かつて在籍していた会社には、優秀な人がゴロゴロいた。
会社では、顧客にアンケートを取っていたので「どのくらい優秀か」は数値ではっきりと示された。
優秀な人は、明らかに顧客の満足度が高く、プロジェクトの継続率も高い。
おまけにマネジャー以上になると、営業の数字もはっきりと出る。
特に受注率は重要で、優秀な人は明らかに提案を出してからの受注率が高かった。
そんな人に対して、私は「すごいなあ」という気持ちと、「悔しい」と言う気持ち、両方があり、どちらかというと「悔しい」が勝っていたように思う。
だから、彼らの実力をそのまま認めることができなかった。
もっと具体的に言えば「彼らは運が良い」「実力的にはそう変わらない」のだと自分を納得させ、彼らから学ぼうとしなかった。
教えを乞う事もしなかったし、「同行させてくれ」と頼みに行くこともしなかった。
それは「負けたような気になるから」だ。
*
しかし、そんな自分を見透かしている人も、たくさんいた。
当然だ。彼らは優秀なのだから、自分よりも未熟な人間はすぐにわかる。
だから先輩の一人は、私に向かって「素直じゃないねえ」と言った。
わたしはカチンときて、先輩に抗弁したが、まあ、彼らは優秀なので、そんなことも含めて、お見通しだった。
「そんなことしてると伸びないよ。これ以上。」
そうはっきりと指摘された。
わたしは悩んだ。
自分のプライドを取るか。
それとも「自分が無能である」と言う事実を受け入れて、彼らに教えを乞うか。
結局私は「無能だ」という事実を受け入れた。
それは、借金返済のためのカネが欲しかったからだ。
評価は客観的な指標をもとになされるから、私は高い評価を得ている人間に学ぶ必要があった。
だが一つ問題があった。
「高い評価を得ている」人間たちが、快く私に教えてくれるかどうかは、わからなかった。
彼らは忙しいし、私に、自分が苦労して得たノウハウをくれてやる義務はない。
そこで、苦肉の策を取った。
成果をあげている人物に対して、相手の人格に関わらず、本気で下手にでて、ひたすら教えを乞うことにした。
しかもそれは表層だけの話ではなく、「心からやる」ことが必要だった。
つまり「彼の能力は完全にわたしよりも上で、それについては私は一切の批判的意見を持たない」と、思うことだ。
バカなことだと思うだろうか?
しかし、私はこの決定を合理的だと思った。
なぜなら、「私は無能」なのだから、私には「彼らの行動の良し悪しが判定できない」からだ。
それが「教えを乞う」ことの本質だ。
教わりたいなら、教えてくれる人に対して、批判的であってはならない。そうして、彼らから一つ残らず吸収するように動く。
彼のやることなすこと、すべてに対して「オープン」になるようにする。
そうして、少しずつ「自分より優秀な人々」を模倣することが、唯一の生き残りの道だった。
*
後日分かったことだが、これは「教育」の本質を含んでいた。
本物の教育には、自分には知らないことが(たくさん)あると知ることも含まれている。持っている知識だけでなく、持っていない知識に目を向ける方法を身につけるのだ。そのためには思いあがりを捨てなければならない。知らないことは知らないと、認める必要がある。
何を知らないかを知るというのは、自分の知識の限界を知り、その先に何があるかを考えてみることにほかならない。
知ってるつもり 無知の科学 (ハヤカワ文庫NF)
- スティーブン スローマン,フィリップ ファーンバック,土方 奈美
- 早川書房
- 価格¥990(2025/05/04 17:54時点)
- 発売日2021/09/02
- 商品ランキング35,622位
つまり「自分がわかっていないことすら、知らない」ことを前提にすれば、とにかく「自分は下である」と思い込む必要がある。
「リスキリング」と言う言葉がはやっている。
しかし、本当の意味で「リスキル」が難しいのは、「自分は下である」ことを、行動として体現するのが難しいからだ。
なぜなら、プライドに関わることが多いから。
だから、私は今もなお、「優秀だな」と思った方に対しては、徹底して「上下関係」を自らつくりに行くのが良いと思っている。
もちろん、自分は「下」だ。
バカにされるときもあるが、別に気にしなければいいだけの話だ。
つまらないプライドで飯は食えない。
だが、成果を上げる方法さえ身につければ、もう食うに困らない。
毎回、大変ご好評を頂いている生成AIによる文章作成講座を皆さまの声にお応えして再び開催いたします。
今回は、共にベストセラー作家としての顔を持つ梅田氏と安達が、“伝わる文章、響く言葉”を生み出す技術を、生成AIと人間の役割分担を通じて解説します。
マーケターや企業の広報・編集担当者など、言葉を扱う全ての方におすすめの内容です。
ぜひご参加いただき、実務に活かせるノウハウをお持ち帰りください。

ティネクトだからこんなことが話せる!5つのポイント
・「AIと人間の最適な分業」が体系的に学べる
・“出力がビミョー”の原因と改善方法が明確に
・マーケティング・編集業務に直結する“実践演習”
・AIライティングに“人間らしさ”を加える方法がわかる
・マーケター・クリエイターに必須の“生成AIスキル”が身につく
<2025年5月2日実施予定>
AIを味方に “伝わる文章、響く言葉” を量産する技術
「刺さる言葉」は、生成AIと人間の協働でつくれる時代へ。プロンプト設計から編集技術まで、体系的にお届けします。【内容】
第1部:AI×人間時代の執筆法(安達裕哉)
第2部:生成AIとつくる、強い言葉・響く言葉(梅田悟司)
日時:
2025/5/2(金) 14:00-15:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください
(2025/4/24更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」55万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)
頭のいい人が話す前に考えていること
- 安達 裕哉
- ダイヤモンド社
- 価格¥1,650(2025/05/04 09:35時点)
- 発売日2023/04/19
- 商品ランキング115位
Photo:Sergey Zolkin