世の中には、批判されるとやたらと攻撃的に反応し、過剰にやり返す人がいる。
レスバして「論破してやった」と鼻高々に勝利宣言をしたり、自分の主張を押し通して相手を叩きのめすことに快感を覚えたり、「アンチはブロックするのが最善」と啓蒙したり。
きっとそういう人たちは、自分を否定する人間を否定しないと、腹の虫が収まらないのだろう。
かくいうわたしも、そういうスタンスだったときがある。
というか、発信する人の多くは、一度はそういう時期を経験しているんじゃないだろうか。
その昔、わたしは「わたしの言い分を理解しないのが悪い」というスタンスで、かなり強気にレスバしていた。いや、本当に昔の話ですよ。はるか昔。
記事に対する批判コメントを煽ったことや、相手の読解力のなさを揶揄したこともある。
でもすぐに、それらの行為がいかに無意味で不毛かを悟り、やめた。疲れるだけだし、見ている人も楽しくないだろうし。
なにより、自分の視野が狭く、勉強すべきことが山ほどあることに気が付いたから。
それを自覚したら、「自分が正しいから相手を叩き潰そう」だなんて考えはなくなる。
批判を否定して、拒絶するのはかんたんだ。
でも批判を受け入れられるかどうかが、人間としての伸びしろだと思う。
「オケ曲なんて作れないんだろ」と批判されたから、作ってプロに演奏してもらった
みなさんは、「よみぃ」というYouTuberをご存じだろうか。
ストリートピアノ動画を多くアップしており、太鼓の達人界隈でも有名なピアニストだ。チャンネル登録者数は210万人を超え、『名探偵コナン』の主題歌で有名な愛内里菜さんとのコラボもしている。
さて先日、よみぃさんは、『【検証】酷評された“素人”の曲でもプロが編曲すれば名曲に変貌するんか?【よみぃ×オーケストラコラボ】』という動画をアップした。
「僕、太鼓の達人とかに曲が収録されたりしていて、『作曲家です』って言わせていただいているんですけど。『よみぃって作曲家とか書いてるけど、コード進行も単調だしクラシックの作曲知識は無いから素人』『ゲーム曲作ってるけどオケ曲とかクラシックは作れないだろうな』みたいな、(匿名掲示板に)書かれてました」
そこから、「アンチはなにもわかってない! 自分はクラシック作曲家じゃないし、文句あるなら自分で曲を書け!」というよくある反論をするのかと思いきや……。
「でも確かに僕、言われてる通りでクラシックの曲って作ったり出した事無いんですよ……。出しても無いのに批判されるくらいだったら、どうせなら1回オケ曲みたいなものを作って、それで批判されたい」
とのこと。
ん?
そこでなんと、彼は神奈川フィルハーモニー管弦楽団を訪れ、「自分が作ったオーケストラ曲を編曲・演奏してくれませんか」とお願いに行ったそうだ。
えぇ!? なんでそうなる!?
とはいえお相手はプロなので安請け合いはせず、お客様に聞かせられるような曲が書けるなら協力するよ、という話になった。
約1か月後、よみぃさんは試行錯誤を経てようやく完成した曲を持ち込み、実際にピアノで演奏して「面接」してもらう。
一発OKではなかったものの、要求基準は満たしており、完成まで編曲家が協力することが決定。
そしてある日、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンサート終盤によみぃさんが登場し、彼の「はじめてのクラシック楽曲」がお客様の前で披露された。
動画内では実際の演奏が聞けるので、ぜひ聞いてみてほしい。
イエスマン以外を追放したら残るは裸の王様のみ
「どうせお前はクラシックなんかわからないんだろう」という批判を受け入れ、そのうえでお客様の前で自分のクラシック曲を披露するのは、とても勇気がいることだ。
「ほらやっぱりダメじゃないか」「この程度で作曲家を名乗るな」なんて言われるかもしれないのに。
それでも彼は挑戦し、クラシックのプロたちの力を借りて、コンサートを成功させた。
もし「アンチは黙ってろ!」とレスバしていたら、自分が作ったクラシック曲をプロに演奏してもらうなんて機会は得られなかっただろうし、作曲の引き出しが増えることもなかっただろう。
批判を受け入れる素直さ、そして自分への否定を恐れず未知の世界へ飛び込む勇気が、人を成長させていくのだ。
……「成長」なんて書くとなんだか偉そうだが、要は、「イエスマン以外から学ぼうとする姿勢は大切だよね」という話である。
そりゃ、自分のファンで、なにをやっても褒めてくれて、批判コメントを否定してくれる人ばかりなら、気持ちがいい。
でもそれに浸ってしまったら、自分の世界は広がらないし、自分がいま見ているものだけがすべてだと勘違いしてしまう。
ほら、いるじゃないですか。
都合の悪い意見は全部アンチだとひとくくりにして、「自分の高尚な考えを理解できないやつはみんなバカ」だと、いたるところでトラブルを起こす人。
20代ならともかく、50代の経営者とかでも、平気で「てめぇの頭じゃ理解できねぇけどな」なんて煽ったりしているわけですよ。
そうやってイエスマン以外を追放しても、残るは裸の王様だけ。
批判を素直に受け入れられるかどうかが人のうつわであり、人間としての伸びしろなのだ。
生徒にバカにされまくってペン習字を習い始めた先生
そうそう、高校のとき、批判を糧にした心の広い先生がいた。
国語担当のA先生だ。
A先生は50代くらいの女性で、とにかく字が汚かった。クセ字、というより、単純にバランスが悪く不格好で、筆圧も薄く雑に書いているような感じで、とても読みづらい。
だからA先生は、「国語の先生のくせに字がヘタクソ」と、生徒たちからかなりバカにされていた。体育の先生がまともにキャッチボールできないようなイメージだろうか。
そんなある日、生徒が先生を評価するアンケートが配られた。
授業のわかりやすさ、進路指導の適切さ、授業のペースなどを生徒が採点するのだ。
そこには各先生に対する自由記述欄があり、わたしはA先生の字の汚さについて書いた。
まわりも友だちも同じだったようで、アンケート回収後、「A先生の字、あれはやばすぎだよね」「国語の先生であんな字が汚い人初めてだもん」「ってか自分でやばいって思わないのかな」「怒られても説得力ないよね、まず自分の字をどうにかしろよって感じ」なんて半笑いで話したことを覚えている。
さてさて、その1か月後。
なんだか、A先生の字がきれいになってる……!?
トメ・ハネにしっかりメリハリがあり、中心線がすっと通っており、へんとつくりのバランスもいい。各段に文字が読みやすくなっている。
いったいなにが……。
授業の最中、なぜこの話になったかは忘れたが、A先生がこう言った。
「みんな、アンケートありがとう。アンケートで、先生の字が汚い、国語の先生ならちゃんとキレイに書け、という意見をたくさんもらいました。自分の字が汚いのは自覚していたけど、そこまでとは思っていなかった。いまは通信のペン習字を習って、字を矯正しています」と。
これ、すごくないですか?
教師としてのプライドもあるだろうに、自分の子どもよりも年下の生徒たちの批判を受け入れ、改善のために時間とお金を使って努力するって。なかなかできることじゃないですよ。
しかも字なんて、なおすのがすごく大変なのに……。
A先生が書く黒板の字が日に日にきれいになっていくのを見ていると、わたしたち生徒の態度も変わっていった。
「アンケートで『字が汚い』って書いた以上、自分も適当にノート取れないよね」
「わかるわかる、自分の字が汚かったら先生のこと言えないし」
「この前先生に注意されてイラっとしたけど、先生もうちらの意見受け入れてくれたから、素直に聞いとこうかなって気持ちになった」
という感じで。
自分の批判を受け入れてくれた人に対し、たいていの人は優しくするし、なんなら尊敬する。そして批判した責任を感じ、自分の振る舞いを見直すのだ。
批判を受け入れられるキャパ=人間としての伸びしろ
だれだって、批判されるより褒められたほうがいい。
批判を受け入れるにはプライドが邪魔をすることもあるし、さらにバカにされることが怖くて勇気を出せないこともある。
でも批判を受け入れて挑戦する姿勢を持っていれば、たくさんの人が応援してくれる。「謙虚」「心が広い」「成長している」「真摯な姿勢」「感動」と。
たとえ失敗したとしても、批判を受け入れようとしたことは、無駄にはならない。
批判を受け入れることは、「負け」ではないのだ。
もちろん、だれに何を言われても貫くべき信念が必要な場合もあるし、的外れで聞くに堪えない批判もある。どんなネガティブコメントも正面から受け入れるべき、というわけではない。
ただ、批判のなかにも自分のタメになるものはたくさんあるのだ。
それを見極める冷静さと、受け入れる度量くらいは、持ち合わせていたい。
「怒られるうちが華」なんて言葉もあるが、「批判によって足りないところを教えてもらえるうちが成長のチャンス」でもある。
年齢を重ねれば重ねるほど、そういった批判を「してもらえる」チャンスは少なくなっていく。
だからこそ、そこで意固地にならずに素直に受け取れるかどうかで、その後成長できるかが決まるのだ。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
Photo by :Ken Yamaguchi