのは、マーケットである。

 

しかしこの稼ぎ方にも欠点はある。

それは売り物が「自分しかない」という点だ。

体を壊せばその時点でおしまいだし、好調不調の波にも弱い。

 

 

最後に、最も富を集めるのは、商品を生み出し、売る人たちだ。

 

と言っても営業マンのことではない。

実際、商品を「生み出している」のは企業そのものである。

製薬会社は「薬」を生み出し、おもちゃ会社は「玩具」を、老舗の菓子メーカーは「お菓子」を生み出している。

 

そして、商品から得られる富を吸い上げるのは、その企業の大株主、オーナーたちだ。

 

この手法が強いのは、「自分」の好調や不調に、依存しないこと。

安定した顧客が商品についてくれれば、莫大な富が安定して懐に入ってくる。

 

それは決して、大企業である必要もない。

一介の、平凡な、中小企業で十分なのだ。

真の金持ちは「中小企業のオーナー」であると知ったときの話。

変な話だが、例えば世間知らずだった私が、最初に衝撃を受けたのが、オーナー経営者の報酬だ。

オーナー経営者は、ほとんどの上場企業の経営者よりも、はるかに良い報酬を得ていることに、私は驚いた。(中略)

中小企業の経営者においては、「億超え」は全く珍しくなかった。

特に、長く会社を継続し、コンサルティング会社を雇えるような中小企業のオーナーは超裕福で、莫大な資産を蓄積している。

だから「経営者が儲けたい」だけであれば、唯一無二である必要も、大企業である必要もまったくない。

普通の商売を手堅くやるだけで、十分に富を集めることができる

 

 

現在、副業が流行っているが、ひとたびそれがうまくいくと、「自分で売ること」が、会社員をやるよりも異常に儲かることがわかってしまう。

会社員として昇進した時に得られる給与と比較したとき、「出世などバカバカしい」と思い、元には戻れない、と思っている人も多いだろう。

 

そして逆に「学歴」が、得られる富とあまり関係がないという事もわかってくる。

 

学歴の高い人は、勘違いしやすいのだが、あれはどこまで行ってもラベルの一種でしかない。

中学受験にまい進する親たちの話が揶揄されがちなのも、そういった側面がある。

「SAPIXに通わせても、子供は金持ちになれないよ」と。

 

 

こうした知識は、学校ではあまり教えてもらえない。

それは当然で、ほとんどの先生は「富を集めたことがない」からだ。

個人塾のオーナーであれば別かもしれないが。

 

 

こうしたことを一番学べるのは、とにかく「環境」があるかどうかだ。

裕福な経営者や開業医、スポーツ選手や芸能人、起業家などが身近にいれば、「圧倒的に稼げる」のを見て、子供がそれを目指すようになるのは当然と言えば当然だ。

 

子供を金持ちにしたければ、上級会社員にしようとするのではなく、金持ちの近くに置くこと。

商売を自分でやって、成功している人を見せること。

 

「金持ち父さん」の話の通り、これが真理なのだと思う。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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Photo:Nate Johnston