えー、この度、妊娠しました。
……改めて書くとちょっと気恥ずかしいが、とりあえずいま妊娠5か月である。
でさ、妊娠してからすごく気になってることがあるんだけど、ちょっと聞いていいですか?
「仕事と育児の両立」の話は延々とするのに、「妊娠中の仕事」については不自然なくらいスルーされてるのはなんで?
育児の前段階には絶対に「妊娠」があるのに、「妊婦が働き続けられる環境」の話をしないのはなんで?
つわりで寝込んでるわたしでも、企業勤めを続けられますか?
妊婦って、まじで毎日体調悪いんですよ。なんの不調もない健康な状態ってどんなんだったっけ?って思うくらい。
もちろん妊娠といっても人それぞれ、あくまで「わたしの場合は」という但し書きがつくんだけど。
わたしはフリーランスだから働けるときに働くスタイルで、幸いクライアントに迷惑をかけずに仕事を続けられている。締め切りに余裕がある仕事しか受けてなかったし、完全在宅かつ個人作業だからこそできたことだ。
でも企業勤めだったら、確実に辞めてたと思う。
だって、こんな体調じゃ働けないもの。
「仕事と育児の両立をしてます」って言ってるワーママさん、煽り抜きで、どうやってつわり期を乗り越えたのか教えてほしい。
わたしは2週間で4キロ痩せて、普段は料理をしない夫が「なにか食べられるものある……? 作るよ……?」と背中を撫でるくらいだったんだけど、御社なら働き続けられますか?
12時間寝てもまだ眠くて、車も電車も乗車時間5分でギブアップ、他人の香水の残り香だけでトイレに直行するわたしでも、やっていけますか?
もしかして働き続けてるワーママって、つわり期でも1日8時間パソコンの前に座ってられるとか、電車で通勤できるとか、そういう体質の人にかぎった話なの?
それとも、働くしか選択肢がないからオフィスのトイレで吐きながら仕事してたの? まさかね……?
妊婦が仕事を辞めるのは「しかたないこと」
自分が妊娠してみて、気づいてしまった。
妊婦が仕事を辞めても、職場にとってはダメージが少ないということに。
育児中の社員は「今後も働く人」だけど、妊娠中の社員は「どうせ今後いなくなる人」。
在籍していても、どうせその後産休・育休で長期間離脱するからね。復帰しても、時短ワークだのなんだのとフルで働けないし。
「それならいま辞めてもらっても別に」って思われても、しかたないとは思う。よっぽど優秀な社員は別として、まわりからしたら、欠員が出るという結果は同じだから。
そういえばこの前読んだ仕事中の妊婦の実体験の漫画に、こんなシーンがあった。
「この段ボール運んどいてくださーい! ……あ、そういうのダメなんでしたっけ。じゃあいいです、後で自分がやるんで」
「すみません……」
って妊婦さんが謝るの。
みんなで協力してせわしなく段ボールを運んで汗をかいてるなか、妊婦であるその人はひとりデスクで事務作業。作業が終わって、みんなが「休憩しよ~」ってコーヒーを飲みに行くのを横目に、ひとり作業を続行。
いや、しかたないよね! 重い荷物を運んじゃダメだもの!
でもさ、しかたないとはいえ、やっぱり申し訳なくは思うよ。いたたまれないよ。
それと同時に、「今後産休・育休から復帰しても、子ども優先でまわりに迷惑をかけて謝り続けるんだろうな……」って想像して心が折れそう。
この漫画の著者も、心が折れて仕事を辞めてたし。
とはいえ、じゃあまわりが悪いかというと、そういうわけではない。そう、誰も悪くはない。
どんなに国や企業が「育児と仕事の両立」を掲げても、妊娠期間中に仕事を辞める人がいなくならないのは、これが理由なんじゃないかな。
単純に、「こんな状態では働けないし、いても迷惑をかけるから」。
で、それを受けてまわりも、「妊娠中はゆっくりしてたほうがお腹の子にもいいよ」「ムリしないでね」という言葉で見送る。
妊婦が仕事を辞めるのは、「しかたのないこと」だから。
妊娠中の体調不良はあくまで妊婦だけの問題
断っておくと、世の中のほとんどの人は、妊婦に優しい。
家族や友人はもちろん、クライアントの方々に妊娠を伝えたときも、思わず目が潤んじゃうような優しいお言葉をたくさんいただいた。
しかし組織で仕事をするとなったら、話はまったく別。
働けない人がいればだれかがカバーしなきゃいけないのだから。
……あ、そうか。
だから「妊娠中の仕事」について、だれも話題にしないんだ。
育児は、だれかに代わりにお願いする、分担することが可能だ。
だから、「育児に必要な時間や労力をどう分担するか」という話ができる(もちろん、分担可能=楽、ではない)。
でも、妊娠期間中はそうじゃない。
妊娠は、他人が肩代わりすることはできない。だれかが代わりに家事をすることはできても、代わりに胎児に栄養を送ることはできない。
言ってしまえば、妊婦だけの問題。
だから「働けない状態の妊婦」への対処は、「妊婦を休ませる」しかない。
つまり「妊娠と仕事の両立」の話になると、結論が「妊婦が休みたいときに休みたいだけ休めて、そのうえでこれまでどおりの給料を保証してあげる」しかありえなくなってしまう。
でもそんなの、現実的に難しいじゃないですか。まわりにとって迷惑だし、本人だってさすがに肩身が狭い。
だからみんな、その話題に触れたくないんだろうね。企業側は「働けないなら辞めて」とは言えないし、妊婦も「いままでどおり働けます」とは言えないから。
そう、きっと多くの女性は、妊娠してそのことに気づくのだ。
「こんな状況でどうやって働き続ければいいの?」と。
妊娠中も働けるのは、選ばれし妊婦だけなのか?
ネットで妊娠中の仕事について調べたとき、「早めに妊娠を伝えて、体調が悪い日のカバーをお願いするのもひとつの手段です」「安定期に入ったら上司に報告して仕事を調整してもらいましょう」なんて書いてあったんだけど。
そもそも毎日体調が悪いし、体調の変化が自分でも読めないんだよ……。だから困るんだよ……。
いや本当、フリーランスだからどうにかなったけど、企業勤めの人はどうやって生き残ったんだろう。
食べられなくてがっつり体重減って、立ち上がるときも何かに掴まらないとふらついて、乗り物に乗れなくて、些細な匂いでトイレ駆け込んで、1日12時間寝なきゃいけない状況で、これまでどおり企業勤めが成立した人、いる?
もしかして、つわりが軽くて経過順調な人だけが生き残って、サバイバルから脱落した妊婦はキャリアを諦めてるの?
あれかな、「妊娠して働けない状態ならさっさと辞めてね。で、働けるようになったら戻ってきて」っていうのが、「女性が活躍する社会」なのかな?
それとも、「そんなに仕事が大事ならなんで避妊しないの?」「タイミングを考えたら?」なんて言葉で、妊娠したほうが悪いことになるやつ?
もはや権力を握ってる層の大半が男性で自分自身は妊娠しないから、妊婦の存在を認識してない可能性まである?
本当に、どうやったら妊娠中も企業で働き続けられるのか、まったく想像がつかない。
「妊娠中働けないなら辞めろ」の先に、「仕事と育児の両立」はあるのか
とはいえ別に、「妊婦が休むのはしょうがないからまわりがフォローしろ」「妊婦が仕事を辞めなきゃいけないのはおかしい」って言いたいわけではなくて。
働けないから辞めるっていうのは、主張としては間違ってないと思う。だってしょうがないもの、働けないんだから。言ってしまえば、病気で離職するのと同じだ。
でも「妊娠中まともに働けないなら辞めるしかない」の先に、「仕事と育児の両立」が待っているとは思えないんだよな。
どう考えたって、「育児中まともに働けないなら辞めるしかない」になるに決まってるもの。
そもそも妊娠を期に仕事を辞めるなら、その後社会復帰したとしても、「出産・育児が女性のキャリアに悪影響を与えた」事実は変わらない。それじゃ、女性が活躍する社会ってなに?って話になっちゃう。
かといって、まともに働けない状態の妊婦に無理に仕事をさせるのもちがうし、妊婦は休みたい放題にすべきっていうのも非現実的だしなぁ。でも経済状況的に働かざるをえない妊婦もいるわけで……。
だからみんな「妊娠中の仕事」については話さず、「生まれてから」の話ばっかりするんだろうね。妊娠中の仕事について話したところで、解決策が見つからないから。
子育てっていうのはある日突然、「親方! 空から子どもが!」って始まるわけじゃない。その前段階には必ず、妊娠期間がある。
そこをすっ飛ばして「仕事と育児の両立!」って言われても、「その前の妊娠期間中に詰む人がいるんだけど、そこんとこどうなのよ?」って気持ちになっちゃう。
っていうのが、妊娠して仕事をしてみた感想でした。
(あ、ドイツでの妊娠・出産~育児に関して連載や出版させてくださるメディアの方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください!とちゃっかり宣伝)
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo:Sinitta Leunen