風来のシレンシリーズって、とても「良質な失望」を味わうことが出来るゲームだと思っているんですよ。

 

先日、「風来のシレン6 とぐろ島探検録」がSwitchにて発売されました。「5」から数えると約14年ぶりの本シリーズ続編となる「シレン6」、どんなものかと思って遊んでみたらこれがまためっちゃくちゃ面白くて、「4」の浜辺の魔洞以来かなって思うくらいハマりこんでおります。

ヤマカガシ峠、50回くらいチャレンジしてようやくクリア出来ました。

クリアした瞬間「うぉっしゃぁぁあああ!」とテレビの前で全力ガッツポーズをする40代三児の父です。

 

ということで、難関を越えた勢いで「シレンについて書いていいでしょうか!?」とBooks&Appsさんにお願いしてみたらOKをいただいたので、今回は風来のシレン6について主に書いていきたいと思います。

とてもビジネスパーソンを励ましそうにない記事で申し訳ありませんが、ビジネスパーソンの皆様にはご容赦いただけると幸いです。

 

この記事で書きたいことは、大体以下のような内容です。

 

・「風来のシレン6」がめちゃくちゃ面白いです

・特に操作感とUIが素晴らしくて、遊びやすさのあまり無限にプレイしてしまいます

・基本を丁寧に抑えないと状況を打開出来ないバランスも大変私好み

・シレンシリーズ結構やっているつもりなんですが、もしかするとシリーズ中でも屈指の完成度かもしれません

・あとBGMがめちゃめちゃ良いです

・ただし山伏だけは本当に絶対に許さない

・ゲームを評価する軸のひとつに、「プレイヤーに対して、いかに「良質な失望」を提供するか」というものがある気がしています

・ゲームで失敗して失望を味わっても、くやしさとその先にある達成感を糧にして何度でもトライして上達していけるのが「良質の失望」だと思います

・シレン6が、とても「良質な失望を味わいやすい」ゲームであることは保証できます。皆さんシレン6遊んでください

 

以上です。よろしくお願いします。

 

***

 

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

これ以降の話の前提として、しんざきのシレン歴はSFC版1,PSP版3,4,5,あとはGB版の1と2で、外伝は遊べてません。「アスカ見参!」遊びたいです。

 

「風来のシレン」とそのシリーズは、1980年発売のダンジョン探索RPG「ローグ(Rogue)」をゲームシステムとしての下敷きに、93年発売のドラクエスピンオフ作品「トルネコの大冒険」を直接的な前身にした、いわゆる「ローグライク」のRPGです。

画面を見るとアクションRPGのようにも見えますが、実際には完全なターン制であり、アクション要素はほぼありません。

プレイヤーは風来人である「シレン」を操ってダンジョンを探索します。ダンジョンのマップやアイテムは基本的にランダム生成で、シレンのレベルもダンジョンに挑む度にリセットされます。プレイヤーは、自分の知識・スキルを最大の武器として、ほぼ徒手空拳でダンジョンに挑むわけです。

 

シレンは、ダンジョンで入手出来る武器や盾、そして様々なアイテムを駆使しながら、立ち塞がる敵モンスターや罠、食料不足、アークドラゴン、みだれ大根、イッテツ戦車などの数々の苦難・強敵に立ち向かいます。

難易度は決して低くないのですが、「様々な試行錯誤の末、ダンジョンをクリアした時」に味わえる達成感、爽快感は折り紙つきで、数々のシレンジャーがダンジョン探索の虜になっています。

 

まずはシレン6の出来の話なのですが、

「UIや操作上の機能がめちゃくちゃよく考えて作られていて、シレンを動かす上でのストレスは殆どない」

「一方、敵と戦う上でのバランスはかなり辛めに作られており、攻略の為には基本を丁寧に抑えたプレイが必要とされ、その分失敗時の「敗因」がよくわかる構造になっている」

この2点については言ってしまって良いと思います。

 

まず一点目として、今回のシレンってとにかく徹底的に「どうすれば遊びやすくなるか」が考え抜かれているんですよ。

 

シレン6で追加された機能ばかりではなく、一部は「5 plus」以前から引き継がれた要素なんですが、

 

・飛び道具や杖の使用を十字キー+ボタンに割り当てて4箇所ショートカット設定が出来、矢が尽きても設定はそのまま保持される

・アイテム欄に入ったギタンが、整頓によって勝手に持ち金に入らないような設定が選べる

・壺の中身は、いちいち覗かなくてもカーソルを合わせただけで全て表示される

・シレンが向いた向きの軸が「見渡す」でもそのまま表示され、直線上にいる敵かどうかが分かりやすい

・アイテムごとに「既に識別した」「識別してはいないが名前をつけた」ということが表示され判別出来る

・トレモ的な「もののけ道場」で色んな敵やアイテム配置をシミュレート出来る

・動作や反応もきびきびしていて違和感がない

・ファストトラベルや罠・アイテム・モンスター図鑑的な「手帳」など、その他便利機能も全般的に使いやすい

 

などなどなどなど、「シレン」としての基本的なフォーマットはきっちりと抑えた上で、「手動でやってやれなくもないが面倒くさい」「けれど攻略する上ではかなり重要」という要素が、ほぼUIで解決されています。

これまでの「シレン」の便利機能の改良版集大成と言ってよい内容、シレンシリーズを遊んだ人であればある程「かゆいところに手が届く」と感じるであろうUIで、開発側のシレンに対する理解度が極めて高いと言わざるを得ません。

 

特にギタン整頓の有無を選べるのすげー助かる。保存の壺がない時にギタン砲を誤って整頓してしまった時の悲哀を、もう味わわずに済むんですよ!

 

飛び道具のショートカット設定も相当便利で、旧作であれば矢稼ぎの為に毒矢の罠に向かって矢を撃つ時、一度打ち切るとまたいちいち装備し直さなければいけなかったところ、今回は矢を拾うだけで再びショートカットを起動できます。

複数種類の矢を持っている時も、いちいちアイテム欄を開かなくてよくてめちゃ便利。

 

もののけ道場も相当使いでがあって、「こういう状況になったらどう打開するか」というのをゆっくりじっくり突き詰めることが出来ます。練習の為にも相当助かるモードです。

 

二点だけUI的な意味での不満を述べるとすれば、

 

・一部の地形が小マップ上で見づらく、通路なのか入れない地形なのかがぱっと見で分かりにくい

・アイテムの呪いや祝福のマークがやや小さい為、アイテムの状態が把握し辛い(つい使ってしまって呪いの音で気付く)

 

というくらいで、ここについてはアップデートなどで解決されるといいなあと思うのですが、総合してみれば100点満点に近い出来だと思います。

遊ぶ上でのストレスが極限まで抑えられており、実に気軽に「もう一度挑戦する」が選べてしまうわけで、文字通り無限に遊んでしまう出来となっております。

 

とはいえ、以上のような話は飽くまでインターフェース的な要素であって、ゲーム体験がまったりストレスフリー難易度になっているかというとそういうわけではありません。むしろ、ダンジョン探索というシレンの核の部分については、今回かなり難易度高めに振られているように感じました。

 

こちらも箇条書きにしてみると、

 

・全体的に敵のHPや攻撃力・防御力が高めに設定されていて、かなり攻撃力を高めないと一撃で敵を倒すことは難しく、殴り合いの機会が増える

・その為、攻略の上では「絶対に複数の敵を同時に相手にしない」「敵は通路に引き込んで倒す」「必ずこちらから先制する」「見渡しで部屋の状況を把握する」などの基本的な立ち回りが序盤から重要になってくる

・ノロージョなどが顕著だが、以前のシリーズ作なら「特殊能力が厄介だけど、通常戦はそれ程でもない」敵でも、だいぶ耐久度や攻撃力が上がっている

・当然リソースがどんどん削られるので、「いかに矢や杖、レベルなどのリソースを稼ぐか」ということをきちんと考えなくてはいけない

・もちろん、ゲイズ系や大根系を筆頭に、特殊能力自体が厄介な敵もダンジョン後半からはどんどん出てくる

・ただし願いのほこらやボヨヨン壁など、プレイ次第で有利になるギミックも増えているので、知識やノウハウが増える程うまく立ち回れるようになる

 

これくらいは言えるのではないでしょうか。

 

とにかく今回まず敵が固く、武器によっては3回、4回と殴らないと敵を倒せないという場面が頻繁にあり、当然ヒリヒリした場面が増えます。特に持ち込み不可ダンジョンや序盤のストーリーダンジョンでは、複数の敵を同時に相手にするだけで簡単に死が見えます。

プレイ感というか、ストーリーダンジョンの難易度上昇の感覚はSFC版「1」に近いものがあり、今回のシレンが「原点回帰」を一つのテーマとしている、ということも納得のゲームバランスです。

 

ただ、これって必ずしも「単に難しい」という話ではなくて、むしろシレンというゲームの味わいをより純粋に楽しめる調整だと思うんですよね。

 

ここで冒頭の「良質な失望」の話になります。

 

ゲーム体験における「失望」というのは、要は何かを達成できなかった時に味わう感情です。STGにおける被弾。格闘ゲームにおける敗北。パズルゲームにおける詰み。我々がゲームを遊ぶ時、そこにはたくさんの「失望」が隠されていますし、我々は時として「歓喜」以上にその前に積まれた「失望」の方を印象に残しています。

何かを達成できるその前に数えきれない敗北があるからこそ、達成感がより強くなる。勝利の喜びが深くなる。

 

で、「負けた時に「ちくしょう、次は絶対に勝ってやる!」と思えるかどうか」というのは、ゲームの演出、プレイ感によってかなり違ってくると思うのですよね。

プレイヤーにどう「失敗」を受け止めさせるかというのは、ゲームを評価する上で一つの軸になるのではないかと。

 

「負け」を糧として、その向こうを目指せるかどうか。敗北を散々味わったあとでも、挫折せずに勝利を目指せるかどうか。

ここで、「次は勝つ!!」と思わせてくれるゲームこそ、「失望」の演出が上手いゲーム、良質な失望が味わえるゲームなのではないか、と思うわけです。

 

私が考える限り、

 

・「敗因」が明確であって、「何をすれば今の失敗を回避できたのか」をきちんと突き詰めることが出来る

・試行回数を気軽に積み重ねることが出来る

・失敗を踏まえることで、きちんと知識やノウハウが積み上がっていく

・得たノウハウを使うことで上達を実感できる

 

この辺は、「失望」を上手く演出する上でかなり重要な要素なんじゃないかなあ、と思います。

 

で、シレンシリーズ、特にシレン6のストーリーダンジョン時点のゲームデザインって、ここに完全に合致しているんですよ。

 

上で書いた通り、今作かなりダメージレースが厳しく、立ち回りにおける甘えが許されにくい作りになっています。

もちろん運の要素もあるんですが、甘えた動きは割と簡単に死と直結します。「あと一発殴れば倒せるけど外せば死ぬ」という状況で、運を天に任せて攻撃ボタンを押したとき、幾人の風来人が「失望」を味わってきたことでしょうか。

 

だからこそ、死んだとき「今、自分はどうして死んだのか」「どうすれば立ち回りでカバー出来たのか」ということを思考しやすいんですね。

もちろん「完全に詰み」という状況もあるんですけれど、「回避する方法はあったけど運に頼ってしまった」という状況の方が遥かに多く、「くそっ、一手間違えなければ突破出来たのに!」とも思えるし、そこで「どうすればよかったのか?」を考えることで自然とプレイヤーが迷宮探索の知識を身に着けられる構造になっている。

 

しかも、これも上述の通りUIが極めて使いやすく連続プレイの面倒くささが薄いので、さっくり「もう一度挑戦する」を選択して試行回数を積み上げることが出来る。もののけ道場で状況を再現することも、パラレルプレイで他人と共有することも出来る。

 

さらに、ローグライクというシステム自体が(武器持ち込みダンジョンでは回避することが可能だとはいえ)、基本的には「レベルと強武器でざっくり解決」ということが出来ない、ないししにくい作りになっているので、プレイヤーとしてはノウハウを溜めていく他ない。

そして、ノウハウが溜まる度に、明白に状況が打開しやすく、先に進みやすくなっていく。シレン6の優れたインフラが、これまた「ノウハウの蓄積」を容易にしてくれています。

 

これだけ「試行と思考」が上達への良循環になるバランスもなかなかないと思うんですよ。

 

何度も何度も失敗して、それでも「あと一回」「あと一回」とプレイを重ねる内に、ついに見えてくる迷宮踏破。これを味わった時、大抵のプレイヤーは立派なシレンジャー(シレン中毒者)に成長してしまうわけです。

 

とにかく、「試行錯誤と、それに伴う上達」「数えきれない失望の、その先にある達成感」という要素を含めて、「風来のシレン6」がシリーズ経験者はもとより、ローグライク自体まだあまり慣れていない、という人にもお勧め出来る出来だということは保証します。ぜひ体験していただきたいと思う次第なのです。

 

少なくともストーリーダンジョンクリアまでは。

 

***

 

お勧め文は以上です。以下は個人的なヤマカガシ峠(ストーリークリア後に遊べる追加ダンジョンのひとつ)に対する私怨です。

 

とにかく今回ヤマカガシ峠がもーーーーホント意地が悪いというか、モンスター出現テーブルがあまりに悪意に満ち溢れているとしか言いようがない作りで、5Fから先は畑荒らしやら火遁忍者やら、延々と床落ちアイテムを燃やしまくるモンスターが出現し続け、たまにアイテム破壊モンスターが出てこない階層があると思えばそこでは鬼面武者のコンビネーションでパワーアップしたノロージョがガンガンこちらのHPをけずってくれて、マゼルンが出てこないのである程度の強さの盾を拾えていない時は殴り合うことすらままならず、やっと強い盾が拾えたと思ったら強化されたノロージョ軍団に混ざって現れるのはケンゴウで、盾を吹っ飛ばされたところに見事にノロージョ母の集団が刺さってくれたりして、終盤の山伏軍団は言うに及ばずお前ら単体でも十分凶悪なのにお互いを強化しまくって召喚もしまくりでもうほんっっっっとふざけんなよと思いながら先日ついに、ついに、ついについについにクリア出来ました!!!やったぜ!!本当山伏軍団だけは絶対に許さんからな。

またタチが悪いことに今回仲間キャラも非常に強力かつ魅力的で、トゥガイもヒビキもデブータも、もちろんアスカもとても良いんですがセキが大変に可愛く、しかしヤマカガシ峠に入ってしまうとダンジョンクリアまでセキが登場してくれないので、プレイヤーとしてはセキを人質にとられたも同然で泣きながら挑戦し続けざるを得ないわけです。コッパは「またヤマカガシ峠の頂上にいってみるか」とかいってたけどもう向こう二ヶ月くらいはヤマカガシ峠にいきたくない。

 

まあ、こうした「理不尽な追加ダンジョンとの格闘」もまたシレンの醍醐味ではあって、適度な学習曲線でシレンのノウハウを身に着けた後はちょいと理不尽なダンジョンでもおひとついかがですか、という話にもなるわけです。

 

誤解のないよう補足しておくと、今作の追加ダンジョンは難度も程よくってアイディアも面白いダンジョンも数多く、特に「三択で未識別アイテムの選択肢が提示される」推測の修験道のアイディアは出色だと思います。巻物が読みまくれる杖と巻物の領域や、敵の能力を駆使して戦う桃まんダンジョンも好き。デッ怪ラッシュだけはあんまり肌に合わなかったんですけど。

 

最後にもう一つ、今作BGMの出来も本当にすばらしく、お祭りのような和風なメロディの中にも時折アンデスやケルトの民族音楽的なメロディもあったりして、サントラを熱望する次第なのです。どの曲もいいんですが、特に鬼木島中層のBGMがあまりにも良すぎる。

長々と書いてまいりましたが、本記事で言いたいことは「皆さん風来のシレン6を遊んでくださいめちゃくちゃ楽しいしセキもかわいいので後悔はさせません」ということだけであり、他に言いたいことは特にありません。よろしくお願いします。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

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