わたしは先日、請け負った仕事を途中で辞退した。
理由はいくつかあるが、かんたんにいえば、「結果を出せなかったから」。
でもその決断が正しかったのか、自信をもてないでいる。
「外注」という立場で関わった場合、報・連・相のうちの「相談」を、どの程度していいものなのだろうか……。
人生初!営業の仕事をいただいた
仕事を依頼してくださったのはとある出版社の編集者で、内容は本のPRだった。
その出版社から出ている本を紹介する記事を書き、その記事を掲載していただけるよう各メディアに営業するのがわたしの仕事だ。
営業の経験がなくメディアにツテもないことを伝えたところ、編集者もこういった外注は初めてとのこと。
お互い手探りなので相談しながらやっていきましょう、となった。
ありがたいことにいままで営業なんてほとんどせず仕事をいただいていたから、多少の不安はあった。でも挑戦したいという気持ちが強かったし、受注した時点では、かなり楽観視していた。
わたしが出版させていただいた際、担当編集者の采配でいくつかのメディアに紹介記事を載せていただいたので、そんな感じでやればいいのだろうと。
というわけでさっそく、営業開始。
「この本の紹介を交えたコラムを執筆するので、掲載していただけませんか?」といくつかのメディアにメールする。検討していただきやすいよう、サンプル記事もつけて。
そのときは、「まぁ半分程度はお返事いただけるかなー?」と考えていた。
のだが。
あれ?
まったく返事が来ないんだけど……?
仕事内容が「ムリゲー」だと気付いた瞬間の焦り
断られるどころか、そもそもさっぱり返信がこない。
失礼な言い回しやとんでもない日本語は使っていないはずなのに……。
ノルマなしの固定給ではあったものの、まったく結果を出せないのはまずい。いったいなぜ返信が来ないんだろう。
そこでふと気が付いた。
もしかしてわたし、めっちゃ非常識なお願いしてる……?
PRしてもらうかわりに、タダで記事を納品する。
わたしは本を宣伝できて、向こうはタダで記事が手に入る。
わたしはそれが「釣り合う」と思っていたが、それはだいぶ勘違いだったんじゃ……?
わたしの依頼は、いってしまえば「タダで本をPRしてくれ」と同義だ。
どのメディアも、広告料で稼いでいる。それなのに「広告費を払わないけど広告を出してくれ」というわたしの提案は、橋にも棒にも掛からないものだったにちがいない。
それに気付いたわたしは焦った。めちゃくちゃ焦った。
それがいくらおかしなことであっても、広告費を出せる立場にないわたしは、「タダでPR記事を掲載してくれ」とお願いするしかない。そういう仕事内容だから。
これってムリゲーでは……?
ようやく来た念願の返信!気になる内容は……
そんななかでようやく、ようやく、念願の返信が届いた! それも2通!!
ドキドキしながら開封すると、両方とも同じ内容だった。
「その本は当メディアでも取り上げる予定で、著者の方へのインタビューも済んでおります」
なん……だと……。
当然のことだが、出版社内でどのメディアとどんなつながりがあるのか、外部のわたしは一切知らない。その結果、営業先がかぶってしまったのだ。
お返事をくださったメディアには申し訳ないと思いつつ、それはしかたないと割り切った。
が、実はわたしが営業の仕事を受けた際、「著者の方へのインタビューは可能ですか?」と確認していたのだ。そういったオリジナリティがあれば、記事掲載の確率が上がるだろうから。
しかし返事は「むずかしい」とのこと。わたしが書いた記事を著者の方にチェックしていただくこともムリ。
だからわたしは、本の一部を引用したり要約して記事を書くしかない。
自社メディアで著者インタビューができるなら、わたしのPR記事、しかも広告料なしなんて、掲載するかどうかの議論をする価値もないだろう。
わたしが出版した際いろいろと記事を掲載していただけたのは、単純に担当編集者のお力だったのね……。くッ……。
営業で一番大切な「メリットの提示」ができない
営業で一番大切なのはなにか?
それは、相手にメリットを提示することだ。
あなたにこんな利益をもたらしますよ。だからどうですか。
これが基本。
でもわたしは、「タダでPR記事を載せてください。記事は本の要約や引用を用いたコラムです」と言うしかない。
どのメディアも自社でコンテンツを用意できるんだから、広告料なしでPR記事を載せることにメリットはない。その枠を他に売ったほうがいいに決まってる。
メリットを提示できない営業で結果を出せないのは、当然だ。
そう納得したわたしは、3か月契約だったが、1か月で仕事を辞退した。
結果をまったく出せていないうえ、同じことをあと2か月続けても、出版社に利益をもたらせるとは思えない。
結果を出す見込みがないのにお金だけいただくのは申し訳なかった。
クライアントに事前相談せずに途中で仕事を辞退した理由
いままでわたしはライターとして、編集者と二人三脚で仕事をしてきた。
ネタが思い浮かばないときや書き方に迷ったときは相談し、たくさんの人に読んでいただいたら一緒になって喜んだ。
しかし今回の仕事は、「自分で記事を書いて自分で営業して自分で掲載まで持っていく」という完全単独作業。
だから結果を出せるかどうかの責任は100%自分にあると思っていたし、結果を出せないときにどうにかするのは自分だと思っていた。
で、どうにもできなさそうだから辞退した。
でも今になって、もう少し相談してもよかったんじゃないかと思う。
PR記事と伝えないとステマになってしまう。でもPR記事をタダで掲載してくれ、というのはムリなお願い。それを前提にどうすべきか、出版社側に相談して一緒に考えることだってできたのだ。
それでもわたしが相談しなかったのは、単純に「相談するという選択肢がなかったから」。
編集者にはどのメディアに営業したかをつねに共有し、返信がまったくきていないことも伝えていた。
しかし
「苦戦していますが他のメディアにも問い合わせてみます」
「わかりました。よろしくお願いします」
「なかなか返事が来ません……」
「そうですか……」
というやり取りで終わってしまっていた。
どうにかしなきゃいけないけど、どうしたらいいかわからない。どれくらいの成果を期待されているのか、いつごろまでに結果を出すべきなのかもわからない。
でも一連の作業をすべて任されていたから、「相談しよう」という発想にならなかった。報告・連絡で止まっていたのだ。
で、自分ではどうにもできないから、お金をいただくのが申し訳なくて辞退を決めた。
とはいえ出版社側だって結果がほしいのだから、辞退を決意する前に「一旦相談してみる」というワンクッションがあったほうが、お互い納得しやすかったんじゃないかと思う。
結果として、同じ「途中辞退」になったとしても。
外注だからこそ大切でむずかしいコミュニケーション
念のため書いておくと、仕事を依頼してくださった出版社や編集者の方に落ち度は一切ない。お声かけいただけて光栄だったし、うれしかった。
相手が悪いのではなく、あくまでわたしの姿勢の話だ。
「目標を共有すべき」とか、「早めに相談を」とか、そんなのは当たり前だし理解しているつもりでいた。でも「外注」となると、距離感がなかなかむずかしい。
外部の人間だから踏み込めない部分があるし、相手からしても口出ししづらい部分があったかもしれない。
でも外注だからこそ、コミュニケーションがより一層大切なのだと、切実に感じた。
相手のことを深く知っているわけでもないし、他人を介して仲良くできる機会もないし、社内で顔を合わせることもない。
そんななかでいい仕事をするためには、腹を割った正直で丁寧なコミュニケーションが必須。上下関係がないぶん、なおさら意思疎通が必要になる。
うまくいくかどうかは別として、せっかく初めて挑戦する機会をいただいたのだから、もっと相談したり頼ったりコミュニケーションを積極的に取るべきだったな……と反省中である。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
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