平成生まれのわたしは最近まで、「日本でストライキは起こらない」と思っていた。しかしどうやら、状況は変わってきているらしい。
2010年代後半だけでも、佐野サービスエリアや練馬区の図書館、東京駅の自販機ベンダー、私立学校の教員など、さまざまな業種で実行され、ニュースやSNSで拡散し、社会の注目を集めているのである。
また、明確に「ストライキ」をうたっていなくとも、人々にストライキを早期させるような行為も頻発している。例えば、「保育士一斉退職」が象徴的だ。耐えがたい労働に「辞めてやる」という形で抵抗することが広がりを見せている。
出典:『ストライキ2.0』
たしかに、労働者の反撃が取り沙汰されることはままある。
……なんて書いている11月20日、神奈川県内の保育園の保育士たちがストライキをしている、というニュースが飛び込んできた。
ただここに書いてある通り、日本は「企業と戦う」よりも「辞めることで意思表示する」という手法のほうがポピュラーな気がする。
事実ストライキ中の保育園では、過去5年で20人以上が退職しているそうだ。
ブラック企業に関するニュースでも、「文句があるなら転職しろ」だとか、「その仕事を選んだ自分が悪い」なんてコメントが後を絶たない。
しかし今後はさらなる労働力不足が見込まれること、そして一部の企業がジョブ型推進に動いていることから、「労働者が待遇改善を求める」機会は増えていくんじゃないかと思う。
というわけで、今回はドイツのストライキ事情を、「ジョブ型」という観点からお伝えしたい。
転職しても「同じ仕事」なら給料が上がらないジョブ型事情
ドイツに旅行に行ったことがある友人が、「ストライキで飛行機は遅延、電車も動いていなかった」と嘆いていた。
たしかにドイツでは、時折ストライキが起こる(それでもアメリカやフランスに比べれば桁違いに少ないが)。
その理由を考えてみると、労働組合が歩んだ歴史や労働者の権利意識などが大きな影響を及ぼしていることはもちろん、「ジョブ型ならではの事情」もあるなぁと感じる。
ドイツは、ジョブ型ゆえの「資格社会」かつ「同一労働同一賃金」だ。
ここでいう資格とは、「その仕事ができる証明」という意味である。
パン屋で働くならパンを焼く知識を持っている、プログラマーとして働くならプログラミングができる、という証明にあたるもの。ジョブ型では、その資格を携えて就活をする。
逆に言えば、スキルを証明できない人は、だれにでもできる仕事をするしかない。
そのせいで、「パン屋で働いていたけれど、未経験でプログラマーとしてIT企業に飛び込む」といったキャリアチェンジはハードルが高い。
職種を変えたければ、まず資格をとらないといけないのだ。
そのうえ、ジョブ型は同一労働同一賃金が基本。この仕事にはこれくらいの給料、という明確な相場がある。
日本で「同一労働同一賃金」と聞くと、正規・非正規、年齢や性別にかかわらず同じ給料をもらえる公平なものとして語られることが多い。
もちろんそういう側面はあるが、それと同時に、同じ仕事をしている以上、転職して企業を変えても大きく給料が上がらないともいえる。
皿洗いの仕事であれば、ヨソの飲食店に行っても劇的に待遇がよくなることはない。
かといって、別の仕事をできるスキルもない。
日本のように、皿洗いをがんばっていれば料理の下ごしらえを任されて、そこから料理人へ……なんて展開にはならないのだ(ミシュランに載るような超有名店なら別だが)。
だから労働者は自分の仕事の値段を強く意識していて、労働契約で仕事内容を明確にして給料を交渉する。
交渉しても仕事の値段が上がらないなら、自分の仕事の値段を上げてもらうしかない。だって、いくら皿洗いがうまくなっても、業務内容が同じならばたいして昇給しないから。
だから、ストライキで供給を止めて価値を認めさせてやるぞ、となるわけだ。
こんな事情があるから、ジョブ型社会では、「待遇に不満があるなら転職したらいいじゃん」とかんたんには言えないのである。
安い仕事をする人も、社会には絶対に必要
もちろん、「安い仕事を選んだ人の自己責任」ということもできる。
でもジョブ型でそれを言ってしまうと、安い仕事に就く人がいなくなるから、(少なくともわたしの経験上)あまりそのセリフは聞かない。
日本では、だれにでもできる仕事は新入社員が担うことが多い。
建て前では、そこからがんばれば、少しずつ仕事が高度になり順当に昇給できることになっている。
しかしジョブ型では仕事内容が決まっているので、新入社員だからとそういう仕事を任せることはまずない。
料理人として採用された新人が皿洗いをしろと言われたら、「自分は料理人なのになんで?」と言われる。
つまりジョブ型では、安い仕事をする人を別に雇わなきゃいけないのだ(職業教育中の人やインターン生、アルバイトなどを活用することも多いが)。
「嫌なら転職すれば」「その仕事を選んだ自己責任」というのは、高い仕事に人が集中する、もしくは安い仕事にしか就けないがそれじゃ生活できないので働かない方がマシ、という状況を招いてしまう。
安い仕事であってもだれかがやらなきゃいけない仕事はいくらでもあるから、社会全体として、それはそれで困るのだ。
それならストライキなどの手段によって、どの職でもちゃんと働けば生活できる環境を求めるほうが健全だし、それが労働者の権利……という考えになる。
まぁ消費者としては、公共交通機関が止まるのもかなり迷惑だし、公務員や医療関係者もストするのはちょっと……と思うが、そういう国なのでしょうがない。
ちなみに「同一労働同一賃金なら、ストライキしても給料が上がらないんじゃ?」と思ったが、「物価高に対して給料が上がっていない抗議」「業界や企業全体の賃上げを求める」「賃上げ以外の交渉(労働時間短縮など)」といった目的もあるらしい。なるほど。
日本でもストライキは「関係ない」話ではなくなる
わたしはこれまで、ジョブ型推進の際に考えるべきこと、知っておくべきことをいろいろ書いてきた。
「ジョブ型推進するなら、スキルを客観的に証明できる仕組みが必要だよ」
「職歴のために下働きする人たちが搾取されないように支援しないとね」
などなど。
話題に上がっているのを見たことがないが、ジョブ型を推進するのであれば、「ストライキの権利」もまた必要な議論だと思う。
労働人口が減ればそれだけ労働者の権利は強まるし、「辞めてやるぞ」という脅しは企業にかなり効くだろう。
日本でもストライキがたびたび起こるようになってきていることを踏まえると、「労働者自身が待遇改善を求めて戦うこと」について改めて考える時期がきたのかもしれない。
ただでさえ労働法無視のブラック企業やら手取りがガンガン減るやらで、生活が厳しくなっているのだから、労働者が仕事に適正価格を求める手段が注目されるのは当たり前のことだだ。
生活が厳しくなればそれだけ、労働者の権利への意識は強くなる。
そうすれば当然、権利を守るために企業と戦う人だって現れる。
そのうえでジョブ型の事情が加わるとなれば、その必要性はさらに高まるかもしれない。
というわけで、今後は日本でもストライキが増えてるのかもしれないなー、なんて思いつつ、ちょっと本を読んでストライキに関して勉強しようかなー、という話でした。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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