かつて在籍していた会社には、優秀な人がゴロゴロいた。

 

会社では、顧客にアンケートを取っていたので「どのくらい優秀か」は数値ではっきりと示された。

優秀な人は、明らかに顧客の満足度が高く、プロジェクトの継続率も高い。

 

おまけにマネジャー以上になると、営業の数字もはっきりと出る。

特に受注率は重要で、優秀な人は明らかに提案を出してからの受注率が高かった。

 

そんな人に対して、私は「すごいなあ」という気持ちと、「悔しい」と言う気持ち、両方があり、どちらかというと「悔しい」が勝っていたように思う。

だから、彼らの実力をそのまま認めることができなかった。

もっと具体的に言えば「彼らは運が良い」「実力的にはそう変わらない」のだと自分を納得させ、彼らから学ぼうとしなかった。

 

教えを乞う事もしなかったし、「同行させてくれ」と頼みに行くこともしなかった。

それは「負けたような気になるから」だ。

 

 

しかし、そんな自分を見透かしている人も、たくさんいた。

当然だ。彼らは優秀なのだから、自分よりも未熟な人間はすぐにわかる。

 

だから先輩の一人は、私に向かって「素直じゃないねえ」と言った。

わたしはカチンときて、先輩に抗弁したが、まあ、彼らは優秀なので、そんなことも含めて、お見通しだった。

「そんなことしてると伸びないよ。これ以上。」

そうはっきりと指摘された。

 

わたしは悩んだ。

自分のプライドを取るか。

それとも「自分が無能である」と言う事実を受け入れて、彼らに教えを乞うか。

 

結局私は「無能だ」という事実を受け入れた。

それは、借金返済のためのカネが欲しかったからだ。

評価は客観的な指標をもとになされるから、私は高い評価を得ている人間に学ぶ必要があった。

 

だが一つ問題があった。

「高い評価を得ている」人間たちが、快く私に教えてくれるかどうかは、わからなかった。

彼らは忙しいし、私に、自分が苦労して得たノウハウをくれてやる義務はない。

 

そこで、苦肉の策を取った。

成果をあげている人物に対して、相手の人格に関わらず、本気で下手にでて、ひたすら教えを乞うことにした。

しかもそれは表層だけの話ではなく、「心からやる」ことが必要だった。

つまり「彼の能力は完全にわたしよりも上で、それについては私は一切の批判的意見を持たない」と、思うことだ。

 

バカなことだと思うだろうか?

しかし、私はこの決定を合理的だと思った。

 

なぜなら、「私は無能」なのだから、私には「彼らの行動の良し悪しが判定できない」からだ。

それが「教えを乞う」ことの本質だ。

 

教わりたいなら、教えてくれる人に対して、批判的であってはならない。そうして、彼らから一つ残らず吸収するように動く。

彼のやることなすこと、すべてに対して「オープン」になるようにする。

 

そうして、少しずつ「自分より優秀な人々」を模倣することが、唯一の生き残りの道だった。

 

 

後日分かったことだが、これは「教育」の本質を含んでいた。

本物の教育には、自分には知らないことが(たくさん)あると知ることも含まれている。持っている知識だけでなく、持っていない知識に目を向ける方法を身につけるのだ。そのためには思いあがりを捨てなければならない。知らないことは知らないと、認める必要がある。

何を知らないかを知るというのは、自分の知識の限界を知り、その先に何があるかを考えてみることにほかならない。

つまり「自分がわかっていないことすら、知らない」ことを前提にすれば、とにかく「自分は下である」と思い込む必要がある。

 

「リスキリング」と言う言葉がはやっている。

しかし、本当の意味で「リスキル」が難しいのは、「自分は下である」ことを、行動として体現するのが難しいからだ。

なぜなら、プライドに関わることが多いから。

 

だから、私は今もなお、「優秀だな」と思った方に対しては、徹底して「上下関係」を自らつくりに行くのが良いと思っている。

もちろん、自分は「下」だ。

バカにされるときもあるが、別に気にしなければいいだけの話だ。

 

つまらないプライドで飯は食えない。

だが、成果を上げる方法さえ身につければ、もう食うに困らない。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」55万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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Photo:Sergey Zolkin