「食べて」と言わんばかりの、ふんわりと湯気が漂うワッフル。その上には固く絞られた生クリームと、とろっとしたたるチョコレートソース。
いつもなら迷わず頼んでいたけれど、今日は、今日からはもう……。
みなさんには、毎日何気なく続けていて欠かせなくなっている習慣や、自分にとって大切で「これがないと人生には必要だ」と思っていることはありますか?
たとえば、寝る前にだらだらとスマホを見てしまうことが欠かせないとか、朝食にコンビニの菓子パンを食べるとか。
それが体に良くないと分かっていても、「これくらいならいいや」「これがないと落ち着かないし」と、なんだかんだ続けてしまう行為。
わたしにとってそれは、甘いものだった。
三度の飯よりチョコレートが好き、レストランに行ったら必ずケーキも注文。カステラだってクッキーだってドーナツだってぜーんぶ大好き。
そりゃ食べすぎはよくないけど、甘いものを食べることでハッピーになるから、これらは人生を良くしてくれるかけがえのないもの。そう思ってた。
でもね、「ないとダメ」だと思っていた甘いものを食べない方が、わたしの人生は豊かになったんだよ……。
甘いもの大好きなわたしが、妊娠糖尿病で甘いもの断ちした結果
妊娠7か月目になり、明らかに妊婦だとわかるくらいお腹が出てきたタイミングで、妊娠糖尿病だと診断された。普通の糖尿病とはちがう、妊娠中特有の症状だ。
妊娠糖尿病に自覚症状はなく、体質や遺伝的な要素が大きいとは聞いていたけれど、わたしは検査を受ける前からイヤ~な予感がしていた。
おじいちゃんが糖尿病だったというのもあるけれど、「こんだけ甘いもの食ってりゃアウトでもおかしくないな……」と感じていたから(検査の話を聞くまで、妊娠糖尿病というものを知らず、たいして節制していなかった)。
ものごころついた時から甘いものが大好きで、小学生のころから毎日欠かさずおやつを食べていた。大の偏食であるわたしでも、甘いものなら食べられたのだ。
大人になってからは、在宅ワークの影響もあって、お菓子の摂取量がさらに増加。妊娠前は毎日板チョコを一枚以上食べていたし、週末はカフェでパフェを食べるのが習慣。
妊娠してから多少は気をつけてはいたものの、ワッフルにドイツの国民食とも言われる「ヌテラ」というチョコレートクリームをたっぷり塗って食べるのが大好きなのは相変わらず。
とはいえ妊娠糖尿病と言われたからには、さすがに食生活を改めなくてはまずい。わたし自身の健康だけならまだしも、お腹の子どもに大きな影響を及ぼしてしまうのだから。
そこで、再検査までの1週間、完全に甘いものを断つことを決意。
このわたしが! 甘いものを! 断つなんて!
絶対に無理!!!!!!!!
正直、最初は「どうせ途中でなにか食べちゃうだろうなぁ」と思っていた。ダイエットだって、まともにできたことがないし。
しかし母親は強しとよく言ったもので、自分でも驚くほど自制心を発揮した。
甘いものが食べたくなったときは、果物を食べたりスープを飲んだりして気を紛らわせ、食事はしっかり噛んでゆっくりと。
安西先生、チョコが食べたいです……。
でもダメだ、今回こそはちゃんと我慢するんだ!
小さい頃から砂糖漬けの食生活を送っていたわたしの体に変化が現れたのは、甘いもの断ち3日目くらいからだった。
お菓子を食べなかっただけで体調が劇的によくなった
甘いものをやめてから、お通じが良くなり、睡眠の質が上がり、昼寝をしなくても済むようになった。妊娠初期からずっと続いていた気持ち悪さも、嘘のようになくなった。
ネットで調べてみると、甘いものを食べることで便秘になったり、睡眠の質が低下したり、眠気や気持ち悪さが引き起こされることがあるらしい。
わたしはそれまで、「これらの症状はすべて妊娠によるもの」だと思い込んでいた。事実、そういう側面もあっただろう。
でも甘いものを控えてそれが軽減されたのであれば、わたしを悩ませていた体調不良の原因は、「妊娠中に甘いものをたくさん食べていたから」である可能性がかなり高い。
ってことは、だ。
妊娠以外の時期だって、砂糖の量を減らしていれば、お通じもよく睡眠の質も高く、もっと快適に暮らせていたんじゃないか?
不眠に悩まされたときだって、菓子パンをやめればよくなったかもしれない。
倦怠感でダラダラしていたときだって、つねに机の上に置いていた板チョコのせいかもしれない。
小さい頃から毎日甘いものを食べていたから、そんなこと思いもよらなかった。
大好きで、わたしの人生に欠かせないと思っていたものが、わたしの人生を悪くしていただなんて。
※これはあくまで私個人の体験談であり、医学的に正しいと保証するものではありません。
そもそもなんで甘いものが必要だと思っていたんだろう?
もちろん、甘いものを摂りすぎるのが良くないということは知っている。
それでも「食べすぎには気をつけよう」くらいの認識で、正直そこまで悪いとは思っていなかった。だって甘いものは美味しいし、食べると幸せな気分になるし、食べないなんて考えられないし……。
ほら、「寝る前の晩酌が欠かせない」とか「暗い部屋でずっとスマホを見ちゃう」とか、よく言うじゃないですか。あれと同じ。
でも今回人生で初めて甘いものを1週間断ってみて、改めて思った。
「わたしはなんでこんなにも、甘いものに執着していたんだろう?」
そりゃおいしいよ。
でもかなりお金もかかるし、体に良くないし、そもそもお菓子じゃなくても食べるものなんていっぱいあるじゃないか。
もはや甘いものを食べることが癖になっていて、「甘いものが食べたい」というよりも、「食べないと落ち着かない」「気づいたら食べている」状態だったのだと思う。
だから、甘いものがわたしに悪影響を及ぼしていることに、まったく気づいていなかったのだ。
悪い習慣でも「自分にとってはいいもの」と思い込んでしまう
実は夫も最近、似たような経験をしていた。
夫は毎日職場で3杯もコーヒーを飲んでいたらしい。でも仕事が忙しくてよく寝れない日が続き、食欲も落ちていた。
「とりあえずコーヒーをやめてみたら?」と提案し、夫は代わりにノンカフェインコーヒーを飲むように。
すると数日で睡眠の質が改善され、食欲も戻ったらしい。おそらく、体質的にカフェインが合わなかったのだろう。
それでも夫は半年以上、「コーヒーは美味しいし集中できる」と言って飲み続けていたのだから、人間とは不思議なものだ。
きっと夫もわたしと同じで、コーヒーは「そんなに悪いものじゃない」「欠かせないもの」「自分の人生を良くしてくれるもの」だと思って、何気なく飲んでいたんだろう。
そういえば友だちも、学生時代からずっと朝食抜きだったけれど、結婚してからパートナーと一緒に朝食を食べるようになって、午前中のパフォーマンスの質が爆上がりしたって言ってたっけ。
寝る直前までPCゲームをしていた友だちも、「勤務時間が変わって早起きになったから寝る1時間前にゲームをやめるようにしたら、ぐっすり眠れるようになった」と言っていた。
朝食は食べたほうがいい、寝る前のゲームは控えるべき、というのは誰もが知っていること。
それでも、「これくらいいいや」「リラックスには必要だし」と、自分にとってはいいものだと感じてダラダラと続けてしまうのだ。
人生の質を上げたければ、悪癖に気づくことが大事
習慣に関する本や理論はたくさんある。
それらには大抵、「意思を強く持て」「継続しろ」「言い訳するな」「目標を決めろ」なんて書かれている。
でも、そもそも自分が悪い習慣を繰り返しているということに気づかなければ、何も変えられない。
習慣を変えるうえで最も重要なのは、それに気づくことだ。アインシュタインが言っているように、同じことを繰り返して違う結果を得ようとするのは愚の骨頂である。
人生で違う結果を得たいなら、新しい習慣を確立する必要がある。努力して自分を律すれば、それは比較的簡単にできる。
出典:『習慣を変えれば人生が変わる』
そう、大事なのは気づくことだ。
普段何気なくやっていることが自分に悪い影響を及ぼしているのなら、新しい習慣を始めるよりも、まずはそれを改めなきゃいけない。
とはいえ自分自身で悪癖に気づくのは、なかなかむずかしい。
わたし自身、妊娠糖尿病と言われるまでは、「ちょっと控えればいいだろう」といつもよりは少ないものの、それでも日常的に甘いものを食べていた。
だってそれは、自分にとっていいものだから。それによって自分はハッピーになっていると信じているし、これくらいは別にいいだろうと自分を甘やかすことで息抜きをしているから。
だからこそ、自分の生活のなかで何気なく繰り返している習慣が、本当に自分にとっていいものなのかを考えるきっかけになればいいなぁ、と記事を書いてみた。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
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