ちょこざっぷの日々

おれは2023年の夏から、ちょこざっぷに通い始めた。ちょこい、トレーナーもいない無人コンビニジム。

わざわざ「ちょこざっぷ」と書くのは、「ジムに通っている」と書くのを躊躇させるほど、「ちょこざっぷ」は普通のジムより緩い場だからだ。

 

chocoZAP(ちょこざっぷ)に行くのはどんな人なのか?

 

おれは当初、コロナ禍で外出も減り、運動も減り、なまりになまった身体を動かす場所として考えていた。

あくまでメーンはエアロバイク。エアロバイクで有酸素運動する、痩せる、これである。

 

しかし、しばらく経つと、マシンに目が行くようになった。筋トレの、マシン。

おれの行くちょこざっぷの店舗は、マシンがわりと充実している方だ。充実していない店舗もある。それも事実だ。でも、おれが行く「ホーム」は、わりと充実している。

 

気づいたらおれは、ちょこざっぷを筋トレの場所にしていた。エアロバイクもトレッドミルも置いておいて、筋トレする場所。

むろん、ちょこざっぷだけにちょこい。ちょこいけれど、筋トレ経験なんてないおれには、十分な設備だ。

おれはいつしか、筋肉をつけるのを目的にしていた。

 

筋肉

おれがちょこざっぷに求めていたのは、「髀肉の嘆」の解決が第一で、第二に脇腹についてきた贅肉の解決であった。

ちょこざっぷに通い始めて四ヶ月くらい経つ。なかなか内腿の肉は落ちない。落ちないが、最悪のときよりましになった。脇腹の贅肉は解決したといっていい。

 

今は、それより上の、「プラス」を求めて試行錯誤している、というわけだ。

二の腕の筋肉は、ついてきたように思う。比較してくれる人がいないので、なんとも言えない。でも、鏡を見ると、「あれ、なんか腕に筋肉ついてるんじゃないのか」と思える。

 

思える根拠にマシンの負荷があって、最初はできなかったのに、できるようになっていく過程がある。

最初は15回3セットなんて辛かったものが、楽にできる。負荷を一つ上げて、10回3セットからはじめる。それができるようになったら15回にして、それも楽にできるようになったら、負荷を増す。

 

むろん、ネットで得た知識にすぎない。無人のコンビニジムだし、やり方の指導もないし、長期的な計画もない。それでも、いくらか成長はしたと思う。

 

脚については、一日に150km~200kmくらいまでサイクリングできたころが絶頂だった。

しかし、上半身は今が人生のなかでピークだといえる。腹筋もできる。目に見えて「筋肉」という感じではないが、自分のなかでは「なんか力がついている」というのを感じる。

 

筋肉……。

 

筋肉は裏切らない、筋肉は全てを解決する

ネット上で筋肉の話題になると、よく「筋肉は裏切らない」、「筋肉はすべてを解決する」とかいう言い回しを目にする。なにが由来かは知らないが……と、せっかくなので調べてみよう。

筋肉は裏切らないとは

元々はボディビル界隈などで広く使われていた言葉である。一般にもTwitter上で著名な実業家であるTestosteroneexit氏が頻繁に用いていたことなどから、にわかにではあるが浸透していた。

その後、2018年にNHKのテレビ番組「みんなで筋肉体操」の中で近畿大学准教授の谷本道哉氏が決め台詞として用いたことから一躍脚光を浴び、この年の新語・流行語大賞にノミネートされるまでになった。番組のLINEスタンプでこのフレーズが使用されたり、ハッシュタグ「#筋肉は裏切らないexit」としても活用されている。

谷本氏がどういう意図で引いたのかはともかく、一般的な文脈で用いられる際には「友人や恋人は裏切ることがあるが、自分で鍛えてつけた筋肉は裏切らない(ので筋トレをしよう)」といった具合に、人間関係で悩むくらいなら筋トレしていたほうがマシという意味合いで使われることが多い。

うむ、おれが知っている使われ方だ。だが、「決め台詞」にしていた谷本氏はこんなことを言っている。

 

「筋肉は裏切らない」かは、やり方次第 人間の可能性は無限大

谷本道哉氏(以下、谷本):ありがとうございます。筋肉は裏切らないというフレーズは、「(トレーニングなどを)やった分は、自分の身になるよ」という意味に取られがちですが、僕はちょっと違う解釈、意味付けをしています。「筋肉は裏切らない」は上の句で、下の句は「(裏切らない)かどうかはやり方次第です」と。

と、その真意は一般的なものとは別なようだ。

 

では、「筋肉は全てを解決する」は?

 

……これに確固たる元ネタはないようだ(あったら教えてください)。漫画『金田一少年の事件簿』のスピンオフ作品に出てきた「やはり暴力‥‥!! 暴力は全てを解決する‥‥!!」が言い換えられたものだろうか。

 

ただ、話題になったツイートが上位に出てくる。

新人医師「『筋肉は全てを解決する』的なネタツイを今まで笑って見てたのに、実務で筋肉の重要性を痛感することになった」

『筋肉は全てを解決する』的なネタツイを今まで笑って見てたのに、医者になってから患者の筋肉量が機能予後に留まらず生命予後にめっちゃ影響がある事を知り「もしかして筋肉は全てを解決する?…いやまさか…でも…」みたいなキモい葛藤に最近直面してる。

 

これについて、ツイートされた方のインタビューもある。

「筋肉は全てを解決する!?」現役医師の「キモい葛藤」が話題 筋肉は病気への勝敗を左右する!

 さすがに筋肉は全てを解決はしません。それは分かってます。が、それでも研修医向けの参考書やコンテンツを漁ると”筋肉は大事”という文言を多数見かけます。筋肉がチラチラ『私大事ですよ』とこっちを見ている気がするんです。しかも少しずつ近づいて。

研究が進んでいくにつれて、いつか筋肉が全てを解決する状況になったら…いやそんなはずは…でも…もしかして…と葛藤が続いています。

なるほど、筋肉は大事なようだ。というか、そういうのが当たり前だよねって風潮はいつ頃からだろうか。

二十年前からそうだったとも思えない。ボディビルダーでもない普通の日本人が、健康的な筋肉に目覚めたのはせいぜいここ十年とかじゃないか? ちょっとわからんが、そんな感覚。

 

で、おれは医者でもなんでもないが、「筋肉は全てを解決する」という物言いに、「全てじゃねえよ」という気持ちを抱いていた。

 

それはなぜか。おれが双極性障害(躁うつ病)という精神障害を抱えているからである。筋肉つけたところで、ひょっとしたら予防にはなるかもしれないが、発症したやつが治りはしねえよ、と。解決しねえよ、と。

そんなんで治ったら、抗精神病薬なんてものはこの世からなくなってるし、精神科も全部潰れてジムになってるだろ、と。

 

……でも、でもね、だけどなんか。

 

このごろなんか固まらない

そうなんだよ、って、どうなんだよ、って話になるが、なんだね、あまりこういうことを書いていいのかわからないけど、あくまでね、一人の精神障害者の、「そうかもしれないな」という、ちょっとしたお気持ちというか、まあ「※個人の感想です」ってのを書くよ。

 

なんかね、ジムで運動する習慣がついてからね、抑うつで寝込むことが少なくなってる……ような気がする。

 

ような気がする、というのは、おれがいちいち寝込んだことを記録していないからだ。いや、朝、身体が動かなくなっても、午後になって動くようになったら、なんとか会社には這ってでも行く、休まない、という性質から、会社のタイムカード見たら調べられるか。めんどうなので調べないけど。でも、なんか気づいたら、このごろ、あんまり鉛様麻痺になってねえな、と思うのよ。

 

あれ、筋肉が解決した?

 

いや、解決はしていない。起きられない日もある。あるけど、ひどい固まり方はしない。だから、改善……はしたような気がするのだ。

 

筋肉だけではないけれど

ただ、筋肉がついたからそうなのか、と言い切れるものではない。おれは同時にもう一つの生活習慣を変えた。減酒だ。

 

減酒宣言した多量飲酒者の末路

 

おれはけっこうがんばって減酒している。というか、工夫によって減酒できることを見つけた。

ノンアルでも炭酸を二本飲めば、なんかもうそれ以上「飲み物」がいらなくなる感じがする。あるいは、お酢を炭酸で割ると腹にガツンとくるうえに、なんとなく頭にも影響があるような気がする。そうすると、べつに酒を飲む気もなくなる。そんなところだ。

 

もちろん、双極性障害にも、双極性障害の薬にも、飲酒は厳禁なのが原則だ。

だが、アルコール依存症の本を読むと、「双極性障害」なのがわかる。たとえば、「新アルコール・薬物使用障害診断治療ガイドライン」の生物心理社会的評価のIV軸は「精神的問題」なんだが、最初に挙げられているのは「双極性障害がある場合」だ。

べつに「精神病性障害がある場合」という項目があるのに、独立して扱われている。すごいだろう。なにが?

 

なんの話だったか。減酒だ。減酒が、おれの双極性障害によい効果をもたらしている可能性もある。おおいにある。

 

そりゃなんだ、減酒をやめて毎日多量飲酒に戻して、ちょこざっぷ通いをやめる、あるいはその逆でなにか確かめられるかもしれないが、そんな人体実験するつもりはない。相乗効果、ということにしておこう。

 

あるいは、あれだな、「筋肉」ではなく、「運動」自体が効いているという可能性もある。

習慣的な運動。運動が精神疾患に効くという論文なんかは、探せばいくらでも出てくるんじゃないのかと思う。論文の探し方なんてしらないが、たぶん。というか、検索すればいくらでもそんな話が出てくるし、もしおれの双極性障害が軽くなっているとすれば、「運動」の可能性が高いかもしれない。

 

とはいえ、運動といっても筋トレが中心なので、やはり筋肉が、ということも言えるだろう。

これも筋トレをやめて有酸素運動だけにすれば比較できるかもしれないが、そんな自分研究もメリットがないのでやらない。

 

いずれにせよ筋肉は悪くない

というわけで、まあ、運動して、酒を減らせば、心の調子がよくなる……のではないか。なんか当たり前のこと言ってるな。でも、この半年くらいでそれを感じているのだから、そう書いた。

 

そして、その象徴というか、目に見えるものが、筋肉なのだ。いや、目に見えるほどムキムキになったよ、ということはない。

でも、やっぱり鏡とか見ると、ちょっと上腕が太くなったような気がするんだよ。最近はちょっと足踏みしているけど、だんだん負荷も高められているし、たぶん筋肉はついている。

 

そんでもって、なんか心の調子も悪くない。ここでいう心の調子とは、精神障害と関係なく、だれにでもある調子のことだ。

なんか、ものの考え方にもネガティヴさが減っている。ネガティヴなのが自分の芸風(?)なのに、極端に暗く、絶望的な言葉が出てこない。よくない。

 

もちろん、人生のなにかが好転したわけではない。先にあるのは会社の消失、働く場所の消失、収入の消失、住む場所の消失、食べるものの消失、生命の消失だけなのだが、それで頭がいっぱいになることはない。それにともなう絶望感もない。

 

なにかが変わったといえば、少し筋肉がついただけだ。「次の夏になってTシャツ着たときには、けっこう見栄え変わってるんじゃないの」くらいのことを考えている。

 

ただ、忘れちゃいけない、おれの障害は双極性障害だ。躁うつだ。かなり短い単位で「身体が動かなくなる」症状も出る。

だが、長期的に躁の波とうつの波があるのも確かだ。思えば、最初の最初に精神科に行ったのは、長くつづくハイな状態でダイエットに励みすぎて、いきなり身体が動かなくなったからだ。

 

摂食障害と強迫性障害と言われた。最初から双極性障害と診断されなかったが(たぶん、よほど明確なエピソードがないかぎり、初手から双極性とは診断されにくいはず)、思うにあれは長くつづく躁状態だった。

 

なので、医者には「運動不足なのでちょこざっぷ通い始めました」といったら、「いいね」だったが、この頃は「運動は続けています」というと、「やりすぎには注意してね」といわれている。まあしかし、ちょこざっぷで筋トレをやりすぎたところで、害があるとも思えないが。

 

だからなんだろう、なんか調子に乗って「筋トレしたら精神疾患がよくなってるぜ」とは言えない、言っちゃいけない。いまのおれが長期的に軽い躁状態である可能性があるからだ。

 

でも、実感としては、なんか筋肉のおかげで精神疾患が改善しているような気もするし、気持ちもポジティブになっているような気もする。

擬似相関とかいうのかな? そういう気もする。なので、あくまで「※個人の感想です」だ。

 

その上で言う。筋トレは悪くない。

もし、運動不足でどうかしようかな、とか思っていて、コンビニジムに行くくらいのお金や時間の余裕があるなら、試す価値はある。効果があるとは言わないが、試す価値はある。

 

まあ、人のことはわからない。わからないが、「筋肉は全てを解決する」と言う人がそれなりにいる。おれも「筋肉はよいのでは」と思っている。今のところ筋トレをやめるつもりはない。

正直、嫌々ながらという日も少なくない。それでもちょこざっぷに行く。筋肉がつくのは悪くないと感じている。正しいトレーニングのやり方なんて知らないけれど、おれは今のところ筋肉に裏切られていない。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

Photo by :Victor Freitas