つい先日、ベンチャー・キャピタルを経営する知人との会合があった。

 

知人はそこに、建設業界に勤める一人の若者を連れてきた。

非常に優秀な理系の若者で、ゼネコンで設計をやっており、Youtubeなどの副業や、投資も精力的にしているという。

 

将来有望だと知人が言うので、話を聞くと、

「どうしてもお金持ちになりたいんです。そのために頑張ってます。」

と若者は言った。

 

 

そこで思い出したのが、昔、中小企業の採用を見ていた時のことだ。

当時「お金が欲しい」という候補者は、人気がなかった。

多くの中小企業の経営者は「会社員なんて、結局は待遇だろ」と、お金を求める人を嫌った。

 

要するに、おとなしくて従順で、安月給に甘んじるやつが欲しい。

私はそう理解した。

そして、そんな方針の採用を見るたびに、儲かるのはオーナーだけなのだな、と思った。

 

しかし、個人的な見解を述べれば、「金が欲しい」と言わない人物より、「金が欲しい」と言い切る人物の方を採用すべきだ。

なぜなら、本当に仕事できるやつは大体、貪欲なのだ。

 

もちろん、中には金に卑しいだけの無能や、金だけ欲しがるくせに仕事しない食わせ者も当然いる。

 

だが、貪欲でない人間は、土壇場で踏ん張れない。

だから、能力が高くても、「仕事はほどほどでいい」なんて人を 雇うメリットはあまりない。

少なくとも会社を大きく成長させたいならば。

 

能力は重要だが、何かを得たい、という野心の大きさが、化けるやつの最低要件で、そういう人は一度ハマれば、会社に莫大な利益をもたらす。

 

だから、その若者のことを、率直にいいな、と思った。

「世のため」

「人のため」

といった、どこまで本気なのかわからない話は飽きるほど聞いてきた。逆に、

「趣味に生きたい」

「ほどほどに」

といった話も、同じくもう聞き飽きている。

 

だが、たまにいる。

羊に紛れて、狼が。

 

だが、カネが欲しい、という話に限らず、その枠を超えた「野心」という資質は、知力よりも遥かに貴重で、得難い。

能力と野心を兼ね備えた人物を雇えた時には、採用担当者は素晴らしい人物を雇えた、と誇るべきだ。

 

ただし、このような人材は長く組織にいつかない。

せいぜい3年から5年。どんなに長くても10年。

 

どんなことをしても、組織に隷属してくれることはない。彼ら野心家は、いつでもトップを目指すからだ。

でも、その間だけでも組織に貢献してくれれば、御の字であるし、本質的に会社と言う組織は、中の人は柔軟に入れ替わっていい。

 

 

少し前に、京大卒だが「働きたくない」と標榜する、phaという文筆家の本を、知人に勧められて読んだ。

パーティーが終わって、中年が始まる (幻冬舎単行本)

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著者は少し変わった人物で、若いときから「責任を追いたくない」「自由でいたい」と考えていたという。

 ずっと、何も背負わない自由な状態でいたかった。  お金よりも家族よりも社会的評価よりも、とにかくひとりで気ままに毎日ふらふらしていることが、自分にとって大切だった。  だから定職にもつかず、家族も持たず、シェアハウスにインターネットで知り合った仲間を集めて、あまり働かずに毎日ゲームとかをして暮らしていた。世間からダメ人間と見られても、全く気にしていなかった。(中略)

十代の頃はあまり楽しいことがなかったのだけど、実家を出てからの二十代はまあまあ楽しかったし、東京に来てからの三十代はさらに楽しかった。いろんな場所に行って、いろんな人に会って、面白いことをたくさんやった。この調子で、ずっと右上がりに楽しいことだけやって生きていけたらいいな、と思っていた。

しかし、四十代半ばの今は、三十代の後半が人生のピークだったな、と思っている。肉体的にも精神的にも、すべてが衰えつつあるのを感じる。  最近は本を読んでも音楽を聴いても旅行に行ってもそんなに楽しくなくなってしまった。加齢に伴って脳内物質の出る量が減っているのだろうか。今まではずっと、とにかく楽しいことをガンガンやって面白おかしく生きていけばいい、と思ってやってきたけれど、そんな生き方に限界を感じつつある。

面白い本だ、と思った。

 

というのも、実は著者は「やる気がない」と言いつつ、大きな野心が剥き出しに書かれているのだ。

お金なんてある奴が出せばいい。お金のあるなしと面白さは関係ない。自分は金を持ってる奴らよりも面白いことをし続けてみせる。そう考えていた。(中略)

誰か僕に2000億円くらいくれないかな。僕だったら、自分自身の利益のためにお金を使わず、多くの人が楽しく過ごせるように使う自信があるのに。お金がなくてもみんなが面白く暮らせるビルを建てるとか。そんなことをよく考えていた。

こういう人物は極めて貴重だ。

 

なぜなら、「野心」は、人に教えられて得られるものではないからだ。

だから能力と野心を備えた彼は、永いことシェアハウスとその界隈で、中心人物で居られたのだろう。

 

 

余談だが、彼のように、人との濃い付き合いが苦手なのに、野心がデカい人は、実は経営者や起業家に向いている。

変なしがらみなく、ビジネスの関係だけで繋がれるからだ。

 

経営者や起業家は、「得意なこと」だけで勝負ができる。

だから、実は経営者にはコミュ障が、非常に多い。

人の話は聞かないし、思い込みが強いし、我が強すぎて協調性もないことが多い。

 

会社員より圧倒的にコミュ障なのが経営者だ。

だが、会社員としては3流、4流でも、その卓越した能力と野心によって人を束ねれば、良い経営者となることができる

 

pha氏のように、

「中年になって衰退を感じている」

「パーティーが終わるのが怖い」と思うのなら、

会社組織を作ることを選択肢として持つといいかもしれない。

 

自分のためではなく、組織のために、人の集団のための金儲けは、自分のための金儲けとまたちがった、醍醐味と充実感がある。

冒頭の若者も、野心を持ち続け、そして突き抜けてほしい、と思った。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」60万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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Photo:Bernd 📷 Dittrich