子育てと仕事の両立。

いまや多くの企業の悩みの種であり、子育て世代の最大の関心ごとであるこのトピック。

 

どうにか両立を可能にしようとリモートワークや時短ワークの導入、男性の育児休暇推進などをしてはいるものの、「しんどい」という声はなくならない。そればかりか、どんどん大きくなっている気さえする。

 

もうみんな、うすうす気づいてるんじゃないだろうか。

子育てと仕事の両立が、そもそも不可能だということに。

 

「妻がちゃんと働けば2億円得をする」が炎上

『羽鳥慎一モーニングショー』が「妻の働き方で世帯の生涯収入 最大 ”2億円の差” 都が試算」と報じ、炎上した。

 

そもそも妻の年収を600万円で計算しているあたり現実味のない試算なわけだが、「扶養内に収めるために妻が『働き控え』をしても、夫が受けられる優遇は計670万円しかない」という委員会の主張に対し、「働き控えってなに? ケンカ売ってんの? 働きたくても働けないんだが?」と批判が殺到したのだ。

 

一方で、最近は「子持ち様」がトレンドワードに入り話題となった。これは、子どもを理由にまわりに迷惑をかけても意に介さない親を皮肉った言葉だ。

とくに、子持ち社員が子どもの病気や行事でいなくなり、それをほかの社員が穴埋めする場面でよく使われる。

 

子育てしている側は「子育てと仕事の両立はしんどい」と言い、子育てしていない人の一部は「子持ち様は迷惑」と言い……。

 

で、思うわけですよ。

結局のところ、子育てと仕事の両立なんて無理なんじゃないかって。

 

育児も仕事も全力……なんて物理的に不可能では?

先日、我が家の愛犬クロが右前脚を痛めて、歩けなくなってしまった。

16キロある犬を抱えて徒歩で30分かけて動物病院に行くだけでもうクタクタ。薬を飲ませても一向に良くならず、痛みで夜泣きしたり、かと思えば脚を引きずりながら家のなかをウロウロしたり……5日間くらいは、まともに眠れなかった。

 

そのうえストレスなのかお腹を下し、毎朝1時間以上かけて犬用の療養食を作らなきゃいけなくなり、散歩と朝ごはんだけでもう午前中の半分が終わってしまう。

 

わたしは在宅ワークのフリーランサーだからまだいい。しかし会社勤めの夫は寝不足との戦いで、本当に大変そうだった。

……という経験をして、「子育てしながら仕事とか無理じゃない?」と思ったのだ。

たかが数日、犬の看病でさえ満身創痍だったのだ。これが継続的な子育てだったら、夫婦で共倒れしていた自信がある。

 

保育園に預けるとはいっても、子どもが毎朝おとなしく着替えや朝食を受け入れるわけもないし、深夜に起こされることだってあるだろう。そのうえ、掃除や洗濯、食事といった家事もしなきゃいけない。

それらを全部「ちゃんと」したうえで仕事も「ちゃんと」やるなんて、どう考えたって無理だよ。時間的にも体力的にも。

 

赤ん坊の泣き声がうるさいと怒鳴りこんだ老夫婦

そこでまわりからの協力を得られれば話は別だが、なかなかそうはいかないのが現実だ。

先日、同じ建物の2階に住む老夫婦が、1階に住む子育て中の若夫婦のもとへ怒鳴りこみに行ったことがあった。

 

理由は、赤ん坊の泣き声がうるさいから。

老夫婦の言い分は、「赤ん坊の声がうるさくて眠れない。うちの子どもは早朝に泣いたことなんてなかった。ちゃんと面倒を見ろ、迷惑だ」とのこと。

 

それを聞いた1階に住む父親は、「夜通し泣いているわけでもないし、そう言われたからって赤ん坊が泣かなくなるわけではない」と反論。そりゃそうだ。

 

「とにかく赤ん坊を黙らせろ!」と一歩も引かずに喚き散らす老夫婦に対し、父親も堪忍袋の緒が切れ、「じゃあどこで子どもを育てればいいんだ!」と激高。

そこで老夫婦は、「ここじゃないどこか別のところでやれ!」と叫んだのだ。

 

ああ、そういうことか。

この言葉に、「子どもは迷惑」だという人の考えがすべて詰まっている。

 

社会において、子どもは絶対に必要。それはわかっている。

でも、なにもうちの真下で育てなくてもいいじゃないか。どこかヨソでやってくれればいいのに。

 

そういうことなのだ。

子持ち様に関して、こんなポストもあった。

言いたいことはわかる。でもきっと、その理論は意味がない。

「国の将来のために、子どもはいたほうがいい。でもそれは、自分の関係のないところでやってほしい」

 

こういう考えの人に、子育てへの理解を求めても無意味だ。

「大変なのはわかるけど、望んで子どもを作ったんだから、わたしに迷惑をかけないところでやってちょうだい」で話は終わりだから。

 

「家」や「地域」での組織的な子育てが不可能になった結果

子育てが大変だから協力してほしい。

子どもは迷惑だからどっかに行ってほしい。

いったいなぜ、こうなってしまったのか。

 

昔は「家族」と「地域」という中規模のコミュニティがあって、そのなかで子育てが行われていた。

それはただ血縁関係だから、ご近所づきあいだから、というだけでなく、それがコミュニティにとって必要だったから。

 

「家」で考えれば、子どもは労働力になるし、自分が年老いたときに面倒を見てくれる。お墓も守ってくれるし、男子なら家業を継いでくれる。

「地域」で考えれば、女子は将来自分の家に嫁いでくれるかもしれないし、男が留守中は子どもを預かってくれる。男子は地域全体が飢えないように働き、災害や事故が起きたら積極的に動いてくれる。

 

子育てはコミュニティ全体にとって大きなメリットがあり、自分に利益をもたらすとわかっているから、みんなで協力して組織的に子育てしてきたのだ。

でも時代の変化により、そういった中規模コミュニティは解体され、「夫婦」という小コミュニティで子どもを育てることになった。

 

とはいえ、今まで「組織」としてやっていた子育てをたった2人でやるのは至難の業。

「男は働き女は家を守る」でしのいできたが、女性の社会進出により、いまやそれもむずかしい。

 

そこで「家」や「地域」を越えて、「企業」や「地方自治体」といったもっと大きなコミュニティが支えよう、となっていった。だから企業や各自治体は、子育て支援に奔走している。

しかし問題は、コミュニティが大きくなればなるほど、育てに協力するメリットが薄れてしまうことだ。

 

同僚の子育てに協力したところで、その子どもが「直接的に」自分に利益をもたらしてくれるかというと、そうではないから。

で、こう言うのだ。

「自分には関係のないどこかヨソで子育てしてくれ」と。

 

世間ではそれを「冷たい」と言うけれど、VUCA時代、さらに物価上昇に対し給料が上がらない現状、自分ひとりのことで精一杯な人がたくさんいるのも理解できる。

 

とはいえそう言われても、子育て中の人は「じゃあどこで子育てすればいいの」と途方に暮れるしかない。

会議を欠席してでも病気の子どもの面倒を見なきゃいけないし、かといって専業主婦になれるほど経済的余裕もない。しかし働きすぎれば所得制限をかけられる。

 

次々と出口を塞がれる迷路をさまよいながらギリギリの状態で子どもを育てるなかで、2016年の「保育園落ちた日本死ね!!!」のような悲痛な言葉が叫ばれるのだ。

 

だからもう、認めちゃったほうがいいんじゃないか。

子育てと仕事の両立なんて無理だって。

 

議論すべきは「両立の方法」より「負担の分配」

いくらリモートワークが可能になっても、ぎゃん泣きする子どもの隣で集中して仕事なんてできないよ。今までと同じ成果を出すなんて不可能。

かといって、子育て中ではない社員が代わりに多くの仕事をしなくてはいけないとなれば、それは「両立できた」とは言えない。

 

だから「どうしたら子育てと仕事を両立できるか」の答えは簡単で、「そんなの無理」。

昔だって決して子育てが楽だったわけではなく、女性の社会進出(と男性の家庭での時間)を犠牲にして子育てしていただけだ。

犠牲にしていた女性の社会進出を可能にしたのなら、新たに「犠牲」となる部分が発生するのは当然じゃないか。

 

結局は、子育ての負担をだれがどう担うかというバランスゲームなのだから。

社会保険料だってそうだ。高齢者の増加にともない、現役世代の負担がどんどん大きくなっている。

 

でもそれは「社会全体のためにはしかたのないこと」なんでしょう? 「老人は家財を売ってでも自力で医療費を払え」「野垂れ死ぬならどこかヨソへ行け」なんて言わないもんね?

 

子育ても同じはずだ。

議論すべきは「子育てと仕事の両立を可能にする方法」ではなく、「子育てによる負担の分担方法」であるべきじゃないだろうか。

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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Photo:Imani Bahati